Vol.1069 21年6月26日 週刊あんばい一本勝負 No.1061

梅雨入り・足軽・ネブラスカ

6月19日 もう物を増やしたくないから、棄てるほうが多くなった。買い物はほとんど食べものだ。最近買ったもので「大正解」だったのはLLビーンのハイキングシューズ。重くて硬くて荒れ地の履き心地はバツグンだ。登山靴ほど大げさでなく、スニーカーは論外、という基準で山城取材用に質実剛健さで選んだのがよかった。履き心地のよさに散歩にもはき始めた。足が軽く疲れが軽減、歩くのが楽しくなった。LLビーンのパジャマはもう20年近く着ていて、先日棄てた(雑巾にした)ばかり。このシューズも10年は行けそうだ。

6月20日 ようやく梅雨入り。うっとうしい季節はこれから始まる。週末の山行はペンディングだったが、晴れ間をみて、近場の筑紫森と岩谷山を「ダブルでやッつけよう」とA長老と計画を立てた。家の事情で行けないリーダーのSシェフ に相談すると「ダブルは思っている以上にきついから、やめたほうがいい」とアドヴァイスされた。こういう判断はSシェフに従うのが間違いない。それに従うことにした。昨夜は屋根をうつ雨音がうるさかったが、起きたら晴天。

6月21日 新田次郎の『孤高の人』はザセツ、面白くない。去年文庫になったばかりの長谷川康夫『つかこうへい伝』(新潮文庫)に手を出す。820ページの大著だがページを括る手が止まらなくなった。二晩で読了。つかと同伴して芝居を作ってきた著者の、つかとの微妙な距離感や謙虚さ、時代背景がよく伝わってきた。こちらとは何の接点もない作家だと思っていたら北吉洋一氏が重要な役回りで登場していた。彼とは下北沢でお酒を呑んだことがある。つかのマネージャー的な役回りをした男が秋田大学の卒業生、と書かれていたのにもちょっと驚いた。

6月22日 中世の秋田の山城にハマってから5カ月近くなる。参考資料にと読み始めたエンタメ時代小説、井原忠政『足軽仁義』(双葉文庫)が面白い。「三河雑兵心得シリーズ」の1巻目だ。主人公の茂兵衛が仕官する三河・夏目家の知行は300貫。江戸期の感覚で800石ほどか。身分は国人階級で国守に軍役義務を負うが年貢の負担は免除されている。ここで足軽になる茂兵衛の給金は年2貫(銭2千文)、これは現代の感覚でいえば20万円ほどだ。寝床と食い物付きだが、こんな雇用形態で、あとは戦での働き次第で騎乗の身分に成り上がれる可能性もある。

6月23日 毎日晩酌はするのだが酒量は年とともに少なくなっている。ワインも焼酎も日本酒も1杯だけ。お酒はワイワイ仲間たちとバカシャベリしながら呑むのが一番だ。外呑みもムダにつまみを食べすぎるし、ハイカロリーなつまみが多い。太るとテキメンに血圧が上がり、体調面に不具合が出る。太って洋服を新調するハメになるのは愚の骨頂。実は今日、毎月1回「和食みなみ」で家族飲み会の日。今日だけは好きなだけ酒を呑んでもかまわないのだが、酒より料理に目がいってしまう。

6月24日 立花隆さんが亡くなった。面識はないが『ぼくはこんな本を読んできた』(文春文庫)という本で無明舎出版のことを紹介していただいた。一度、お茶の水・山の上ホテル喫茶室でたまたま隣の席になったことがあった。編集者と打ち合わせ中で、会話の中に「秋田の無明舎」という言葉が出てきて、おもわずド緊張した。「それ、わたしです」と応えたかったが、そんな度胸はない。逆にその場に居づらくなって、逃げるように喫茶室を出てきた。ご冥福をお祈りします。

6月25日 手帳に食べたもの毎日メモする。もう10年以上続けている日課だ。手帳を自家薬籠中のものにするための方便だ。最近は、前日の夕食献立を思い出すのにしばらく時間がかかるようになった。昨日は写真に撮りたくなるような素敵な夕焼けを目撃したのだが、それがどこの場所か思い出せない。夜は「ネブラスカ」という映画を観た。100万ドルの宝くじが当たったという「詐欺」を真に受けた父親と、それを心配して旅に同行する息子の物語だ。モノクロームの映像が実に雄弁な、文句なしのいい映画だ。が、何カ所か「これ知ってるなぁ」というシーに出くわした。一度見ている映画なのだ。映画や本の二度観(読み)はかなり頻繁だ。
(あ)

No.1061

源義経
(学研)
長部日出雄

 生前、著者とは何度か津軽書房のおともでお会いしているのだが、こんな本格的な歴史小説を書いているとは知らなかった。さすがに小説家の書く歴史物語は歴史家のものとは違って無類に面白い。文章はきれいだし、心理描写は迷いなく鮮やかだ。歴史解釈も深く、人物造型も複雑で、読み進むうち長部ワールドへグイグイ引きずり込まれていく。頼朝から平泉に逃れ、最期を遂げるまで(平泉王国が崩壊するまで)を描いた義経伝記だ。版元が学研ということもあるのだろうが、エピローグに「著者の講演」が採録されている。大出版社では考えられない目次構成だが、この講演がめっぽう面白い。「長嶋は義経に似ている。グラウンドでは強いけれど、管理者としての能力に乏しい。したがって頼朝に似ている川上流の管理野球の思想に、いずれは敗れ去るだろう」と著者は言う。さらに源義経、長嶋茂雄、貴ノ花の3人には共通点があるという。大衆の人気者で、意外性があり、狩猟民であることだ。狩猟は農業に負ける。穀物という、権力者にとって収奪と富の蓄積が可能な、商品性と貯蔵性のある食糧によって文明は発展してきた。狩猟的な人間はいずれ敗れる運命にあるのだ、と著者はいう。

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