Vol.1016 20年6月20日 週刊あんばい一本勝負 No.1008


HPで新しい連載始まりました

6月13日 50年も昔の学歴詐称が話題になるのが、ちょっとかわいそうと思っていた。都知事女性のカイロ大卒業疑惑はでも当分メディアを騒がし続けそうだ。石井妙子『女帝 小池百合子』を読んで「あなたのそばにいるハーバード大学を卒業した人が中1程度の英語しか話せなかったら」という疑惑がスタート地点なのを知った。現地のエジプト人エリートでさえ4人に1人は落第するという超難関の大学を、日本人がしかも首席で卒業する、などということはありえない。日本のアラビア語専門家たちは彼女の卒業を「誰も信じていない」というのだから穏やかではない。石井は緻密な取材と、当時の知人の証言から、そのインチキ女性の正体を解き明かしていく。すごい本だ。

6月14日 今日は秘湯・鶴の湯温泉から登る「大白森・小白森」だったがキャンセル。雨は夕方あたりまで大丈夫なようだが、少人数でのクマが怖い。地元新聞には毎日「クマの目撃」という小さな記事が載る。記事には体長と民家から何メートルでの目撃か、という2項目が書かれている。民家までの距離が10mとか20mで目撃されるケースが多く、体長はほとんどが1メートル前後だ。これまでクマには3度ほど遭っている。里山の荒れ具合を見るにつけ山里が「クマの別荘地」になっているのは明白だ。

6月15日 HPで新しい連載開始。「安倍五郎兵衛天明3年伊勢詣道中記」。底本は横手市増田町で編まれた「道中記」の現代語訳です。訳者は千葉在住の加藤貞仁さん。訳だけでなくその数倍の分量になる「注・解説」が目玉になります。天明3年は1783年、この年の4月に五郎兵衛は増田を立ち伊勢神宮を参拝。帰途は関西に遊び、中山道を通って長野・善光寺に参り、越後、羽黒山、平沢(現にかほ市)から山を抜け9月に増田に帰郷。実は「道中記」にはこの旅程の「行き」の記録しか残されていません。帰りの道中は不明なのですが、五郎兵衛にはもう一つ、俳句日記「旅の道草」が残されていて、こちらには「帰り」の出来事が俳句で綴られています。この2冊をテキストに当時の伊勢詣りの旅を再現します。

6月16日 ヨーグルトはカスピ海(粘りっ気が強い)がどうにか作れるようになった。ぬか漬けは第2ステージ。キュウり、ニンジン、カブ、ナガイモの定番に失敗はなくなったので、今日からはゆで卵、ソーセージ、豚肉といった洋ものに挑戦。自粛期間中、カンテンを辞め(暑くなるとすぐわるくなる)、自作でめん類を食べていた。広東めんや天津めんといった本格中華もレトルト具材を使えば簡単だ。近所に中華屋さんが皆無なので自分で作るしか手はない。

6月17日 運転免許証の高齢者講習を受けなければならないのだが、
受講の予約が取れない。今日9時20分から「9月分予約」がスタートした。免許更新は11月だから、その前に講習を受けないと更新ができない。満を持して定刻に電話するが話し中でつながらない。かなり混んでいる。焦るが、めげずに辛抱強くかけ続け、30数回後、ようやくつながった。行列に並ばない人生を送りたいと思ってきたが、まさか免許証更新でこんな目に合うとは。これからはこんなことが頻繁に起こるような現実が待っているのかもしれない。

6月18日 近所のスーパーに越乃寒梅(吟醸酒)の4合瓶が1200円で大量に売られていた。その昔、1升瓶が2万円前後で取引されていた酒だ。そのまま通り過ぎるのも気が引け1本買い、さっそく秋田の若い杜氏のつくった最新のお酒と飲み比べ。日本酒の味覚に関してはほぼ自信がない。それでも違いはすぐ分かった。圧倒的に秋田の若い杜氏のつくった酒のほうが芳醇でふくよかでマイルド、のど越しも勝っていた。いっぽうの辛口の昔の名酒は薬品っぽ味で、薄っぺらで機械的な味がした。50年で酒の味は変わるし、こちらの味覚も変化する。昔の名酒はすっかり時代遅れで、スーパーでセールが相ふさわしい大衆酒になっていた。50年という歳月は残酷だ。昔の美酒が年老いてなおピチピチの美女と同じステージに立たなければならない。

6月19日 手元にアマンダ・ケイ・マグヴェッティ著『牛疫』(みすず書房)がある。この本を読まなければならないのだ。日本農業新聞の書評の仕事だ。書評欄を持っていても好きな本だけを書けるわけではない。編集部からチョー難題を突き付けられるケースも少なくない。著者はマイアミ大学歴史学の教授、300ページ弱の本だが値段は4000円。こんな本を自分で買うことはあり得ない。150年に及ぶ人間とウイルスの戦いの記録なのである。好きな本を好きに書評してるばかりでは進歩はない。時には「楽しくない本」も読まなければならない。牛疫は人類が根絶に成功した2種のウイルスのうちのひとつだ。科学研究の最前線の本を読む機会を与えられたことに感謝すべきだろう。
(あ)

No.1008

マンガで読む発酵の世界
(緑書房)
黒沼真由美

 この半年で突然目覚めた。「ぬか漬け」を自分で作り始め、それは今も続いている。最近ではヨーグルトも自作しているし、乳酸菌の魅力にどっぷりハマってしまった。日本酒も「山廃」という言葉に興味ひかれ山廃の純米酒ばかりを飲んでいる。「山卸し」というのは酒母づくりで、温度調整をして乳酸菌を働かせて乳酸を作る作業だ。これが酒造りでは最も過酷な作業で、ここの部分の作業改良は江戸時代からの課題だった。この山卸を廃止したのが山廃だ。山廃モトと呼ばれる方法は、生モトで作る際の重労働である山卸し作業を人力でなく、麹菌の作用で米を溶かし、そこに乳酸菌を入れる「ニュー生モト」でもいうべき作業方法だ。いまは酒母に最初から乳酸菌を入れる「速醸モト」が主流なのだが、時間をかけた山廃モトは酒に深みや複雑さ与える。肝になるのは乳酸菌だ。酵母は糖分をもとにアルコールを作るので「アルコール発酵」、乳酸菌は糖分をもとに乳酸を作るので「乳酸発酵」。まずはここの違いをしっかり知る必要がある。乳酸菌というのは人間の腸内にいる「ありふれた細菌」の仲間で200種類以上の存在が認められている。人間の腸内には10兆個の乳酸菌がいるというから、驚いてしまう。本書は「マンガで読む」となっているが文章のほうが圧倒的に面白い。漫画は専門的でやけに難しいのだ。一度見ただけではとても理解できない。「あとがき」によれば、本書は「WEB科学バー」という研究者らの科学コラムを連載するウエブマガジンに連載されたもの。なるほど、それでこの専門的マンガなわけだ。文章よりもマンガのほうがむずかしいという珍しい一書。

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