Vol.985 19年11月16日 週刊あんばい一本勝負 No.977


手帳とカレンダーを買う季節

11月9日 江戸時代、大きな寺院門主には大名同様、参勤交代が課せられていたという。侍だけではなかったのだ。親鸞の浄土真宗は日本で最も信徒の多い宗派だが親鸞が直接関与する資料はほぼない。そのため「親鸞は本当にいたのか」という存在疑問説が明治まであった。大正10年(1921)、西本願寺の宝物庫から出てきた10通の書状(妻の恵信尼のもの)によって、はじめてその実存が確認されたという。「戒名」なる制度は曹洞宗の専売特許。雲水の修行を支える経済的基盤のために考え出されたものだそうだ。雲水は正式な僧侶ではないので、亡くなった時に剃刀を当て出家したことにし戒を授け戒名をあたえた。これを一般人の葬儀にも取り入れるビジネスモデルを作ったのだ。

11月10日 痛恨のミス。朝5時40分事務所前出発で森吉山だったが起きたのが6時。Sシェフに電話し中間点の五城目道の駅で合流。こう見えても時間にはけっこう厳しくて、めったに遅刻はない。昔の駒ケ岳から2回目だ。昨夜は珍しく9時に寝床に入り本を読んですぐに寝た。いつもの就眠時間は12時だから、ここですっかり「油断」を生んでしまった。

11月11日 70歳になった今もボソボソとながら仕事をしている。以前は半日で出来た仕事が今は三日かかってしまう。それでも日曜以外は仕事場にこもっている状況に変わりはない。一応経営者でもあるので支払いや必要経費など月末には悩み多い資金繰りがある。昨日の新聞に「老後レス」という言葉。「71歳働くしかない」という大きな見出しで警備員や交通誘導員の高齢者のルポ記事だ。すぐに『交通誘導員ヨレヨレ日記』がネタ本だなと気が付いた。それはさておき、「老後レス」、なかなかうまいネーミングだ。若いころは60歳を過ぎた自分の姿を想像することもできなかった。今は何となく10年先も想像できる。老後レスだ。

11月12日 10日ほど前、差し歯が取れた。かかりつけの歯医者が1週間ほど休業していたせいで今日ようやく診てもらうことができた。久しぶりの歯医者だったので健保証も用意していったのだが「高齢受給者証は?」と訊かれてしまった。70歳になったら一部負担金が3割から2割になる。その受給者証が確かにこの間届いていた。

11月13日 ジャニーズのタレントが秋田の女性と結婚したという。彼女は確か秋田市出身で山形大学卒だったはず。昨夜、偶然に観た映画『東京女子図鑑』の主人公(水川あさみ)も秋田市出身で秋田大学を卒業、憧れの東京でファッション関係の会社に就職、転職と恋を重ね、大人の女性になっていくというストーリーだった。なんだかジャニーズのこの嫁さんとよく似たストーリーだ。なかなかよくできた映画で、観終わったら、ネット速報で結婚のニュースが流れた。映画のテーマは「理想を実現しても幸せとは限らない」だ。なんだかおかしい。

11月14日 来年用の手帳とカレンダーを購入。うっかり自宅用日めくりカレンダーを買い忘れた。手帳とカレンダーは「ほぼ日」製で、かれこれ10年以上お世話になっている。日めくりカレンダーのほうは自宅書斎用。この日めくりをビリビリと破って一日が始まる。日めくりカレンダーには毎日の「格言」が書いてある。常用しているのにこの格言をまじめに読んだことがなかった。昨日何気なく目に入ったので読むと、「医者と味噌は古いほうがいい」。次の日は「小さく生んで大きく育てる」、その次の日は「親の背をみて子は育つ」。なるほど、これなら読んでも読まなくても影響はなさそうだ。

11月15日 金曜部だが八塩山(矢島口)山行予定。大好きな山で「最後の紅葉」を見るつもりだが天気予報は「雪」。でも行くことにした。昨夜は寝付けず、朝3時起き。事務所で朝ごはんを作って食べ(冷凍おにぎりに卵かけご飯だが)、日記を書いたり、新聞を読んだり、一生懸命時間をつぶしている。出発は5時40分、まだ時間はたっぷりある。こまごまとしたことを片付けていたら、今度は眠くなってきてしまった。朝のうちにコーヒーを2杯もんだのは初めてだ。
(あ)

No.977

百の夢をかなえんがため
(講談社)
美木剛

 神戸の超有名フレンチレストランのオーナーシェフが24年間やった店を閉め、念願のヨーロッパやアジア各地を放浪する。そのなかでも白眉ともいえる旅のハイライト長期にわたる南仏生活をメインに綴ったのが本書だ。サブタイトルは「五十五歳からの優雅な南仏生活」。もう15年前に出た本だが、どこも古びていない。海外での日々の暮らしの合間にフラッシュバックされる結婚のエピソードやフランスでの修業時代、学生運動から神戸の店の交友関係まで、実によく書けている。よほど活字に慣れ親しんでいないとこうは書けない。高級レストランで繰り広げられる「戦い」を自ら放棄し、心安らかに自分と妻だけのためにつくる美食にふける。そうした昔からの夢をかなえるために54歳で仕事を離れ、自ら車を駆ってヨーロッパを旅し、南仏に家を借り、著者は思いを果たす。 実はこの著者、私の友人でもある。ここ数年、毎週のように手紙をもらう文通友達でもある。彼はチョーのつく手紙魔なのだ。書名もいい。神戸の店を閉めるときの「閉店の辞」で使われた言葉から、たぶん編集者が書名用に使ったのだろう。活字中毒の料理人の書いた本というのは貴重だ。

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