Vol.918 18年7月21日 週刊あんばい一本勝負 No.910


一人ぽっちの留守番です

7月14日 古本屋で「せどり」というのは古書店棚にある本を同業者が買い、自分のところで高く売ることをいう。ところが最近ニュースで聞いた「瀬どり」は、北朝鮮が海上で船を横付けし石油精製品を積み替えて密輸することだそうだ。古本屋が組合で本を買うときは山になった本の塊に値段をつけて競り落とす。一冊一冊の本の書名など見ずに一山いくらで買う。逆に、棚に差された一冊の本の書名を確認して、確信的に本を買う行為を、業界では「背どり」というようになった。「背」と「瀬」ではまるで意味が違うようだが、転売するという行為は一緒だ。

7月15日 朝5時起きで久しぶりの山。青森県深浦にある崩山という940メートルの、白神山地の北縁にある山だ。あの十二湖を足下に望む。この十二湖じたい崩山の崩壊によってできたといわれている。観光客でごった返す青池を早々に抜け、大町桂月の句碑の横の登山口を登り始める。前半はずっと急登が続き、ようやくベンチのある休息所へたどり着く。ここからちょっと行くと大崩山山頂だが、どこが山頂なのかよくわからない。崩山山頂まではまだ40分ほどかあるのだが、この地点で引き返してきた。久しぶりの山にしては難易度が高かった。

7月16日 山歩きの翌朝は気持ちがいい。久しぶりの本格的な山(崩山)で緊張も一入(ひとしお)だったが、観光地(十二湖)の山なので若い登山客がいっぱい。彼らがキャポキャピ騒いでいると苦しい急登も遊園地のような気分にさせられた。日本中が豪雨と酷暑でニュースになっているなか、密林のような森の中で無心に自分と向き合う静謐な時間を自然から頂いた。青森県の山というだけで、私にとってはほとんど海外遠征のような気分である。

7月17日 少し時間ができたので夜はDVD映画の日々。本でも3本続けて「ヒット」というのはめったにないが今回の映画は3本ともすべてヒット。1本目は「にっぽん泥棒物語」。歯医者でもある泥棒が冤罪事件に巻き込まれるストーリー。山本薩夫監督の名作だ。緑魔子が出ているのだが、どの出演者なのかわからなかった。2本目は木村功主演の「億万長者」。さえない税務署員の国家との戦いをコミカルに描いた市川崑監督作品。両方ともモノクロだ。3本目はやはり市川崑の「股旅」。これはカラーだが、ぶっ飛び時代劇。アートシアターギルドの制作で、主役は小倉一郎。ショーケンがかすむほど小倉の演技がいい。股旅というのは今のヤクザの源流だ。脚本に谷川俊太郎も参加している。

7月18日 新入社員が早い夏休みをとって不在なので一人留守番。こんな時に限って注文がやたらと入り右往左往する。朝一番で眼科の検診、事務所に帰ってからは慣れない事務用パソコンに向かって一心不乱。5時間ほど集中して仕事をすると体はぐったり。先日からストレッチをやることに決めた。夕食後は入念に体をいじめて、それから散歩。左耳がよく聞こえない。耳が聞こえないと昔の映画を観るとき不便だ。音声がクリアーでないためよく聞こえない。しかしベストの体調ってなかなかないもんだなあ。

7月19日 国分拓著『ノモレ』(新潮社)を読みだしたら止まらなくなった。あの『ヤノマミ』の作者でNHKディレクター。「大アマゾン 最後の秘境」を作った人。。アマゾン源流域の深い森で暮らす文明未接触先住民〈イゾラド〉との交流の物語だが、フィクションなのかノンフィクションなのか、よくわからない構成が面白い。もちろん全部あったことなのだが、自分の体験談として書いていない。ロメウという実在の主人公がいて、彼の目から見たイゾラドの姿が描かれている。

7月20日 5月中旬から歯が痛くなった。いつものことで年に3,4回は歯医者通いが定番だ。それでも思いのほか治療は長期間にわたり、約1か月半、歯医者通いが続いた。歯が治ったと思ったら今度は目の調子が悪い。左目にうっすら靄がかかったような状態で、歯医者の隣の眼科医に飛び込み診察。両目とも白内障だった。この両目の手術に約1か月間。それもつかの間、7月中旬からは左耳が聞こえなくなった。耳に水が入って耳垢が膨張しているような感じだ。片耳をふせぐとほぼ何も聞こえない。すぐに治るだろうと高をくくってから1週間になろうとしている。そろそろ限界だが、それにしてもまるで病気のデパートだ。
(あ)

No.910

バックをザックに持ち替えて
(光文社)
唯川恵

 私が山に登り始めたのは55歳の時。男鹿半島の山にやっとのことで登った日のことは今も鮮明に覚えている。あの日から13年の歳月が経つが、月に3回程度、飽くことなく今日まで山行は続いている。登った回数だけなら1年30座としても400座近い。おもしろいことに自分で山に登るようになると、逆に人の山の本はあまり読まなくなった。こちらのレヴェルとぴったりの本というのは少ないからだろう。秋田県内の近場の日帰りできる山以外は登らない、と限定しているのも関係あるのかもしれない。本書は久しぶりに出会った「初心者」本。しかも人気作家による山エッセイなので食指が動いた。著者は都内で大型犬を飼っていたのだが、その犬に快適な環境を与えるために夫ともども軽井沢に家を買い引っ越してしまう。となると山まではあと一歩。さらに著者の夫はどうやら元山関係雑誌の編集者だった人のようだ。環境が整えば自体は一挙に加速して、近所の浅間山からエベレスト街道トレッキングまでまっしぐら。まあ山にはまる人は大概がこんなもんだろう。エベレスト街道の後はお決まりの「ヒマラヤ・ロス」。これは無気力になり、現実の生活にもどれなくなる現象だが、著者もこの病にかかったそうだ。

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