Vol.798 16年3月19日 週刊あんばい一本勝負 No.790


関西への旅でリフレッシュ

3月12日 今日から3日間関西旅行。ギリギリどうにか体調は元に戻った。体調さえ戻れば怖いものはない。旅先で身体の不調に見舞われると絶望的な気分になる。もう旅どころではなる。何はともあれ体調が最優先事項だ。朝早く、北帰行の白鳥の声を久しぶりに聞いた。少し遅くないか君たち。昔ほど上空が騒がしくないのも気になる。天候の異変に悩まされているのは人間だけではないようだ。

3月13日 京都のホテルで友人たちとランチ。持ち込みのいいワインを数本空け、若いイタリア人シェフの料理を堪能。ひとり宿に帰る途中、寺町にある三月書房へ。私たちにとって伝説の書店だ。店主のSさんとは初対面。緊張して酔いもすっかり醒めてしまった。昔懐かしい「しもた屋」風の狭い書店はお客さんで混み合っていた。昭和にタイムスリップしたような空気感が心地よい。Sさんと他愛もない業界噂話をして店を後に。自分がまだ現役のうちにぜひお目にかかっておきたい業界人が何人かいる。Sさんはそのうちのお一人。これだけでも京都までやってきた価値がある。いまのうちに見ておかないと書店も出版社も取次も、あと少しで焼け野原だ。

3月14日 今日の予定は大阪市内で夕方から会食の1件のみ。それまで朝から何もすることはない。そこでサンダーバードに乗り金沢まで出かけてみることにした。金沢21世紀美術館で書家・井上有一生誕100年展覧会を開催中だ。金沢駅に着きタクシーで美術館へ。……なんと休館日。そうか今日は月曜日だったか。「図録だけでも分けてもらえないか」と館員に懇願すると「アマゾンで買えます」とにべもない。なすすべもなくお隣の兼六園を1時間ほど散策、公園入口の大衆食堂で天ぷらうどん。大阪までとんぼ返りしてきた。ま人生はこんなもん。夕食の前に大阪城そばにある佐竹義宣の「大坂冬の陣・陣跡」を見学。夜の寿司屋さん「原正」はおいしかったなあ。

3月15日 新幹線を乗り継ぎ仙台までにたどり着いた。一挙に秋田まで帰るのはしんどそうなので途中下車。仙台でゆっくり昼食、街を小1時間ほど散策。旅の疲れが少し軽減。今回の関西の旅は移動がハンパない。さらに西日本の新幹線は頻繁に車掌が切符切りに来る。車中でのケータイ電話も当たり前。喫煙車両や自由席もある。「こまち」や東北新幹線ルールになれた身には戸惑うことが多い。外国人旅行者(中国人)が圧倒的に多いのも特徴でマナーの悪さにも驚いた。大きな旅行鞄を座席1人分とって混んでも譲らない。ゲホゲホ咳をしながらマスクもしないで平気な若造も少なくない。今回の旅には村上春樹『海辺のカフカ』上下巻を持ち込んだが、けっきょく集中できず5分の一しか読み進むことができなかった。

3月16日 自分のベッドはいいなあ。朝まで熟睡、目覚まし時計が鳴るまで夢ひとつ見なかった。もう旅で自分がいなくても勝手に仕事は回っている。事務所に閉じこもってウジウジ考え、悩み、逡巡しても何も事態は動かないのに、時間だけは勝手に前に進み、物事をあるべき姿に導いてくれる。出張から帰ってきてたまりにたまった仕事と格闘する時間は嫌いではない。

3月17日 朝一杯のコーヒーを飲み、夕べに散歩、晩酌済ませ部屋でDVDや本と向き合ういつもの日常が戻った。昔とちょっぴり違うのは、朝うがいをする。卓上除湿器とノドスプレーを常備した。寝室に空気清浄機が稼働している。あきらかにノドが弱くなっているためだ。唇も荒れやすく、鼻の中がすぐ乾く。マスクも必需品。花粉体質ではないが、朝の一時期、メチャ鼻水が出る。なんのアレルギーなのだろうか。服に着いた花粉に反応しているのだとしたら、これも花粉症か。服を着終えると鼻水はピタリと止まるしなあ。

3月18日 来週から月末モード。めずらしく来客も多そうで今から緊張気味。やはりお役所仕事の「年度末」なるものと関係があるのかも。本も2冊できてくる。広告も2社に打つ。相変わらずせわしない。よくよく考えるに世間が好景気だバブルだと浮かれているときは、ちっともいいことがない。世の中が沈み込み、不安げに下を向きだすと、いつもなんだか元気になってしまう。アマノジャク体質だ。自分ではそれを「逆境に強い」とうぬぼれていたが、これは勘違い。もともとビンボー体質で、そこが定住位置。そこにいる限りなんとなく安心してしまうだけの話だ。
(あ)

No.790

明治維新という過ち
(毎日ワンズ)
原田伊織

 まず著者の経歴に触れなければ、本書の面白さは半減する。著者は昭和21年に京都に生まれ、近江・彦根城下で幼少期を過ごした。小学生のころ(昭和30年代)、祖母から「切腹」の作法を教え込まれたという環境で育っている。彦根藩の天敵はいうまでもなく「桜田門外の変」の水戸藩。著者の徹底した水戸藩嫌いが本書の骨格だ。「維新」や「天誅」をとなえテロを繰り返した狂気の源「水戸学」。「明治維新」という「無条件の正義」に疑問と反旗を翻した本書は水戸学批判の書でもある。水戸光圀などという人物はゴミ扱い、「大日本史」はくだらないの一言で一刀両断だ。そんな水戸学から生まれた「尊王攘夷」の思想を長州、薩摩がうまく利用し、最悪の国内戦争である戊辰戦争が始まり、多くの犠牲者を無為に作り出してしまった。水戸光圀だけではない。西郷隆盛から坂本龍馬、吉田松陰に伊藤博文といった、教科書で近代日本の英雄とされる人物たちが、コテンパンにやっつけられていて痛快だ。それも単なる恨みや「ため」にする攻撃ではない。歴史の暗闇に丁寧に光を当て、史料を読み解き、冷静な分析から絞り出したものだから説得力がある。本書は「改訂増補本」。奥付には刊行1年で18刷りの表記がある。これが本当ならベストセラーだ。もし版元がサバを読んでいるのなら本の価値は一挙に下がる。批判や攻撃本の多くは文章が感情的で読むに堪えないものが多い。その点、本書は文章が端正で乱れがなく、実に読みやすい。

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