Vol.195 04年5月29日 週刊あんばい一本勝負 No.191


田んぼが消える!

 ついに、というか恐れていたことが現実となってしまいました。事務所前の四枚の田んぼのうち事務所寄り2枚になかなか水が入らなかったので、「これは何かあるな」とみんなで心配していました。外の2枚のほうは田植えも終わり周りの除草も済んでいるのに手前の2枚だけは田起こしのまま雑草が生えています。除草にやってきた所有者の石井さんに訊くと「減反なんだあ」と答えたあと、申し訳なさそうに「もう建物が立つから…」というではありませんか。やっぱり。このHPで季節の移り変わり毎に同じような角度からみた画像をアップしてきたのですが、たぶんこれがその光景の見納めになります。とくに右側の写真は建築予定場所の田んぼから無明舎をとったもので、この角度から事務所を見ることはもう完全にできなくなります。圧迫感があっていやだなあ、というのが個人的本音ですが、高齢な農業者・石井さんにとってはまた別の悩みや事情もいろいろとあるに違いありません。こればっかりは世の中の流れですから、すっぱりとあきらめるしかありません。う〜ん残念……。
(あ)

アナログカメラで湯沢スケッチ

 高齢で入院中の父親が糖尿病による壊疽のため右下腿部を切断手術するので、立ち会うために湯沢に行ってきました。この日は真夏のような暑さで高速道の十文字インターから鳥海山が「うそのように」鮮やかな山容を見せてくれました。湯沢から由利地方にある鳥海山がこれほど大きく美しく見える、というのを知らない方も多いのではないでしょうか。手術は2時間半くらいで終わりましたが、手術室に入るとこちらは何もすることがないので、市の中心部にある喫茶店「ラシュエット」へ。ここのコーヒーはうまいし店内も大人用の落ち着いた雰囲気を持っているので帰るとかならず寄る場所です。1時間ほど居て、路地裏をぶらぶらしながら病院まで帰りました。この日は意識的に写真をとろうとカメラを持っていたのですが路地裏はまさに被写体の宝庫でした。イノシシの剥製のぶら下がった居酒屋、もう死語になったとおもっていた「正1合」という看板を掲げた食堂(そういえば最近まで「農民食堂」という名前の店もあった)、小川を流れていた大人の顔ほどもあるフナの死骸……。病院では切断された下腿部がダンボールに入れられていました。市役所で焼却証明をもらい火葬場でちゃんと焼いてもらわなければならないのです。翌朝、葬儀場で20分ほどかけて骨になり、神妙な面持ちで弟とその骨を拾っているところです。少しにやけているのは「遺骨」ではないので焼香もお坊さんの読経も関係親族も居ない儀式なので、少し照れくさかったからでしょう。ケガなどで切断された身体の一部はこうしてちゃんと葬儀場で焼かれるということ、ご存知でしたか。
(あ)

東北の謎めぐり

 今週から久し振りの集中取材を始め、山形の米沢に住むIさんと2人で岩手や青森県を走り回っています。例によって私がカメラマン兼運転手、Iさんがライター兼ナビ役です。今回の取材は『義経北行伝説』と『東北謎めぐり紀行』が中心で、これに『道の駅とうほくガイド』の改訂版や『北海道・海の人国記』その他の補足取材が目的です。今回の取材で共通するのは「謎」です。平泉で死んだはずの義経が実は生き延びて北海道に渡っていた、という各地に残る言い伝えを追いかけ本にしようというもので、取材対象は本物か偽者かという「?」付きで言われているものが多いのですが、面白いように各地でちゃんと写真に撮れる証拠物件が残っています。今回の本ではその伝説をそのまま出すだけではなく、疑問点や著者独自の解釈を加えて、伝説の背景にあるものを探ってみたいと思っています。『東北謎めぐり紀行』は「十三湊はなぜ滅びたか」とか「どこに眠る支倉常長」など、東北各地に残る謎を30編集めて現地取材をし、東北の歴史ミステリーに迫ってみようというものです。

岩手県大東町観福寺に残されている、弁慶のものと伝わる笈(おい)
 どちらの本も「んだんだブックス」シリーズなので、写真は豊富に使います。今はちょうど木々の緑も生い茂り、天気も安定しているので絶好の撮影時期ですが、もう少しすると梅雨が始まるので、撮影はそれまでが勝負です。ほとんどの地域では田植えが終わっていますが、北上山地の山間はいまがちょうど真っ盛り。田んぼにいるおじさんやおばさんに石碑や神社の場所を尋ねながら、山深い里や三陸の海岸などを走り回っています。
(鐙)

今週の花

 今週の花は、バラ、リシアンサス(トルコギキョウ)、ヒマワリ。バラは「ローテローゼ」という品種。いかにも「情熱の赤いバラ」らしいスタンダードなタイプ。日本では最も多く生産されているそうなので、多分最も売れてる品種なんでしょう。バラは外見だけでなく、その品種名も魅力的。思いつくだけでも、ピース、ヒロシマ、ブルームーン、プリティウーマン、パパ・メイアン…。今回のローテローゼは「rote rose」と書き、rote(ドイツ語)の意味は「赤」。直訳すれば「赤バラ」。何の想像力も感じられないネーミングで、がっかりしました。
(富)

No.191

虚無への供物(講談社文庫)
中井英夫

 散歩の途中寄った書店で見つけて、文庫版があることに驚いて買ったのだが、これは新装の文庫であることもはじめて知った。初版本の三一書房版の分厚い本は学生時代に買っていて、これ見よがしに本棚に差し込んでいた。もちろん読まなかったのだが、私たちの学生時代、この本は神話化され、運動している学生たちの必読書のように言われていた。ということは「難解」ということと道義で、だからそれ以後もなかなか読む気になれないでいた。「戦後推理小説の金字塔」とか「アンチ・ミステリーの空前の奇手」といった惹句を目にするたびに「そろそろ読んでも」とは思うのだが第一印象の敷居はけっこう高かった。50歳を越して初めて読んでみて、そんなに難解ではない作品であることに驚ろいたが、それでもミステリー作品の一般素養がないものには骨の折れる内容である。犯人も動機も解明されても、なんとなく意味のわからない場面をもう一度探り読み直して読了したのだが、難しいけど面白い、というのが正直な印象である。この「推理小説のための会話劇」は、同時に再読や三読にも耐えうる強力なバネを内包した優れた文学作品であるのも間違いない。

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