Vol.1041 20年12月12日 週刊あんばい一本勝負 No.1033

山で左ひざをねんざした

12月5日 この頃気になっているのは爪の伸びが早いこと。以前は2週間に1回ぐらいの割合で切っていたが今は確実に10日毎だ。なみに足の指は1カ月に1回。足指の爪は伸びると山行で一発で支障が出る。登山靴の圧で内出血や爪がはがれてしまう事故があるのだ。人生も後半に差し掛かって「爪」がこんなにも大きな意味を身体の中で占めるようになるとは思わなかったなあ。

12月6日 Sシェフと二人で二ツ井町の七座山(ななくら)へ。案の定、小雨が降り始めたが、登山口に次から次へと登山客がやってきた。青森からの人たちもいたが、そんなに人気のある山だったの? コロナ禍で自粛にうんざりした人たちなのだろうか。小雨の中を登り始め2時間で山頂の権現様へ。そして下山の急坂で転倒し、左ひざ横をひねってしまった。あまり痛みはないがストックを松葉づえ代わりに降りてきた。

12月7日 恐る恐る朝起きてソロソロと階段を下りてみた。痛みはほとんど感じない。どうやら松葉づえ生活は免れたようだ。先日、駅ナカにある食料品店「ジュピター」に行って驚いた。この店でしか買えないブラジル産パルミット(ヤシの芯)やママレードを買うために行くのだが隣にあった書店が消えていた。この経営者はずっと昔から駅前で小さな書店を営んでいたのだが、ここにきて高額の店賃を支払うのがむずかしくなったのだろうか。秋田では最も地のいい場所にあった非チェーン書店だったのに残念だ。

12月8日 ペンフレンドの関西の友人から手紙とともに本が同封されてきた。中川右介『昭和45年11月25日』(幻冬舎新書)だ。三島由紀夫没後50年を記念して刊行されたものだが、よく売れているらしい。三島の死後に発表された文壇や政界、マスコミの百人以上の記録を丹念に拾い、その証言を時系列に再構築して「事件」と「世相」と「時代」をあぶりだしたノンフィクション。この構成を考えついた時点でこの本は成功したといっても過言ではないだろう。たまにはこうして他者が勧める本を読むのもいい。自分の偏狭な読書の幅が確実に広がるからだ。友人に感謝である

12月9日 今月中に出す予定だった新刊(医学書)が年を越してしまいそうだ。他に編集中の3本の本もあとは印刷所のスケジュールに従うだけ。今年はもうやることがない。出版という仕事はいつでも一寸先は闇。どんな不測の事態が起きても「そんなこともあるサ」という心構えがないとやってられない。コロナとは関係なく思うようには何ひとつ動いてはくれない世界だ。

12月10日 このところ面白本が続いていて退屈はしないのだが、昨日はアマゾン・プレミアムで映画。カトリーブ・ドヌーブ主演の是枝監督の『真実』だ。日本やフランスでもヒットはしなかったようだが、冗漫な会話が少し気になった。フランス映画では心理のビミョウなあやは言葉でなく風景や表情の変化などで表現されることが多い。それに比べて是枝はできるだけ言葉で説明をしようとする。と素人目には映ってしまった。あるいは是枝はもっとコメディタッチを強く前面に出したかったのかもしれない。そうした葛藤まで含めて興味深い映画でもあった。

12月11日 自粛中、料理に凝っていたせいで食材によってスーパーを使い分けるくせがついてしまった。ずっと行っているM店は陳列の細部まで把握しているので素早く買い物できる。のだが珍味風の食材(鳥皮とかレバーなそ)は全然売っていない。肉や魚は少し遠いがJ店が圧倒的に豊富で安くて新鮮なので、そちらで買う。ちょっと高級なかまぼこやおでん種、お惣菜類は駅前のSデパートの食品売り場を使う。昔より買い物に数倍の時間と労力がかかっているのが現実だ。
(あ)

No.1033

デス・ゾーン
栗城史多のエベレスト劇場

(集英社)
河野啓

 『女帝小池百合子』以後、いい本にあたらない。コロナのせいにするわけではないが、今年は不作の年とあきらめかけていた。ところが師走になっておもしろ本が出てくれた。本書は今年度の開高健ノンフィクション賞受賞作でもある。ネットで生中継しながらエベレストに挑戦を続け、7度目の挑戦でエベレストに散った人物のドキュメンタリーだ。この栗城史多なる人物、だれが見てもかなり「いかがわしい」。野心丸出しで冒険家というよりは広告宣伝好きの芸人に近い。ネット上では批判中傷が渦巻いていたようで、なにをやっても好意的には受け取ってもらえない人物である。そんな人物の心の闇や孤独を丁寧に著者は掬い上げている。同じ地元出身の放送局ディレクターである著者は、この人物に何度も振り回され続けながらも取材をやめない。過去に著者はヤンキー先生こと国会議員・義家弘介の初期のドキュメンタリーを作っている。本書はその義家にもふれ「(国会議員になったとたん変節を繰り返すいいかげんな人物を)世に送り出してしまったことに忸怩たる思い」と後悔の念を吐露している。死者にムチ打つことを自覚しながら、「取材」や「記録」「ジャーナリズム」の意味を内省し続ける真摯さも気持ちいい。

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