Vol.980 19年10月12日 週刊あんばい一本勝負 No.972


70歳の大台に乗りました

10月5日 病み上がりなので無理はしないで仕事半分、あとはダラダラ。面白い本に出合った。川内有緒『晴れたら空に骨まいて』(ポプラ社)は「別れと死と散骨」をテーマにしたノンフィクション。親しい家族や友人を失い、見送った5組の人々の物語で、久しぶりに読みながら泣いた。登山家、CMディレクター、ロタ島に住む夫婦、チェコで死んだ画家、装丁家の友人……それぞれ味わい深い人生を歩んだ人たちの記録だ。この5組の登場人物は、ふとした偶然で著者の身近にいた人々だったというのも物語に絶妙のリアリティと、ほどのいい距離感を生み出している。

10月6日 食欲がない。まだ本調子ではない。身体はヘロヘロに疲れ切っていたのだろう昨夜は10時間熟睡。久しぶりにお米を腹いっぱい食べた。やっぱりコメはうまい。とは言いながら不安も残る。以前のように気力がいまひとつみなぎってこない。来週早々から「秋のDM」発送が始まる。少しは忙しくなる予定なのだが。

10月7日 久しぶりにTVで映画。録画しておいたロバート・デ・ニーロ主演『ミッドナイト・ラン』。面白いコメディ・サスペンスだった。2本目はヴィム・ヴェンダース監督『アメリカの友人』。名匠の作品なので期待大だったが愕然とするほどつまらない。白血病の額縁職人と贋作屋、ヨーロッパとアメリカをつなぐ殺人事件……思わせぶりな設定だけで中身は空疎。というわけで今日は1勝1敗。ま、こんなもんだろう。

10月8日 朝晩の冷え込みがキビシイ。今週はDM注文、新聞全3広告などがあり、いつもより忙しくなる。やろうと思っていてできなかったシャチョー室保管庫を昨日ようやく整理整頓。身の回りからモノをそぎ落としていく作業は楽しい。

10月9日 今週中に70歳になる。全国健保協会というところから「健康保険高齢受給者証」が送られてきた。病院でこれを見せると医療費が安くなる。こんなものが届くと「70歳になった」ことを否応なく意識せざるを得ない。でも正直なところ「高齢者になった」という自覚がまったくない。「年寄り」の覚悟がない。でもさすがに70代になると日々ジジイであることを自覚せざるを得ない。そのたびにショックを受けないよう「心のトレーニング」もそろそろ必要な時期なのかもしれない。

10月10日 老人たちの行動半径はなぜ狭くなるのか? 「想像力で補えてしまうものに魅力を感じなくなる」せいだ。例えばハワイに行くとする。そこに待っているのはほとんどが頭の中で「描きうる日常」だ。想像以上のことは絶対に起きない。いわんや新鮮な驚きなどあるはずもない。過去に見た画像や経験がフラッシュバックして、行く前から未知のワンダーランドのほぼ全体は想像の中で完結してしまう。喜怒哀楽のほとんどが事前にシュミレーションできてしまうのだ。

10月11日 台風19号に備えていろいろ準備。とりあえずは災害マニュアルにしたがって3・11のときに買って置いた発電機(ガスボンベで起動できる)を倉庫から出した。ヘルメットやヘッドランプ、懐中電灯の類もすべて引っ張りだし電池量を確認。飲料水も確保し車にガソリンを満タンにして、数日分の食料を補給した。これだけやっても実際に台風がやってくると思わぬことが起きて右往左往する。でも何もやらないよりは安心だ。そういえば風で防水シートがパタパタ音を立てて、その音で寝られなくなったこともあったなあ。   

(あ)

No.972

交通誘導員ヨレヨレ日記
(三五館シンシャ)
柏耕一

 カバーのイラストや書名もそのロゴも味があってユーモラスで、ちょっと間違えばベストセラーになりかねない「いい感じの本」に仕上がっている。著者は73歳、今も朝っぱらから現場に立っている現役の交通誘導員だ。「だれにでもなれる最底辺の職業」というコピーもなかなかだ。著者は元々が編集プロダクションの社長で、何冊もの自著もものしている人だ。その経営で負債を負い、借金を返すために交通誘導員として働いているのだが、こうした経歴の人が書いた「知られざる世界」のドキュメントが面白くないはずがない。と期待して読んだのだが……面白くなかった。たぶん、ご本人がまじめすぎるのだろう。文章にもテーマにも「遊び」がほとんどないのだ。エピソードの一話一話を誇張をまじえながらでも小咄風に面白おかしく脚色しながらまとめれば、かなり面白い本になったはずだ。でも著者は何よりもまず真正面から現場の状況説明をはじめてしまう。人間関係や仲間たちとの関係もまじめに分類しすぎるから面白さからはどんどん離れていく。唯一、奥さんとのリアルな会話が鬼気迫る著者の状況をよく伝えているぐらいか。こうしたドキュメント本で読者が一番望んでいるのは「知らない話を知ること」だ。日常の表面的な描写で通り過ぎてしまうのはいかにももったいない。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.976 9月14日号  ●vol.977 9月21日号  ●vol.978 9月28日号  ●vol.979 10月5日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ