Vol.1072 21年7月17日 週刊あんばい一本勝負 No.1064

地図が読めるようになりたい!

7月10日 明日は鳥海山峰のひとつ笙ヶ岳に行く予定だ。いつもの払川ルートではなく庄内側・吹浦コースだ。故藤原優太郎が大好きなコースで、私も何度となく連れて行ってもらった。払川ルートは石段が多く、帰りはこれが腰にこたえるので吹浦コースを選んでいたようだ。今日は朝から山の弁当つくり。サラダに卵焼き、ブタの生姜焼きやお新香も。おにぎりも自前だ。汗っかきなので大量の水(2.5?)も冷蔵庫に入れておく。ランチはコンビニで買ってしまう手もあるが、やっぱりおいしくない。

7月11日 朝4時起き。雨は降っていないが予報は午前中に大雨が降るという。急きょ出発直前にSシェフが中止の決断。近くの東光山に変更。さいわい雨こそ降らなかったが、代替の東光山もけっこうきつい山で登りに2時間、下りにたっぷり1時間40分をようした。風もなく蒸し暑い山で汗だくで降りてきた。家に帰ったのは午後2時。早起きは無駄だったが、たっぷり昼寝ができた。

7月12日 昨夜の雷雨はこれまでの人生の中でも「最も長く激しい」荒れ模様だった。いつまでたっても雨脚が鈍らず、稲光は止まなかった。昨日の東光山は幸いにも雨にあわなかったが、家に帰ってホッとして、ラーメンを食べに行った帰り、ものすごいに夕立に襲われた。そういえば東光山の登山道の土砂崩壊もひどかった。山中であの「熱海」と似たような風景を何度も目にした。これは山に入らなければ知りえなかったことだ。

7月13日 近所の太平川の水位を見に行ってきた。警戒警報も解除され晴れ渡ったので危険はないと判断してのことだ。その昔、この川が氾濫し、息子を幼稚園に送り届けられなかった苦い記憶がよみがえった。茶色の水が音を立てて流れていた。まだ水は引いていない。川のそばで農作業をしていた住民がいたので会釈すると、いきなり「こっちの気持ちもわからず、いい気なもんだ」と面罵されてしまった。カメラをぶら下げ、片手にコンビニのコーヒーの格好が、たぶん物見遊山の野次馬に思われたのだろう。そういわれればグーの音も出ない。でも、いきなり罵倒されるいわれもない。農地に勝手に入り込んだわけでもない。めげずに「(雨量に)驚いたでしょう」と声をかけたら、「あんたらに、ここに住んでるものの気持ちはわからんよ」とにべもない。「わたしも近所の住人です」と言い返してみたが、これ以上は取りつく島がなかった。人の悲しみをのぞき見しに来た、と思われたのだろうが、なんだか釈然としないなあ。

7月14日 山城の取材をするようになって自分の方向感覚のなさに落ち込む。もともと忘れられた、地元の人すらもう近づかない場所にある城館がほとんどで、山に入ってからも下調べした「縄張り図」(城館の間取り図)と実際の地形を合致させることができない。東西南北がチンプンカンプンだ。ということで『方向音痴って、なおるんですか?」(交通新聞社)という本を読み始めた。が、その道の専門家との対談がメインで、本の目的(方向音痴を治す)にうまくたどり着けないもどかしさがある。私の方向音痴的読解力のせい絵理解ができないのかもしれないが、方向感覚が取り戻せる魔法のような「方法」ってないのかもね。わたしは地図が読める人間になりたい!

7月15日 山城取材を続けていると、その山城名に魅かれて取材をしてしまうケースがある。歴史的な価値はなさそうなのだが、なんとも名前がかっこいいのだ。例えば北秋田市の「明利又城」とか秋田市河辺の「虚空蔵大台滝」とか「当麻館」「赤尾津城」「浦城」「十孤城」など。中国から漢字が入ってきて、大和朝廷でも社会制度が整うにつれ、文書を書き遺すようになる。村の名前などは「好字二字」といって国や郡の名前はなるべく2字で、それもいい字を使うこと、という命令が出る。そのため地名にはやたら2文字が多くなったのだそうだ。大坂にある「いずみ」という国は、漢字にすれば「泉」という1文字なので「和」という黙字を一字足し、意味なく「和泉」としたのだそうだ。ずっとなんで「和泉」はなぜ「いずみ」と読むのか疑問だったが、ようやく得心。当時の命名のルールだったんだね。

7月16日 コロナ過と関係あるのか、時間がたつのがめっぽう早い。週明けの月曜日に簡単な会議をやるのだが、つい昨日のような感覚のまま、もう週末を迎えてしまった。それでも山行があると土曜日はその準備に割かれ、それが週の区切りのアクセントになる。それもないと時間は歯止めなく直線的に単調に猛スピードで過ぎていく。昨日は新刊が2本同時に出てバタバタしたが、今日からはまた日常の穏やかで静かな日々が戻ってきた。カレンダーに記載はないのだが、来週はオリンピック休日でほぼ1週間近く休みになる。やることを決めておかないと、とんでもなく退屈な日々になりそうだ。
(あ)

No.1064

ランチ酒
(祥伝社文庫)
原田ひ香

 映画の「孤独のグルメ」久住昌之。輸入雑貨商を個人で営む井之頭五郎(松重豊)が商談後、いろんな町でふらりと入った店でご飯を食べる「孤独のグルメ」は何の事件も起きない物語なのに、実に面白い。たぶん、独身で酒を呑まない、という「縛り」が物語の調味料としてよく効いているからだろう。本書の主人公は犬森祥子、バツイチ、アラサー、職業は「見守り屋」である。見守り屋というのは営業時間が夜から朝まで。様々な事情を抱える客からの依頼で、人やペットなど、とにかく頼まれたものを寝ずの番で見守る、という仕事だ。そんな職業につく主人公祥子の唯一の贅沢は、夜勤明けの晩酌ならぬランチ酒だ。別れた夫の元で暮らす愛娘の幸せを祈りながら、束の間、最高のランチと酒に癒される。行く店の名前は伏せられているが、都内の各地でそれぞれ本当に存在する大衆的なお店、と本文庫の解説で明かされている。本書を「孤独のグルメ」の二番煎じという人も出てくるだろう。でも物語は設定がすべて、面白さがすべてを決定する。そのたまの「縛り」も用意されている。バツイチ、アラサー、昼酒、これだけあれば十分だ。

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