Vol.1043 20年12月26日 週刊あんばい一本勝負 No.1035

カボチャ・ドヌーブ・豪雪の日々

12月19日 今年最後になる打合せが午前中にあった。これが終わると今年はもう約束事や、やるべきことはなくなった。ひとまず今年の仕事はすべて終了だ。朝も普通通りに起床、玄関の雪かきをして、隣町に行くカミさんのアッシーで、午前中は終わってしまった。隣町・土崎までは20分ほどだが、帰りは渋滞に巻き込まれ1時間もかかった。車の中には「簡易トイレ」やタイヤの緊急脱出用スパイク、スコップなど取り揃えているが、それらが役に立たないことを祈るばかり。

12月20日 夜中の3時前、大きな揺れ(震源地は岩手沖で震度5弱)。朝、出社したとたん二度にわたって停電。昨夜からコピー機の調子が悪く仕事はお手上げ状態。猛烈な寒波の中、不測の事態で電気が止まると3・11を思いだす。それにしてもコピー機の故障ひとつで右往左往するこの暮らしはちょっと問題だ。

12月21日 冬至なので朝ごはんにカボチャ。カボチャはポルトガル語だ。でもブラジルではカボチャのことをアボボラ(abobora)とか言っていたような気がする。カンボジアという国から来た野菜の意味なのだろうが、二十四節気のこの時期、日が短くなり秋野菜も底をつき、残るは日持ちのするカボチャくらいしか残っていない。これを食べて冬を乗り越えようという儀式なのだろう。我が家ではクリスマスも誕生日祝いもほとんど無視なのに、冬至だけはカボチャで寿ぐ、という意味がよくわからない。

12月22日 たまたま観た2本の映画がどちらもカトリーヌ・ドヌーブ主演だった。ごく最近の作品で、どちらもコミカルで頑固な老婆役。『真実』は日本の是枝監督が撮ったフランス映画で、ドヌーブは老いたプライドの高い女優役。『ホテル・ファディトへようこそ』はわがまま放題のホテル経営者で、相手役をこづきまわす。若いころ『昼顔』などで、その鋭く冷たい美しさで世界を魅了したした大女優の今である。ドヌーブは「虎屋の羊羹」が大好きで、パリの店に1週間に一度は自分で買いに来る、という話を当時のパリ支局の新聞記者に聞いたことがある。

12月23日 昨日は秋ノ宮にある「手打ち宅配そば」の神室そばを注文、夕食に食べるつもりだったが、県南部の豪雪による交通渋滞のためそばが届いたのは夜の7時近く。宅配業者も必死で雪と格闘しているので誰を責めるわけにもいかないが、そばを食べるのも雪との戦いだ。

12月24日 今年はけっこう県内の展覧会を見て回った。コロナ自粛でヒマだったからだ。昨日も美郷町である美術展を観てきた。大規模なものもあれば、3畳間にすべての展示品が収まってしまう貧弱な回顧展まで6,7回は足を運んでいる。でも心揺さぶられるような絵や展示、イベントは何ひとつなかった。逆に「金返せ」とか「バカにしてるの」と怒りがこみあげてくる幼稚でこけおどし、前宣伝だけ派手な展覧会ばかり、というのが正直な印象だ。もしかして私にはアート・リテラシー(造語です)のようなものがないのかもしれない。

12月25日 例年ならとっくに10大ニュースを手帳に書き入れて、来年の新しい手帳を使い始めるころだが、まだなにもやっていない。なんとなく区切りやけじめのない日々が呆然と過ぎていく……という、まるで無重力の空間を生きているような日々なのだ。師走のこの時になって、なんとも大きな無力感に苛まれている。やることはいっぱいあるのだが優先順位をつけられない。後回しにすれば永遠に次の機会はないような気もする。こういう時はとりあえず原点に立ち戻って、と思うのだが、その原点もブレまくって軸足が定かではない。
(あ)

No.1035

ぼくもだよ―神楽坂の奇跡の木曜日
(角川春樹事務所)
平岡陽明

 面白い本に出合えるのは幸せなことだ。毎晩寝床に入るのが楽しくなる。逆に読むべき本がないときの夜はつらい。ベッドに入って本を読みはじめるのは10時半過ぎ。読み出して面白いとわかると時間を無視して完読まで突っ走る。途中でやめるのがもったいなくなる。本書はほとんど漫画かアニメのようなベタな恋愛小説作品だ。本のカバーイラストもその線にそったイラストが使われている。普段であればまず100パーセント無視する「見た目本」だが、中身は書評家の盲目の女性と、路地裏のマニアックな古書店店主の恋の話だ。それに大手出版社の編集者が絡む出版業界小説でもある。そして昔3年半ほど住んだことのある「地の利」のある神楽坂が舞台だ。「人は食べたものと、読んだものでできている」という本のキャッチコピーも引かれた。ちょっぴりBL(ボーイズラブ)本を読むような気恥しさもあったが、読んだら感動して泣いてしまった。涙腺にはいい刺激になった。読書は孤独な作業だが、人や世界とのつながる確実な行為でもある。タイトルもうまい。

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