Vol.735 14年12月27日 週刊あんばい一本勝負 No.727


靴収めもし、東京出張

12月20日 「こだわりの味」などと銘打った居酒屋には入らない。といっても最近の宴会はほとんどそれを売りにしたチェーン居酒屋ばかり。「こだわり」は風化し手垢まみれの陳腐な言葉だ。気にするほうがヘンといわれそうだが実は毎日、「こだ割り」というセンベイを食べている。そのせいで気になるのだ。甘い間食は我慢しているので、この濃厚たまり醤油味のセンベイが間食の定番だ。毎日飽きることなくポリポリかじっている。正式な商品名は亀田製菓「技のこだ割り・荒砕きひとくち堅焼」。ネーミングがいい。どこのコンビニでも売っているところをみるとベストセラー商品なのだろう。かなり堅いので、すっかりアゴが強くなった。一人分用にパックされているので食べ過ぎも防げる。歯も強くなった、ような気がする。「こだ割り」のおかげで健康になった。

12月21日 今日は五城目・森山。靴納めである。前夜、温度が緩んで屋根から溶けた雪が雨垂れになってうるさかった。それが突然、天から轟音と共に寒気が舞い降りてきて、雨垂れはピタリと止まった。雪は降らなかったが風で雪はカチンカチンに凍っていた。山も歩きにくかったが靴納めにはちょうどいい運動量。森山は小さな冬ハイクにちょうどいい山だが、急峻な鎖り場や鬱蒼とした杉林、大潟村を一望できる眺望などもあり、山の醍醐味が一通り味わえコースだ。今日のリーダーは地元のNさん。前日わざわざコースを下見し、飽きないように往複路を工夫し、コース設定してくれたもの。満足の靴納めになった。数えていないが今年は40座ほど登ったかな。それを支えてくれた山や人に、そして自分の体調に感謝。

12月22日 録画していた加山雄三の「若大将シリーズ」と俳優・森山未來の1年間のイスラエル留学セルフ・ドキュメンタリー「おどるあほう」(NHK)を続けて観てしまった。高度成長期の青春と現在の若者の、その間にある重層的な「深い溝」について考えこんでしまった。若大将の向日的で屈託のない青春は憧れだった。でも背景にある「つくりもの」の嘘くささはチョー恥ずかしいものだ。一方、人種や肉体の壁を軽々と越え、質の高いパフォーマンスで世界と渡り合いながらも森山は苦悩し漂い苛立ちの中で茫然としている。加山(若大将)よりも森山のほうが人間としても表現者としても数倍、成熟しているようにみえる。この青春の断層はいつどこからはじまったものなのか。よくわからない。唐突だが、加山と森山の断層に「ホリエモン」をいれこんでみた。なんだか少しは「通り」がよくなった気がする。「若者」を考える時、ホリエモンの存在は小さくない。

12月23日 ジリジリ体重が増えている。これはヤバイので夕食を抜いた。一挙に減らして後はそれを維持する、という、いつもの作戦だ。「抜く」といっても昼と同じくリンゴとカンテンだけは食べる。空腹はリバウンドの源だ。最近、酒もそんなに呑んでいない。なのに食べたものがすぐに「肉」になってしまう。これは体質なのか。毎日体重計に乗る習慣もいいのか悪いのか、最近は考えてしまう。それにしても今年はリンゴをよくも食べた。1年間に食べたリンゴの量をアバウトに計算してみたら「500個」という数字が出た。毎日一個以上食べているから、ほぼ正確な数字だ。これで昼は炭水化物食べ過ぎをクリアーしてきたのだが、それにしても500個はちょっと多いなあ。

12月24日 出版の世界でも10大ニュースが発表された。ほとんどその内容は世間様とはかけ離れた「暗め」のものばかりで、業界が縮小を続けていることを実感する。「出版ニュース」によれば今年の10大ニューストップは「特定秘密保護法施行」、2位は「電子出版権認められる」、3位は「謙韓・謙中本続出」、4位は「朝日新聞誤報問題」、5位は「児童ポルノ禁止法成立」といった具合だ。法律に関する話題が多いが、これはすべて立法に批判的な立場からのランクイン。消費税増税で不況感が強まる中、追い打ちをかけるように出版や表現の自由に対する手かせ足かせが厳しくなっている。ミリオンセラーは『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』一点のみ。もう何ともしょうがない。

12月25日 62歳の週刊誌記者が書いた認知症早期治療体験ルポを読んだ。釈然としなかった。「もの忘れ外来」に飛び込んだ理由が不自然すぎる。俳優の名前が出てこない、漢字を忘れる、予定をダブルブッキング、といった程度で還暦過ぎの男が病院に行くだろうか。そんなのは普通の老化で誰にでもあることだ。ルポには前提になるボケの自己体験エピソードが少なく、わざわざルポする理由そのものが脆弱なのだ。家族を家族と認知できなくなる、自分の排せつ物をみて意味がわからない、自分の名前が思い出せない……こうなればれっきとした認知症だが、ルポを読む限り、こうした深刻な症状はおろか、その手前のエピソードすらない。せいぜい取材先に携帯電話を忘れてくるぐらい。これでは説得力がない。そればかりか高齢者のほとんどが「これで認知障害なら自分も」と思ってしまう危険性すらある。そっちのほうが心配だ。

12月26日 今日から東京。業界の友人たちとの忘年会に出席するためだ。この際だから何人かの人と連絡を取ってあいさつ回りもしてくる予定。近頃は東京に行くのがおっくうになって、御無沙汰のかたが多い。いい機会なのでまとめて片付けてしまおうだ。帰ってからもすぐ中学教師S君と二人忘年会が待っている。年越しの頃には体重がどんなふうになっているか心配で夜も眠られない。2年前のダイエットで10キロ体重を落とした。その後はリバウンドに気をつけて暴飲暴食を極力避けてきたが、毎年、この時期が大きな壁だ。今年は数百グラムずつだがジワジワと体重が増えだしているさなかの師走、心中穏やかではない。
(あ)

No.727

波の音が消えるまで
(新潮社)
沢木耕太郎

 千ページ近い上下巻のエンターテインメント小説である。驚いたのは本が「並製本」(フランス装と言われる上質の製本だが)だったこと。出版社にとってドル箱ともいえる人気作家の新刊は上製本が常識だ。小説なのでいつもの沢木本ほど売れないと判断したためなのだろうか。まあフランス装もそれなりに上品な製本ではあるのだが。それはともかく、仕事もほったらかしで上下巻を2日間で読了。今年読んだ本のベストワンは上原善広『石の虚塔』(新潮社)というのは揺るがなかったが、ちょっとその信念がぐらついたのも事実。舞台は香港返還前日のマカオで、バカラ賭博の物語だ。まったく興味を抱けないテーマや舞台設定にもかかわらず、一気呵成に読了。いやはやすごい筆力だ。著者の代表作である『深夜特急』と並ぶ力作といっていいかもしれない。エンターテインメント小説なので賛否両論あるだろうが、これが直木賞をとったりしたらニュースバリューは抜群だろう。斜陽産業に活気が戻ってくるかも。後日、新聞に載った著者インタビューに、本書は中国の映画監督ウェイ・ワンからの映画用のシナリオ執筆依頼に端を発したもの、とあった。なるほど、ほとんど映画の世界だものね。ちなみに製本のフランス装は、ちょっと中味のおしゃれな本などに採用されることが多い製本方法だ。こうした長編娯楽小説に使われるのは珍しい。作家側からの強い要望があったのだろうか。

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