Vol.1299 2025年11月22日 週刊あんばい一本勝負 No.1291

COP30について書いておきたい

11月15日 隣は空き地だったのだが買い手が決まったようで、先週から基礎工事が始まった。家のリフォームもようやくすべて終わった。9月10月と台所からトイレのドアまで、カミさん念願の、「ほころび」を繕い終わった。もうバタバタはけっこう、静かに暮らしたい。とはいっても、根が小心者で心配性だ。まだ起きてもいない未来を先取りして「不安」にかられてしまう性格だけは直りそうにない。

11月16日 九州場所の最中だが集中できない。九州が特に多いような気がするのだが、客席に着物姿の女性が目立つ。ただの女性たちではない。あのテレビに映る席というのは何十万円もする(と聞いたことがある)。99パーセント訳アリの女性たちとみて間違いない。一昔前、あのテレビに映る席に暴力団系の親分やその妻を座らせ、刑務所で観ている子分たちに「無言の激励」を与えていた、ということをある作家が書いていた。博多の粋筋の女性たちも少なくないのだろうが、背後にはもちろんスポンサーがいる。相撲よりもそちらの女性たちの物語に思いをはせてしまうのだがから、こまったものだ。

11月17日 腰が痛い。痛いというか重い。重いというかだるい。全身の、いや心身の疲労が一か所に蓄積してしまったような感じだ。普段通りに暮らしていても疲れが「抜けずに」溜まっていく。これが老人というものなのだろう。食欲もあるし、労働意欲も衰えていない。クマのせいにして山歩きはしばらくご無沙汰だが、隙あれば外に出たいと思っている。なのに腰だけに勝手に疲労が宿ってしまう。

11月18日 いまブラジル・ベレンで地球温暖化対策を話し合う国連の気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)が開催中だ。開催地のベレンはアマゾン川河口の人口150万人ほどの都市で、流域からは1000人以上の先住民(インディオ)たちも参加しているという。5年に一回開催されるもので世界中が注目する会議だが、日本ではNHKがアマゾン流域の環境破壊や、文明世界と未接触の人々「イゾラド」の特集番組などを集中的に放映している。私も20年程前、このアマゾン上空をテコテコというセスナ機で飛んだことがあるが、アマゾンの森は所々が十円禿のように焼き払われ、緑が消えていた。牧畜のため森に火を放っていたのだが、今はどうやら大豆栽培のためのようだ。あんな森なんか焼き尽くせ、というボルソナロが大統領選で負けたのが救いだったが、森林破壊の大津波はまだ収まっていないようだ。

11月19日 夜の読書はなかなか物語が核心に入らない「白鯨」にイライラ。こんな時はスカッとした冒険活劇エンターテイメントでも読みたい。ということで普段は手に取らない金融情報小説と銘打たれた橘玲『マナーロンダリング』(幻冬舎文庫)を読み始めた。自分のまったく知らない世界に踏み込んでいく快感がある。香港在住のもぐりの金融コンサルタントの日本人が主人公だ。これに脱税指南の日本人顧客が絡んで、マネーをめぐるヤクザや謎の美女、同僚の香港人たちが入り乱れ、物語は進行する。解説はまだ30代の元大阪国税局総務課長の「玉木雄一郎」という人物。この解説もなかなか読ませるのだが、えっ玉木雄一郎?!。本が書かれたのは2002年、この時点で30代半ばということは年代的に間違いない。国民民主党の党首が4半世紀前、この驚天動地の金融小説の文庫本解説を書いているのだ。

11月20日 COP30についてもう少し書いておきたい。この国連の気候変動対策の最初の会議が開催されたのは確か94年だった。ここからアマゾンの日本人移民の農業が大きく変換した。それまでアマゾンの農業は森林に火を放って農地を広げる原始的な「焼き畑」だった。私自身、70年代後半、このアマゾンの焼き畑農業をリアルに見て、あまりのその壮大な「原始的農業」に腰を抜かしそうになった。森に火をつけ1週間も2週間もほっておくだけなのだ。過去35年間で失われた地球の森林面積は4億9千万f、世界第2位の面積を誇るブラジル全土と同じ大きさだそうだ。日本の国土面積は3千8百万fだが、アマゾンではこの1年で東京と埼玉を足した面積の森林が消失している。アメリカがパリ協定から離脱を表明している中、ブラジルに進出している日本企業は、放棄された農地を復活させる試みや、日本人入植者のつくるカカオ(チョコレートの原料)の殻からバイオで食器を作るなど、地道な再生農業の道を模索しているという。森がなくなると雨が降らなくなり、干ばつが進み、生産力が落ちる。それが巡り巡って気候変動の引き金になり日本に自然災害をもたらす。地球の反対で開催されているCOP30に注目してほしい。

11月21日 週に一回は近くのスーパーに自分の昼用の食糧調達のため買い出しに行く。家の夕食のための買い出しもカミさんに運転手として同行する。スーパーはいつも人であふれている。そのスーパーで使う金額が2倍近くになった。2,3年前まで「3千円台」で済んでいた買い物が、いまは5千円札でおつりがこない。コロナ禍が明けて晴れて定年退職を迎え、退職金をどっさりもらい、さあこれから老後を楽しむゾ、と鼻息荒かった方々は意気消沈だろう。私自身は他所事ながら80年代のブラジルの「狂乱のインフレ」の現場をリアルに見ている。一夜にしてモノの値段が2倍になり、銀行からおろすわずかな現金でさえカバンや新聞紙が必要だった。あんなことは自分の生涯で経験することはないだろう、と思っていたのだが……。 

(あ)

No.1291

井上有一の書と戦後グラフィックデザイン
(1970s―1980s)
渋谷区立松涛美術館
 私にも「推し」がいる。その「推し」、書家の井上有一の展覧会「井上有一の書と戦後グラフィックデザイン1970s−1980s」が、東京の渋谷区立松涛美術館で開催中、上京して観てきたのだが、何度見ても感動する。本書は会場だけで買える2500円の図録カタログだ。一般的には手に入らないので2部買おうと思ったが、それはやめた。 井上の書を初めて見たのは30年程前だが、本当に鳥肌が立った。以来大ファンだ。コロナ禍前、生誕100年を記念する展覧会が金沢市の21世紀美術館で開かれたが、これももちろん駆けつけている。今回の展示は「戦後デザイナーたちとの仕事」も一緒。井上の作品だけで十分なのに、と「推し」は不平たらたらだったが、これは田舎者の偏見、井上の書を「素材」にした杉浦康平のブックデザインや、木村勝、田中一光、早川良雄、浅葉克己といった人たちのイラストや写真、ポスターなど、実に素晴らしかった。井上の過激な書と、対等に競い合えるデザインの力を再認識した。最も感動した杉浦康平ブックデザインの『井上有一全書業』全3巻の値段を(念のため)調べたら古書価88万円だった。これはいくら「推し」でも無理。

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