Vol.1042 20年12月19日 週刊あんばい一本勝負 No.1034

黒マスクは大正時代からつけていた?

12月12日 スマホは持っているがほとんど使わない。インスタグラムもラインもやらない。例外的に「ワッツアップ」というメッセージアプリを入れている。日本でいえばラインのようなもので、ブラジルの友人たちと連絡を取るためのものだ。ブラジルの人たちはほとんどこのアプリを日常生活で使っている。フェイスブックの独禁法提訴問題で、このアプリはフェイスブックが「190億ドルで買収」した会社であることを初めて知った。フェイスブックは個人的にあまり好きになれない会社だ。

12月13日 岩谷山に登って「靴納め」。山に登ってユフォーレで温泉に入り食堂でお昼をとって解散だ。今年も20座の山に登ることができた。自分のペースや「分」を知ることが、山で事故に遭わないために一番大切なことだ。できれば来年も25座くらいは数をこなしたいが、この年になると一寸先は闇。それといつクマと遭遇するかもわからない。今日は雪だが彼らはまだ冬眠していない。山の神に「1年間ありがとうございました」と丁寧にお礼を言って下山してこよう。

12月14日 土曜日は角館、日曜は岩谷山、明日は本荘の予定だ。この合間に京都の友人の博士論文の文字校正を頼まれていた。夜の読書は本のストックがない。代打専門でとっておいた夏目漱石『吾輩は猫である』(文春文庫)を読み始めたが初読。これが難解なうえに高邁な小説で毎晩5ぺージ進むのがやっと。最後まで読むように頑張ろうとは思うが、途中で面白い本に出合えば、たちまち挫折の可能性は大きい。

12月15日 「70歳、これからは湯豆腐だ」という本が出ていた。「うまいタイトルだなあ」と思う。著者は太田和彦さん。「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」という久保田万太郎の句も口をついて出るようになった。万太郎は波乱万丈の人生を送った人のようだが、晩年の穏やかな死生観が「湯豆腐」という言葉に託されほっこりする。寒くなる。うるさい味覚はイヤ。シンプルな短時間でできる酒肴で晩酌が一番だ。湯豆腐には希望の光が見える。

12月16日 寒さがこたえる。これが秋田のまっとうな冬、とうそぶきたいところだが、年のせいか身体の芯にまで寒さが食い込んでくる。外では一日中、救急車のサイレン。大学病院が近いのでしょうがないが、救急車と寒さは何か関係があるのだろうか。夕方4時半になると外は真っ暗。長い夜を落ち込まずに過ごすには本と映画しかない。でもこれがそうそう満足のいく作品が転がっているわけではない。良い映画や本があれば寒くて暗い冬の夜も怖くない。でも都合よく世の中はできていない。

12月17日 日本人が黒いマスクをみて驚いたのは中国人が付けているそれを見てからだろう。確か5、6年前、彼らは黒マスクをして中国本土を闊歩していた。その姿に「おまえはギャングか!」と突っ込んだ日々が懐かしい。今は日本でも黒マスクは普通だ。偏見かもしれないが年寄りは似合わないが、若い女性と黒いマスク姿はなかなかのものだ。昨夜読んでいた菊池寛のスペイン風邪をめぐる小説集『マスク』(文春文庫)に100年前、野球場で黒マスクをしている人と出会う情景を描写している場面があった。その菊地自身も中国取材では黒マスクをつけている写真が巻頭にあった。スペイン風邪騒動の時すでに、日本人は黒マスクをしていたんですよ、御同輩。

12月18日 今年の山行は20座。今年はまあこんなもんだろう。Sシェフでさえ例年60座から100座は山に行く猛者だが、今年は30座。コロナが日々なにげない暮らしに与えた目に見えない影響がこんな数字からも透けてみえる。外で飲食する機会もめっきり減った。そのかわり事務所で料理をすることが多くなった。来年以降もこれが日常になるのだろうか。
(あ)

No.1034

風は西から
(幻冬舎)
村山由佳

 ブラック企業として名を馳せた駅前の居酒屋チェーン店に先日ひとりで入った。案の定バイトの対応が悪く料理もまずかった。本書はこのブラック企業で店長を務めて過労自死した青年の物語だ。この青年の死に疑問を持ち、その責任を企業に問い、戦いを挑み続けた、青年の恋人の視点で書かれた物語だ。この本で初めて分かったのだが、劣悪な労働環境(ブラック)というのはアルバイトの待遇ではなく、本部から派遣される店長や副店長の労働実態のことだった。アルバイトの待遇がブラックならやめれば済む話で、こちらが勝手に誤解していたのだが、ブラックなのはほとんど北朝鮮を連想させる支配構造をもった会社組織で、いつの間にか国会議員になっていたここの経営者は新興宗教の教祖のような恐怖政治を敷いてこのブラック企業の経営を続けていたわけである。いまコロナ禍で経営悪化しつつあるこの企業は今度「焼き肉」に活路を求めて着々と準備を進めているという。私が初めて入ったこのブラックのお店は奇しくも秋田で一番大きな書店跡にオープンしたもので、昔お世話になったこの書店の思い出に浸るために入ったのだが、中はもちろんその思い出の跡形もなく、ただただ普通の若者向けの安居酒屋だった。

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