Vol.1018 20年7月4日 週刊あんばい一本勝負 No.1010


ウイルスとミネルヴァ

6月27日 ずっと料理三昧なので、すっかり腕を上げた。常備菜や万能ソース、ヨーグルトにぬか漬け、ローストビーフももう自家薬籠中のもの。それはいいのだが、今日の朝、恐れていた事態が出来した。シャチョー室の台所からアリの軍隊が大行進。急いでアリ・キンチョールを大量噴霧、見える範囲で皆殺しにしたが気分が悪いこと夥し。アリごときで料理を断念したくない。本格的に水回りの整理整頓をしようと決意。

6月28日 予定だった男鹿3山お山掛け(縦走)は中止。昨日のアリ野郎出現はA長老が来て原因が判明。毎日手作りしてチョロチョロと食べていたミルク・アイスキャンディの甘い汁が原因だった。原因がわかって一安心。あの下品極まりない「過払いCM」の弁護士法人「東京ミネルヴァ」が倒産した。ザマアミロといったところか。関わった弁護士の資格ははく奪すべきだと思うのだが、どうやらオーナーはあの悪徳業者・武富士の元社員のようだ。TV史上、これほど醜悪CMはみたことがない。弁護士って「正義の味方」ではないんだ、と庶民にわからせてくれた点では意味と効能のあった。

6月29日 今日やる仕事は前日にメモ。とは言いながらメモを見返すとずっと同じ内容のまま。昔、一日で出来た仕事に今はゆうに1週間かかる。1日の少ない仕事をこなすので手一杯で終わるとその日何をしたか覚えていない。

6月30日 小中学校のころ切手収集に夢中になった。ハトを買ったり、切手を集めたりするのが、田舎の子どもたちの定番の趣味だ。60歳を過ぎたころからモノを増やさないように断捨離を実行。それでも昔の切手スクラップブック帖だけは捨てられず、今も手元に残っている。自分で収集したものではなく同じ年代の人から譲ってもらったものだ。専門家に訊くと、昭和の切手は枚数が多く値段以上の価値はないそうだ。捨てたいのだが、欲しいと思う人の手に渡してやるのが一番の解決策に違いない。

7月1日 大曲の花火の開催が見送られた。この祭りは明治42年1909)の「秋田観光記者団」の歓迎イベントがはじまり、といわれている。県の新聞社3社が東京の有力記者たちを招いて県の宣伝に一役買ってもらおうと企画したものだ。この時の記者たちの秋田レポートは『知られたる秋田』という本に編まれている。昭和60年(1985)にはうちからその本の復刻版も出ている。読んでみても大曲の花火の話はほとんど出てこない。これで本当に祭りの導火線になったか疑わしい。どうやら真相はホスト側の大曲青年団者にあったようだ。彼らは記者の接待のために身を粉にして頑張った。そのことが自信になり、翌年の奥羽6県煙火大会の開催になり第一回大会へとつながっていったものらしい。

7月2日 散歩に出たら、途中で雨が降ってきた。この日は油断して傘を用意しなかった。本降りになりコンビニ逃げ込んだ。30分経ってもやみそうにない。タクシーを呼ぶか、事務所から迎えに来てもらうか。でもケータイも持っていないし公衆電話もない。家まではあと2キロほど、よしッ濡れていこう、と決めてコンビニを出ようとして傘が売っているのに気が付いた。ビニール製で600円。普段ならこんな無駄な出費は絶対に嫌だが最優先順位は雨に濡れて「体調を崩すこと」。傘はこれからも何度でも出番はある。たった1本の傘を買うのにこれほど苦悩する、自分の小心さがなんとも情けない。

7月3日 依頼のあったA・マクヴェティ著『牛疫』(みすず書房)の書評をどうにか書き終えた。牛疫ウイルスはコウモリ由来で、すでに4000年前に存在していた。日本が戦争中、アメリカに飛ばそうとした風船爆弾にはこの牛疫ウイルスの粉末を搭載する計画だった。これは「報復で今度は日本のコメがやられる」という東条英機の反対で立ち消えになったという。このウイルスの根絶には日本人科学者の活躍が不可欠だったという。ワクチン開発に3人の日本人が成功しているのだからすごい。特に根絶に至る最後のワクチン開発に関わった山内一也はこの本の訳者でもある。
(あ)

No.1010

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
(新潮社)
ブレイディみかこ

 アメリカ各地でデモが起きている。黒人虐殺事件は対岸の火事とは思えないのは、差別はコロナよりも感染力が強いウイルスだからだ。映画『グリーンブック』では黒人の人気ピアニストが高級ホテルで演奏した後、ホテル内のトイレが使えず掘立小屋の便所を使うよう指示されるショッキングなシーンがあった。本書は、いま話題の著者の本だが、ずっと読む気になれず本箱に眠ったまま。差別の本を読むのは体力がいる。気力が充満していないと、ガクンと自分が落ち込んでしまう。本書でも日本人は東洋人として一括りされ「チンク」とか「チンキー」と呼ばれる。イギリスで暮らす親子の成長物語なのだが、思春期真っただ中の息子とパンクな母ちゃんのやりとりが面白い。舞台は元・底辺中学で、そこで生きる主人公の「ぼく」、母は日本人で、父はイギリス人のトラック運転手。舞台設定が庶民的なところが新鮮で、差別に敏感な立ち位置が、この本を生み出したといっていいだろう。そうか、イギリスも差別は半端ない。多様性というのは簡単だが、そこにはケンカや衝突がセットだ。そこを中学生の主人公が見事にサーファーのように乗り切っていく。日本に里帰りして居酒屋で日本のバカサラリーマンに絡まれるシーンが秀逸だ。

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