Vol.734 14年12月20日 週刊あんばい一本勝負 No.726


時代の流れは速いようで遅い

12月13日 人気ブログを運営する「ちきりん」が書いた『「自分メディア」はこう作る!』(文春)という「紙の本」を読んだ。面白かった。彼女の言うことが心に突き刺さってきた。紙の本の時代は終わったんだなあ、という意識が確信になった。紙の本の限界を「紙の本」が教えてくれた、というのも矛盾のようだが、著者は「紙の本」にまったく幻想を抱いていないのだ。同じくネットにも一獲千金や有名人になるバブリーな夢を抱かない。ここが潔く先見性のあるところだ。両者への目配りアンバイが絶妙で、ネットの危険性を熟知し、リアル・メディアの部分的優位性も認めている。で、どちらにも過大な期待や幻想は抱いていないのだが、ネットの大きな可能性だけは信じている。もしかすると、ブロガーといわれる人たちは、かなり成熟しつつあるのかも。衰弱しつつある「紙の本」に、もうあまり希望は残されていないのかもしれない。

12月14日 太平山前岳に登る予定だったが、天気予報は「大荒れ」なので急きょ中止。昨日、前岳に登った人の話だと、やはり登山客はほとんどいなかったそうだ。前岳は秋田市の交通の便のいい雪山登山の人気スポット。さすが吹雪の新雪の中をつぼ足で歩くのには躊躇があったのかも。で、午前中、ぽっかり「空白」が出来てしまった。選挙に行って散歩をし、録画した映画をみて、鼻くそほじくって過ごすしかない。夕方からはモモヒキーズの忘年会だ。会場の駅前居酒屋までは歩いて行こう。平場ならいくら吹雪いても関係ない。散歩もアウトドアライフ、基本的に吹雪は嫌いではない。帰りも歩いこよう。飲み会の翌日は2キロも体重が増えている。宴会は楽しいが、とにかくこれがユーウツの種なのだ。

12月15日 ずっと冬靴を探していたのだが、西武デパート3階の紳士靴売り場で、ようやくお気に入りを発見した。雪の中を長く歩ける丈夫な防寒靴だ。欲しいものが見つからないときは仙台や東京で買うケースが多いのだが、雪靴は都会よりも雪国のほうがバリエーションが充実している。東京でレヴェルの高い雪靴を発見するのは至難の業。長年の懸案がひとつ解決してほっとした。さっそくモモヒキーズ忘年会に履いて出かけた。その忘年会でひとつ気になることが。10人近い参加者の誰ひとり日本酒を注文しなかった。カロリー過多を気にしているのだろうか。かくいう小生も焼酎一本やり。全員がビールか焼酎を呑んでいた。これはうちらだけ(年寄り)の傾向なのだろうか。なんだかちょっと気になる。

12月16日 数年前から出版物の誤字やミスを指摘する手紙や電話、メールが、肝心の本を買っていない人からくるケースが多いことに気がついた。ほとんどの人が図書館で借たり、友人の本をみて「気づいて」連絡してくるのだ。先日は宣伝用チラシに掲載した目次をみて「違うのではない?」と手紙をくれた御仁もいた。本を買っていないのはともかく本を読んでいないのだ。目次は「○×は外来語か?」という見出しで、その御仁は「○×は外来語ではありません」と延々と自説を開陳していた。本文を読めばわかるのだが、内容は「○×は外来語ではない」ことを典拠をあげて解説したもの。こうなれば言いがかりどころではない。これまでは図書館で読んでというケースが多かったが、ついにチラシの目次で文句をつけてくる人が出てきたわけである。なんともシンドイ状況だが、これが現実だ。「モンスター・ペアレント」なる連中と対峙する教師たちの心境が少し理解できた。

12月17日 朝、新聞を読みながら切り抜きする。その際、テレビ番組欄もチェックして、その日見たい番組を予約録画する。夜の貴重な時間をテレビのために犠牲にしたくない。これをはじめてから1週間、読む本の量が飛躍的に増えた。最近は午後からけっこうヒマになるので、その時間帯に録画したもの(映画やドキュメンタリー)を観ている。TVのドキュメンタリーには興味深いものが多い。例の佐村河内事件で問題になった「NHKスペシャル」は、何度も上層部のチェックが入るテレビでは最も審査の厳しい番組だそうだ。それが佐村河内事件の讃美放映で大失態を演じたのは、ディレクターがフリーの契約社員で、先行したTBSなどの2本の番組も同じ人物の制作だったことに要因があった、と発売されたばかりの神山典士著『ペテン師と天才』(文春)に書いてあった。

12月18日 何もない穏やかな(天候は別にして)1日になりそうだ。と思っていると思いもかけない事件や仕事に襲われる。新聞広告でお世話になっている代理店から、「Y新聞読書欄下に「穴」があいた。今日中に広告原稿を入れてほしい」という切迫した電話。こういう依頼はめったなことには断らない。広告代が格安になるからだ。いや価格の問題だけではないけど。すぐに原稿をつくり、デザイナーに依頼、版下を入稿して、21日には全国紙掲載という段取りになる。いろんな人たちが綱渡りで仕事をしている。その臨場感のただなかに入るのは刺激的だし細胞も活性化する。そういえば講演依頼や雑誌取材も、冷静に考えると明らかに急に「誰かのピンチヒッター」として選ばれているケースが少なくない。これも何かの縁と、素直に引き受けることにしている。「意外性」というやつが好きなのかも。ただの天の邪鬼だろ、という人もいるが。

12月19日 電子書籍の普及に100年はかかる。という大胆でユニークな未来予測をしている人がいた。永江朗さんというフリーライターだ。この人の書く出版関連書籍は精度が高く信頼できる。その根拠は、ケータイ電話の普及は突然のように言う人もいるが、実はベルの発明からゆうに100年以上の時間が経過している、というものだ。電子書籍が暮らしの中に溶け込むのには結局そのくらいの時間が必要なのだ。う〜ん説得力あるなあ。閑話休題。ちょっと古い文庫本を読んでいたら版元が「旺文社」だった。そういえば半世紀前の中高生の頃、本を読むといえば旺文社文庫一点張りだった。文庫全盛の時代などと騒いでいるが、50年前も本は90%文庫で読んでいたわけだ。「文庫は価格破壊商品だ」といったのは出版ジャーナリストの村上信明さん。時代の流れは速いようで遅い。
(あ)

No.726

米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす
(エクスナレッジ)
M.A。バートン・/関根光宏訳

 マイケル・ブース著「英国一家、日本を食べる」(亜紀書房)は上下巻とも圧倒的なおもしろさだった。グルメな外国人フードジャーナリストの書いた優れた日本人論で、世相風刺も効いたユーモアも満載の本だった。下巻は少々つけたし風で、上巻ほど面白さはなかったのだが要は下巻を出さざるを得なかったほど好評だった、ということなのだろう。この本を読了したばかりなのに今度は本書を読みだした。パクリ本、2匹目のドジョウ本というには、時期も書名も内容も、まったく同じ。あまりといえばあまりだ。これだけ似た本が堂々と売られるのは出版業界では実は珍しい。かなり「たちの悪い類似本」か、前著のパロディ本なのかも? と、そんな興味から買ってしまったのだ。しかし、これが意に反しておもしろかった。版元は「株式会社エクスナレッジ」。聞いたことのない版元だ。たぶん出版業界とは関係のない会社なのだろう。同じ業界でこんな思い切った類似本は作れない。無関係な業界だから横紙破りが可能だったのだろう。問題は中身だ。シアトルからやってきたフード・ライターが家族で中野にアパートを借り日本の「ソウル・フード」を食べ尽くすお話だ。このシチュエーションも前著とまったく同じだが、取り上げる日本食が徹底的に「近所のB級グルメ」にこだわった、というところがミソなのだろう。アメリカで出版された本書を読んで、その面白さに書名だけ便乗させてもらった、というあたりが正解かな。

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