Vol.991 19年12月28日 週刊あんばい一本勝負 No.983


もう仕事納めです。

12月21日 「週休3日」というのは自分の目の黒いうちは無理だろうと思っていた。でも昨今のマスコミ報道を見る限り、「長く働くことがいいこと」という意識はもう完全に過去のことになりつつある。日本で一番先に週休2日制を取り入れたのはナショナルで1965年! うちでも80年代後半には取り入れた。公官庁は90年初めで、公官庁の後塵を拝するのが嫌で、そのちょっと前に決めてしまったという経緯だった。ちなみに広面の商店の多くは「月曜休日」が多い。これは資源不足で悩んだ戦後の電力会社が電気を供給させる「休電日」を月曜日にしたためと言われている。

12月22日 関西の友人から今年読んだ本のベスト5が送られてきた。彼の友人たちのベスト本も付記されていて、みんな筋金入りの読書家たちだ。全員のベスト5に共通で名を連ねてていたのが奥田英朗『罪の轍』(新潮社)。やっぱりなあ、これは私の今年のベストワン。昭和38年のケータイもネットもファックスもない時代の物語を、いまぐいぐい読ませてしまう作家の才能というのは魔法以外のなにものでもない。閑話休題。本もいいが相変わらずアマゾンプライム浸りの日々だ。最近観たものではケン・ローチ監督『わたしは、ダニエル・ブレイク』、マイケル・ケイン主演の『グランドフィナーレ』が抜群に面白かった。ケン・ローチはもう83歳だが、新作『家族を想うとき』が話題になっている。

12月23日 1976年(昭和51)、『中島のてっちゃ』という本を書いて出版専業社としてスタートした。世の中はロッキード事件に始まり天安門事件(第一次)、田中角栄逮捕に沸く三木内閣の時代だった。世界に目をやるとアメリカ建国200年を記念してフランスで米仏ワインのブラインド・コンテストなるものがあった。ここで圧倒的にアメリカのワインの優秀さが証明され、以後、「カルフォルニアワインの奇跡」と呼ばれるようになる。この76年の米仏のワイン事件をテーマにした映画『ボトルドリーム』を観た。私たちがいま当たり前のようにカルフォルニアのワインを飲めるようになった背景には、この事件があったのだ。

12月24日 そろそろ来年の手帳に今年の10大ニュースを決めて書き込む時期だが、そこまで手が回らない。1年を10個の出来事にまとめてしまうことに戸惑いがある。本も読んだし映画もよく見た。山も毎週のように登ったし健康診断も問題なかった。でもなんだか「すっきり」しないのだ。モヤモヤだらけの日々なのだ。モヤモヤの正体はいろんなことが輻輳していて一つだけの要因ではない。もう口できれいに説明できる事実なんて胡散臭い。生きている限りある種の後ろめたさと縁は切れない。根っこにそんな強い思いがある。

12月25日 電話機を替えてから調子がいい…ような気がする。でも今度はファックスが問題だ。この時期は日に3通以上はクソ営業ファックスが勝手に吐き出されてくる。「助成金のもらい方」とか「経営強化資金支援」といった詐欺風のやつばかり。こっちの用紙を無断使用して詐欺宣伝されるのだから本当に腹がたつ。昔に比べればファックスの役割も限定的になっているから大きな被害はないが、注文や問い合わせなど、まだファックスに頼る人たちは少なくない。

12月26日 お正月に読む本をデスク横に積んでいる。上下2巻本や1000ページ近い長編、大著が主だ。浅田次郎『大名倒産』、原田マハ『風神雷神』、出口治明『哲学と宗教』、『若い読者のための「種の起源」』『フロイスの見た戦国日本』……と涎の出るラインナップだが、果たして何冊読めることやら。その中の一冊、下山進『2050年のメディア』(文春)を正月が待ちきれず昨晩読んでしまった。ルール違反だが我慢できなかった、すまん。って誰に謝っているんだ。この本は書名と内容が乖離している。デジタル化に乗り遅れた読売新聞の舞台裏を追っかけたルポルタージュなのだが、それでは単なる暴露本になってしまうので、ヤフーや日経新聞も仲間に加えて重厚なノンフィクションに仕上げた、という印象だ。

12月27日 うちも人並みに今日が仕事納め。明日は本荘にある東光山に行くつもりだったが、Sリーダーが体調を崩し中止に。お正月休みは5日まで。その5日に「妙見山」に初詣登山に行く予定だ。今晩は最後の小さな忘年会。場所は「みなみ」なので緊張したり、見栄を張ったり、頑張ったりしなくていい。
(あ)

No.983

最悪の将軍
(集英社文庫)
朝井まてか

 徳川5代将軍・徳川綱吉の人間像に迫る長編小説だ。娯楽時代小説というよりは本格的な人物伝である。最初から読めない漢字がわんさと出てくるのにはびっくり。酒は「ささ」とルビが振ってあるし、音物は「いんもつ」だ。源家は「げんけ」で、尾張、紀伊、水戸の御三家の中で水戸家だけが将軍継嗣を出せない、という事実も初めて知った。でも一番驚いたのは「御袋」という言葉。正室と違い側室は「種を宿して産み参らせる」だけの存在なので「御袋」である、と書かれている。私たちが日ごろ親しみと敬愛を込めて使っている「おふくろさん」って、もとは殿様の側室を言い表す言葉だったのだ。徳川綱吉と言えば「犬公方」といわれあの悪名高い「生類憐みの令」の町触れで有名な将軍だ。綱吉の時代は飢饉と2度の大地震、さらに富士山大噴火という未曽有の天災が起き、経済も行き詰った苦難の時代だった。そんな中、綱吉は唯我独尊ともいえる「文治政治」を徹底した。これが悪名のものとになるのだが、いささか事実は違っていた。綱吉は時代背景を正確に認識しつつ幕政改革に取り組んだ、極めて有能な為政者だったことが本書を読むとよくわかる。書名に驚くかもしれないが、これは本人が「余は、やはり最悪の将軍であるのか」と自問する言葉からとったもの。いい書名だと思う。

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