| Vol.1298 2025年11月15日 | 週刊あんばい一本勝負 No.1290 |
| 盛岡は魅力的な街だなあ | |
11月8日 本を買うのはアマゾンよりも「日本の古本屋」のほうが多くなった。未来社の「宮本常一集 22」を買い求めた。全集の中の一巻だ。布装ハードカバーの本だが、値段はわずか1600円(送料200円)、しかし背表紙にシールが。図書館本などでかならず貼ってあるやつだ。えっ万引き本なの? とイヤな気分になった。調べてみると所蔵印は本文ではなく天地の紙幅の部分に目立たないように押されて、「長崎大学所蔵」とあった。でも盗難品とは限らない。図書館の払い下げ本という線も考えられるからだ。古物商の免許条項には「盗品を買えば買ったほうも罰せられる」という一文があったような気がする。送り主の古本屋は名前のある古本屋で住所氏名もちゃんと公表している。とすれば「払い下げ品」と考えていいのかもしれない。ちなみに本は美品で傷みも汚れもなかった。でも何となくいやな気分だ。
11月9日 秋田の話題といえばクマとお思いでしょうが、さにあらず。地元紙はかなりの熱量で雄物川高校バレーボール部の監督暴力事件を追及している。クラブ活動の体罰に関しては、私にも言いたいことがある。昭和24年生まれなので高校時代のクラブ活動の体罰は当たり前だ。大学進学率も低く、私の所属していた柔道部に入ってくるのは、ほとんど農家の子どもたちだった。卒業後は8割近くが警察や自衛隊に「就職」する。柔道の黒帯は、その就職の際の資格になったのだ。先輩たちの理不尽な体罰のたびに、「軍隊って、こんな感じだったんだろうな」と思っていた。当時のクラブ活動は軍隊の暗い影をはっきりと引きずっていた。「水は絶対飲むな!」といわけのわからない理屈も、外地の戦場で飲み水に毒を流される危険を避けるため、軍隊危機管理のルールのひとつなのだ。そんないや〜な時代を潜り抜けてきたものとして、今の体罰報道を見るたび、やるせない怒りがこみあげてくる。 11月10日 70歳を超えてからの自慢は小さな文字が読めること。印刷物はもちろん、飲食店のメニューから食品に張られた成分表示や取扱説明書まで、もう何の苦もなくスラスラ読めた。周りの人たちの苦労を尻目に、裸眼で文字を読み上げ、一人優越感に浸っていた。ところがこのところ、目がショボついてものがかすむようになった。テレビの天気予報の数字がぼやけるようになった。この頃パソコンに向かっている時間が長くなり疲れ目の可能性も高い。日に3度も目薬を差すのだが改善の兆候はない。このまま「人並み」の老眼になっていくのだろうか。高校に入ってから眼鏡をかけ始め、ずっと近眼だったが晩年はそれが幸いしたのか、老眼から免れていた。どうやらもうダメかも。 11月11日 酒田市の友人と山歩きする計画が流れてしまった。クマである。もうほとんど数年前のコロナ禍とそっくりだ。外出のスケジュールは「クマ」を基準に考え直さなければならなくなった。8年前に加藤明美さん撮影の『秋田市にはクマがいる!』という写真集を出した。加藤さんはそのころから「クマはもう山ではなく里で出産して、すぐそこで暮らしてます」と言っていた。そこで写真集は、ちょっと気をてらった、尖がった書名を付けたのだが、もうすっかり現実が書名を追い抜いてしまった。そのカメラマンの加藤さんはマスコミに追い掛け回され大忙しだが、その合間を縫って事務所に来てくれる。そこで最新の「秋田市のクマの現状」のレクチャーを受けているのだが、加藤さんでしか知りえない「現場」情報満載で驚くことばかり。牧場のエサ用サイロのハンドルを操作して食べているクマを見た、という情報を聞いたのはもう3年程前だ。その数年前から加藤さんは田んぼで生米を食べるクマの話をしていた。 11月12日 大潟村のI君から新米20キロを頂いた。酒蔵「天の戸」の杜氏、森谷康市君から何十年も当たり前のようにお米を頂く生活をしていたのだが、彼が突然亡くなり、さらにこのコメ騒動で、去年はじめてスーパーで米を買った。そんな窮状を見かねたのか、昔、『頭上は海の村』(現代書館)という本を書いたときに取材したI 君が贈ってくれたものだ。当時、大潟村の青年たちは独身でみんな20代だった。近所のスポーツクラブで知り合ったのだが、彼らも今は50代、息子たちの時代に入っているという。時のたつのは早い。昼に新米を味わいながら、来し方をしみじみ振り返っている。 11月13日 今日は日帰りで盛岡出張。行き帰りの新幹線で読む本はメルヴィル『白鯨』。上下巻の上巻、それも半分読み終わったあたりで、ようやくおめあてのエイハブ船長が登場する。こののんびり感はつらい。夜に読んでいても30分ほどで先に進めなくなる。面白くないわけではないのだがストーリーがなかなか先に進まない。新幹線で「上巻」は一挙に片付けてしまう腹づもりだ。この角川文庫版海外作品は活字もゆったり、難しい感じにはルビが振ってあるので、読みやすい。 11月14日 夜遅く新幹線で盛岡から帰ってきた。県内で一番遠くに行くのは高速道で行く湯沢市だが、高速料金は往復5千円近く。ところが盛岡往復は「大人の休日切符」で同じく5千円台で行ける。おまけに車中で本は読めるし、おいしい飲食店もたくさんあり、友人もいる。逆に湯沢市には縁のある関係者はほぼなし、面白そうな飲食店も皆無、行って用事を済まして帰ってくるだけだ。運転していくので気苦労でぐったりするおまけまでつく。これなら圧倒的に盛岡に「ひっこり出かける」選択肢のほうがお得だなあ。そんなことを感じた盛岡行きだった。終電が遅くまであるので泊まる必要がない。お酒が飲めるし、車中は本が読める。街が秋田市よりも華やかで文化の香りが残っている……というあたりがアドヴァンテージだ。古本屋や新宿のゴールデン街を思わせる桜山神社付近を歩きながら、そんな思いにとらわれた。これから盛岡行きの機会が増えそうだ。 (あ)
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