Vol.855 17年4月29日 週刊あんばい一本勝負 No.847


健忘・ウイスキー・便秘薬

4月22日 散歩の途中、マウンテンバイクのハデ目な衣装の男性に話しかけられた。見知らぬ人だ。モゴモゴと自分の名前を言うがよく聞き取れない。帽子をとって顔を近づけてくるが、それでも誰かわからない。滑舌が悪いのは脳卒中とか病気の後遺症か。あらためて顔をじっくり観察すると、わかった。10年ぶりに会うIさんだ。ひょろ長い顔がまんまるになり、髪は消え、唇はタラコ状態。これだけ激変していてはわかりっこない。3年前に脳梗塞に倒れリハビリ中だそうだ。私自身、若いころから老け顔で10歳以上年上に見られるのが常だ。病いは老化を加速させる。自分にもいつか病は襲ってくる。怖い。

4月23日 今日は姫神山。いつものように地元のMさんのガイドで心強い。朝から雨模様。合羽着用で登り始めたが昼近くなるとすっかり青空に。山頂で知り合いと会った。「おれおれおれ」と顔を近づけられたが、わからない。数年前に交通事故にあい左足に大けがをしたHさんだった。顔はすっかり数年前と変わっていて(ひげを生やしていた)、元の顔を想像するのが難しかった。元気で山も登れるようになったのは慶賀に堪えない。

4月24日 今週は「呑みっぱなし週間」だ。新聞記者たちとの飲み会からはじまり、モモヒキーズの観桜会、仙台・東京出張で宴席予定がはいっている。帰ってきた日に義母の一周忌、翌日曜は町内会の総会だ。いやはや、こんな週は珍しい。昔のように暴飲暴食やハシゴ酒はしないが、体力は確実に落ちている。疲労が抜けずずっと蓄積されていく。それを防ぐには早めに寝床につき、難しい本を睡眠薬代わりに1分でも多く寝るしかない。

4月25日 2回目の呑み会終了。二日酔いを防ぐ法はただ一つ、ウイスキーを飲むこと。これに尽きる。不思議なことだがウイスキーのハイボールを飲んでいると二日酔いしないし体重も増えない。ウイスキーの合間に熱燗を1本だけ飲み、あとはウイスキー。最近の飲み屋さんにはちゃんとしたウイスキーがかならず置いてあるから不便はない。日本酒も魅力的だが高すぎる。一合1500円ではちょっと二の足を踏む。料理よりも酒が主役になりたがっているのが今の日本酒の現状だろう。

4月26日 モモヒキーズ観桜会は雨のため中止。ありがたい休肝日と思うことにしよう。新入社員はこの雨の中、鳥海山・稲倉山荘に本の納品へ。もうこんな時期になった。このところ面白い企画や持ち込み原稿が続いている。もうこれだけで気持ちがハイテンションになる。面白い企画といっても「売れる」ことと同義ではない。売れないけど出版すべき本もあるし、採算度外視で出したい本もある。その出したい本の企画を思いついたり、持ち込まれたり、第三者から紹介されたりすると、後先考えず「幸せな気分」になる。職業病だ。冷静に考えると、無謀な試みだったり、経済的にハイリスクな企画だったりして、後悔することも多いのだが反省までは至らない。

4月27日 もう5年以上、「タケダ漢方便秘薬」を毎日服んでいる。2日前、思うところがありやめた。「一生薬を服み続けるのは嫌だなあ」と突然思ったのだ。もともと便秘体質ではない。朝に体重を計るので少しでも軽くしたいという一心で服み始めた。毎朝気持ちいい「お通じ」があるのは、それだけで1日が明るくなる。体重が落ちていると確実にその日はバラ色だ。その切り札が便秘薬だった。でも薬に頼る老後というのは少しも明るくない。ダメだったら戻ればいい。そんな気持ちで薬断ち3日目の朝。量は少ないが、まあまあ順調な出だし。

4月28日 東京のホテルのロビーで書いている。東京は晴天で暑いほど。人やビルがあふれて、まるで別世界だ。昨日は仙台で出稼ぎ授業をこなし、そのまま担当の先生と食事。ホテルに帰って腰が痛いのに気が付いた。腰を痛めるようなことはしていないから「疲れ」によるものだろうか。栄養剤を飲んでごまかすしかない。朝8時の電車で東京に移動。JRはもうGWウィーク、「大人の休日倶楽部」の割引がきかない。昼は地方小センターのK社長と食事。夜はうちの著者で多くの本を出してもらっているT氏と打ち合わせを兼ねた飲み会。肝臓はかなり悲鳴を上げつつあるが、肝臓の代わりに腰が全負荷を背負ってくれたのかな。
(あ)

No.847

料理通異聞
(幻冬舎)
松井今朝子

 八百善は今も現存する東京の料理屋である。主人公のモデル、4代目善四郎が実質的な創業者で、彼が一代で江戸の名料亭としての地位を築いたといわれている。その福田屋善四郎の波瀾万丈の生涯を活写したのが本書だ。でも、そんじょそこらの「時代物料理小説」ではない。古い資料を読み込み、時代考証を尽くし、構成も巧みだ。きっちりと史実にのっとって書きこまれた歴史小説に、料理というエンターテイメントを組み合わせ、伏線に当時のスターである太田南畝、谷文晁、酒井抱一、亀田鵬斎といった実在人物を巧妙に絡ませているのもかっこいい。主役の江戸料理も専門的な文献から慎重に引き出されたリアリティがある。それもそのはず著者は京都生まれ、名料理屋の娘であり、手練れの歴史小説家だ。条件がそろった上の著作である。舞台は天明2年の江戸。大地震の騒然とした空気が残る中、主人公は料理とは関係のない御金御用商で奉公生活をつづける。はなっからテーマの核心に向かわないので、ちょっと戸惑うが、主人公の出生の秘密が伏線として物語に膨らみを与えている。物語の核心に入っていくまでに時間がかかるくらいは我慢しよう。

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