Vol.956 19年4月13日 週刊あんばい一本勝負 No.948


毎日が同じ繰り返し

4月6日 最近は服もネットで買う。メルカリというネットショップだ。ブランド物の春のジャケットが欲しかったのだが高価なのであきらめていた。ダメもとでメルカリを検索したら、なんとそのジャケットが5分の一の値段で売っていた。古着なのだが届いてみるとどこにも瑕疵はなくクリーニングもしっかりしてあった。数千円でブランド物の服を手に入れて舞い上がってしまった。味を占めてネットサーフィンの末、3着の服を買う。もうこれでやめにしよう。

4月7日 雨。今日は選挙か。散歩の途中で不在者投票を試みたが、行列が長くてやめてしまった。今週末はどこにも行かないで原稿を書いている予定だったが投票所までぶらぶら歩いて投票に行こう。動いていないのに体重が徐々に落ちている。これはうれしい。

4月8日 春らしい陽気で心が浮き立つ。でも本は売れないし、このところの原稿書きで気分は鬱屈だ。こんな時には雄大なR・シュトラウスの『アルプス交響曲』でも大音響で流して仕事をしたい。CDラックからCDを探すが行方不明だ。それならと真逆の「左手のピアニスト」舘野泉の静かな曲をと思ったが、これも探せない。歌謡曲もクラッシックも同じ棚の中にあるのが問題だ。探す手間を考えたらネットで買ったほうがいい、というのもわかるが、そこまでお父さんは割り切れない。

4月9日 ほぼ一日中、机にしがみついて原稿を書いている。最低限のルーチンとして午前中の事務仕事と、午後からの散歩、食料買い出し。晩酌は焼酎ロック一杯のみ。その後も仕事をするので酔えないのだ。今の季節はぬる燗もいいがやっぱり焼酎だ。もう少し温かくなれば白ワインがいい。夜の晩酌だけが楽しみな日々をストイックに過ごしている。

4月10日 友人にはラジオを聴いている人がけっこういる。年を取るとラジオ派が多くなる。事務所で机の前に垂れこめていると無性に「音が欲しくなる」。ラジオをつけると日本語が耳障りで仕事に集中できない。こうなるとやっぱり少し面倒くさいがCDに限る。CDで好きな曲を聴く。仕事場で音楽を聴きながらダラダラと仕事をしています。

4月11日 事務所がちょっと「乳臭い」。気分転換にローストビーフを作ったからだ。牛で思いだしたが30年前、我が家の最大の贅沢は「三梨牛」を食べることだった。稲庭うどんの里の特産牛で値段もそこそこ高かった。最近その三梨牛を食べていない。いや店頭で見かけることすらない。ある人に訊いてみると意外な答えが返ってきた。「貧乏人が三梨牛を食べるのは無理」というのだ。三梨牛は健在なのだが子牛の段階で「松坂牛」として出荷されてしまうのだそうだ。ヒョエ〜そうだったのか。いつのまにか秋田県内から消えて、そのことがニュースにもならないのは変と思っていたが、そんなすごいことになっていたのか。

4月12日 石田衣良という若者に人気の作家がいる。「いら」というのはすごい名前だなあと思っていたが、本名が石平(いしだいら)で、それをそのままペンネームにしたものだった。買い物をして領収書を書いてもらうとき「上様でいいです」とついつい言ってしまう。これ「うえさま」とばかり思っていたら「じょうさま」と読むのが正しいのだそうだ。「上客」の「上」だった。仕事用語で言葉を前送りする「々」という漢字、なんて読むのか知らなかった。編集印刷用語では「ノマ」という。「ノ」と「マ」を組み合わせた見た目の呼び方だ。「どう」というのが正式な読み方で、辞書では「どう」で引ける。「仝」(どう)と同じだから、どちらも「同」からきた言葉なのだろう。知らないことばかりだなあ。
(あ)

No.948

最近南米往来記
(中公文庫)
石川達三

 著者は秋田県横手市で生まれた「郷土の作家」である。秋田市の図書館には石川達三コーナーもある。代表作はブラジル移民を描いた『蒼氓』で、この本は読んでいるが、その他の著作についてはいい読者とは言えない。本書は昭和5年、移民船に乗ってブラジルに渡航した際の日々をエッセイとして書き綴ったものだ。この5年度に同じテーマを進化させ、小説として昇華させたのが第1回芥川賞を受賞する『蒼茫』である。本書は「最新」と銘打っているものの1930年に書かれたものである。著者が経済雑誌に勤めていたころ社長の許しをもらって南米行きを計画、旅先からその雑誌に原稿を送る約束だった。当時の著者はまだ25歳、将来作家になりたい希望は持っていたが、まだ何の実績も自身もなかった時代に書かれたものである。本書は1931年に昭文閣書房から刊行され、昭和56年に中央公論から文庫として出版されている。著者の処女出版なのである。『蒼茫』では主人公は移民監督官という設定だった。てっきり著者の本当の職業も移民監督官だと思っていたが雑誌編集者だったわけである。千人の移民たちとともに大阪商船の喜望峰回り「ら・ぷらた丸」に乗船、南米の各地をルポした初々しい著者の処女出版である。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.952 2月16日号  ●vol.953 3月23日号  ●vol.954 3月30日号  ●vol.955 4月6日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ