Vol.986 19年11月23日 週刊あんばい一本勝負 No.978


視界不良な日々

11月16日 まるで知らなかった「事実」を知らされ、即座にあいづちも打てず、ニヤニヤ無言でごまかしてしまうことがある。川で羽を休める白鳥を見て「まだエサをあさってる」と言ったら、友人に「ここが寝床」と言われた。沼や川が白鳥の寝床だとは知らなかった。大潟村の最初の入植者たちは、甚大なカモ被害のため全員に猟銃免許取得が義務付けられた、というのも初耳だ。ストーブ用のマキはかなりの長期間乾燥させなければ使えない。アメリカで発明されたケチャップの語源は中国の「ケツイアプ」という魚醤だ。秋田弁の「んだんだ」という肯定のあいづちは、早くからうちで「んだんだ文庫」や「んだんだブックス」といった形で使ってきた方言だが、半世紀以上前、歌手・三橋美智也に「んだんだ」という合いの手が入る歌謡曲があった。これもビックリ。

11月17日 痛恨のミス第2弾。今日は雄長子内登山。というか真人公園にあるSリンゴ園での恒例のリンゴ狩り。午前中に雄長子内に登り昼にリンゴ狩りをする。無事に山を下りて、リンゴ園で財布を出そうとしたら無い。レインウエアーに入れていたはず。金額は1万円ちょっと、まずいのは免許証が入っていたこと。警察に遺失物届を出すか、山頂付近ですれ違った3人の登山者が拾って連絡をくれるのを待つか、結論が出ないまま家に帰ってきた。すぐに山頂で財布を拾った方から連絡。市内の方だったので、友人に取りに行ってもらった。財布(免許証)は手元に戻ってきたが、いろんな人に迷惑をかけてしまった。面目ない。

11月18日 衣料品に明示されている「綿100パーセント」とかアクリル、ポリエステル、混合といった衣料原料用語がわからない。綿(ワタ)のことを調べていたら原産地はインド、これが東インド会社を通してイギリスに運ばれ産業革命の原資となり、奴隷貿易を生み出す元凶になっていったとある。イギリスは新植民地アメリカでワタ栽培に乗り出したのだが、これが南北戦争の引き金になった、とも。生産地・南部は自由貿易を望み、高い関税をかけたい工業地・北部は保護貿易派で利害が対立。戦争はリンカーンの「奴隷解放宣言」で世論を味方につけ、イギリスの「南部支援」を難しくさせる戦略が功を奏し、北軍が勝利する。ワタの貿易対立を「人種問題」として内外にアピールすることで、リンカーンはイギリスの介入を未然に防いだのだそうだ。

11月19日 消費税10パーセントの話題も人々の口の端にのぼらなくなった。でもダメージはボディブローように効いてきている。仕事量、注文量が例年に比べて一向に元に戻らないのだ。数か月先の予想をするのは年々難しくなってきた。もう10年前の感性や蓄積、常識や経験で先を見通すことは不可能な時代だ。のんびり過ごすつもりの老後が自分にはないのかも。北も南もわからない時代の風景の中をさまよい歩いている気分だ。

11月20日 なんだか煮詰まってしまった。こんな時には環境を変えて新鮮な空気を吸うのが一番。そう経験則で分かっているのだが、昔のように気軽に旅に出てリフレッシュしたり、酒場でバカ騒ぎする気力や行動力は湧いてこない。ディパックに資料を詰め込んで駅前喫茶店まで「小旅行」を決行。コーヒー屋さんの片隅で2時間ほど紙の束を広げていたら目の前をおおっていたカスミが晴れてきた。閉じこもっていてもいいことはない。書を捨てよ、街に出よう、だ。

11月21日 徳川5代将軍・徳川綱吉の人間像に迫る、朝井まかて著『最悪の将軍』(集英社文庫)を読んでいる。まだ前半部を読んだだけだが、読めない漢字が出てくるわ、出てくるわ。酒は「ささ」とルビが振ってあるし、音物は「いんもつ」。源家は「げんけ」で、尾張、紀伊、水戸の御三家の中で水戸家だけが将軍継嗣を出せないと定められている、というのも初めて知った。一番驚いたのは「御袋」という言葉。正室と違い側室は「種を宿して産み参らせる」だけの存在なので「御袋」である、と書かれている。私たちが日ごろ親しみと敬愛を込めて使っている「おふくろさん」って、もとは殿様の側室を言い表す言葉だったのか。

11月22日 「食」をキーワードに歴史をひも解く世界は自分の性に合っている。その手の本を読み漁っているのだが面白く飽くことがない。例えば私の生まれた翌年(1950)、ミス日本第一号が選ばれている。山本富士子だ。このミスコンは戦後の食糧危機を救おうと、アメリカの支援団体から贈られてきた「ララ物資」(アジア救済公認団体)に感謝するため、衆議院で緊急決議されたイベントだった。山本富士子はアメリカに感謝を伝えるための「遣米使節」なのだ。「ララ物資」実現には、さらにサンフランシスコ在住の浅野七之助という原敬の元書生で盛岡生まれの男が深く関与していたという。渡米してから浅野は農場やホテルなどで仕事をした後、邦字新聞『日米時事』を発行、日系人の地位向上のために奔走した。
(あ)

No.978

警察庁長官狙撃事件
(平凡社新書)
清田浩司・岡部統行

 平成最大の未解決事件と言われる國松警察庁長官狙撃事件。マスコミによる報道でしかこの事件を知らない我々には「未解決」のまま時効を迎えた事件である。しかし、この事件を執拗に追い続けているジャーナリストたちがいた。本書の著者たちである。著者たちの粘り強い取材によってこの事件は2014年と翌年の2回『世紀の瞬間』といいう番組になっている。この番組を観ていないのが悔やまれるが、本書の内容と多くは重複しているのは間違いないだろう。NHKの番組であれば何度も再放送され、番組は衝撃をもって世間に知れ渡ったのだろうが、民放のこのへんが限界点だ。捜査を主導した警視庁公安部は最初から最後まで「オウム犯行説」に固執し、一方の刑事部は過去に凶悪事件を起こし刑務所に服役中の男から詳細な自供を得ていた。という捜査の2極化がこの事件の要諦だ。取材チームはこの自供の男と数年にわたって書簡を交わし、取材を進め、彼こそが真犯人であることを確信する。真犯人の中村は戦後まもなく東大を卒業し、その後銀行襲撃、警官殺しなどで服役、今年90歳になる人物だ。「特別義勇隊」を名乗り、アメリカで銃の訓練を受け、武装して国家にテロを仕掛ける目的は「国を思う」あまりの行為だという。調査報道として一級の作品である。

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