Vol.1032 20年10月10日 週刊あんばい一本勝負 No.1024

ホッピー卒業、ぬる燗がうまい!

10月3日 このごろ土日は好きなだけ朝寝が可能な環境だ。といっても習慣というのは恐ろしい。8時ころには寝床でうじうじ。9時になると耐えられなくなり起き出してしまう。仕事は忙しくなくとも個人的にやることは山ほどある。週末すべてそのことに使っても片付かないほどだが「やらなくても」誰にも被害が及ばない。先延ばしが可能だ。なにもかも「や〜めた」と放り出せば、心は楽に自由になれるだろうか。

10月4日 週末は目いっぱい寝ているせいか(逆に言うと目いっぱい起きて本を読んでいる)、よくヘンな夢を見る。馬を飼っている夢を見た。よく慣れていてペット感覚でいつも一緒だったのだが、散歩の途中、逃げてしまった。逃げるというか勝手に走り出し迷子になってしまったのだ。夢中で探し回るが、見つからない。大きい動物なので目撃者はいるはずなのに誰も知らないという。警察に届けようにも「飼育許可」がない。焦りまくるが、うまい方法は見つからないまま時間は経過する。大きな動物を飼うためには牧場のような土地が必要だなあ……というあたりで夢は終わる。たぶん何か意味はあるはずだが、よくわからない。

10月5日 あいもかわらずホッピー野郎だが、そろそろ熱燗が恋しくなる季節だ。先日とある赤ちょうちんにふらりと入ったら、日本酒に一家言ありそうな亭主。これはまずいなと思いつつ「ぬる燗で甘口の酒をください」とだけ注文した。このぬる燗がまさかのチロリの燗で、実にうまかった。矢島の「出羽の富士」だった。もう50年も昔、県内のTVCMを企画制作の仕事もしていた。その時につくったのが出羽の富士のCMだった。鳥海山の山小屋でタケノコ鍋を囲んで酒を呑む、というCMで小生は登山客で出演した。あの時の酒が70歳になったいまの自分には一番しっくりくる秋田の酒になったわけだ。年月は味なことをする。

10月6日 かなり難解な医学書を編集しているのだがゲラの直しに「カッパ―」という指示。このカッパーの意味が分からない。著者に直接訊いたら「英文字のkではなくギリシャ文字のkに変えてください」という指示だと教えてもらった。半世紀近く編集者をやっているのにスキルはまったくの独学で基礎を学んでいない。編集者としての知識はお恥ずかしい限りだ。何とも情けないが、こんな適当な編集スキルでも、なんとか生き抜いてきた。まあ良しとしよう。今更どうにかなるわけでもないしね。

10月7日 栗駒山の隣にある秣岳に登ってきた。紅葉は栗駒山の華、ここに行かずに紅葉は語れないが、同時に全国から登山客が押し寄せ、登山道は原宿並みの混みようになる。これは避けたいため、わざと週日を選び、その栗駒も避けて隣の山を選んだ、という「読み」だ。でも秣岳も混んでいたのだ。山の紅葉は予想通りすばらしかった。先週の駒ケ岳と2週連続で紅葉を堪能できた。

10月8日 典型的な文系なので理系のことはからっきしペケ。なのにミーハー丸出しでノーベル化学賞には興味津々。予想通り生命科学の女性科学者2人が受賞したが、その報道でちょっと気になることがあった。現代の生命科学の3大発明に関してだ。専門家たちによれば現代の3大発明とは「PCR法」「モノクローナ抗体」「ゲノム編集」だという。ところが昨夜のNHKは「モノクローム抗体」ではなく、山中教授の「iPS細胞」を3大発明のひとつに挙げていた。iPS細胞に関しては成果が出るまで長時間かかり、コストも膨大で非現実的との批判的評価が多いと聴いていたのだが、NHKは山中教授擁護の意味合いもあってiPS細胞を入れたのかも。ちなみに歴史上の科学史の「3大発明」といえば活版印刷、火薬、羅針盤というのが定説だ。

10月9日 西日本でカモシカの角に差されて死亡者が出たと報じられていた。テレビのニュースだったがテロップに大きく「シカに刺されて死亡」「雄鹿」という文字が躍っていた。何度も書いているがカモシカはシカとは関係のない動物だ。ウシ科の動物なので、どちらかと言えばウシである。その名前から深く考えずにテレビ局では「シカ」という文字を使ったのだろうが見識を疑われるのは間違いない。東北ではカモシカは見慣れた動物で、その生態に関しても詳しく認知されているが、それでも時々新聞社などでは「クマの胃からシカの毛が」といった見出しが躍った。ニホンジカはつい最近まで絶滅危惧種だったから、その毛がクマの胃から出てくるはずもない。
(あ)

No.1024

無理
(文春文庫)
奥田英朗

 夜になるのが待ち遠しいほど、奥田英朗の本にハマっている。最新作『罪の轍』からまだ新作は出ていないから、過去の文庫本を読むしかないが過去作もほとんどはずれがない。主要な話題作はほぼ読んだような気になっていたが長編の犯罪小説が実はほとんど未読だった。もともと犯罪小説というジャンルが苦手なのだが、本作のほか『最悪』『邪魔』も未読だ。読み始めるとやめられなくなるのはわかっているから、ある程度まとまった時間を確保してから寝不足覚悟で読みはじめる。この秋の夜長は、すべての時間を奥田の長編小説ために捧げたい、と思っているほどだ。本書もそうだが、ある地方都市に暮らす、縁もゆかりのない普通の庶民が、ひょんなことから交錯し、思いもよらぬ事態を引き起こしていく。生活保護を担当し、すっかり人間不信に陥った地方公務員、東京にあこがれるどこにでもいそうな女子高生、暴走族上がりのセールスマン、新興宗教にすがる中年女性、もっと大きな仕事がしたい市会議員……鬱屈を抱えながら狭い地方都市で生きる5人の男女の人生が猛スピードで崩れていく、いつもの得意の群集劇だ。どん詰まりの社会の現実を描かせればこの人に敵う作家はいない。

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