Vol.954 19年3月30日 週刊あんばい一本勝負 No.946


陰気な雨が降る日は…

3月23日 シャチョー室宴会。Sシェフがリクエストに応えて「タコしゃぶ」を作ってくれた。もう一つ、餃子も作った。市販の餃子は100パーセントうまくない。廉価な具材でごまかしているからだろう。逆に言えば手作り餃子は失敗作でもそこそこうまい。刻んだ野菜に塩を振り込み水分をしっかり絞りとることが、シャッキとした餃子を作るコツ。餡を冷凍保存しておけるのもいい。餃子づくりは楽しい。

3月24日 今日は雪というのはわかっていた。でもこれほど積もっているとは思ってもいなかった。大森町の保呂羽山は冬山ハイキングの定番コースだ。斜面で大規模な伐採があったようで眺望がよくなり、遠く横手市街までくっきりと見渡せた。スパイク長靴にワカンという組み合わせも正解だった。登りと下りが別の周回コースなのもよかった。けっきょく4時間ちょっとの山歩きになったが、雪のおかげで充足があった。山の雪ってほんとにいいよなあ。

3月25日 朝から雨。今日は一日席を温める時間のないほど来客や外出予定。机の前でボーっと鼻毛をむしっているのが常態なのに、これでは中小企業のシャチョーのよう。それにしてももう月末か。先週あたりからまた右足首に痛風の予兆のようなかゆみがある。とりあえず痛み止めの薬は服んでいるのだが、無事で過ごせるように祈るしかない。

3月26日 映画館でC・イーストウッド主演の『運び屋』。90歳の麻薬運び屋アール役がイーストウッドで実話だ。アールを嫌う娘役はアリソン・イーストウッドで、これは実の娘。敵役のベイツ捜査官はブラッドリー・クーパーで、この人はレディー・ガガ主演の『アリー/スター誕生』の監督でもある。イーストウッドの役柄は『グラン・トリノ』とダブってしまったが、なんだ脚本家が同じだ。それにしてもメキシコの麻薬カルテルというのはすさまじい。トランプが壁を作りたくなる気持が少しわかった。映画館で映画を観たのは『グッバイ・ゴダール』以来か。迫力ある画像と音響は映画館でなければ味わえない。

3月27日 なんとも陰気な雨だ。こんな時は思い切ってソファーに寝転んで本でも読もう。短時間でその世界に没入できる短編が最適だ。一話完結でワクワクドキドキできるエンターテイメントがいい。横山秀夫の警察連作小説集を引っ張り出して読み始めたら止まらなくなった。『真相』から始まって『深追い』そして『第三の時効』まで一気読み。これだけクオリティの高い作品を毎回維持するのは大変だろうなあ。

3月28日 3日ほど前、ショートメールに返事を出した。その日からケータイに一挙にクズメールが送られてくるようになった。1日50から60通のクズがひたすら送られてくる。散歩の途中にあるケータイ・ショップに寄り相談すると、店員さんはすぐにメルアドを変更してくれた。昨日は長老Aさんから、ケータイとPCを接続して画像を移動する方法を教えてもらったばかりだ。できれば音楽もケータイで聞きたいのだが、この操作はまた次回の宿題としよう。

3月29日 2日間散歩ができなかった。テキメンに便通が悪くなった。散歩に行くと便通はものの見事に元に戻った。毎日の当たり前の行為(運動)が直截に身体に影響を与えていることに「感動」すら覚えた。逆に言えば、毎日ハードなトレーニングをしている人は2日間もそれができなくなれば心身ともダメージはかなり大きいに違いない。
(あ)

No.946

あちらにいる鬼
(朝日新聞出版)
井上荒野

 著者の父である井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫を冷徹に(エキセントリックにならずに)描いた情愛の物語だ。圧倒的なリアリティと抑制のきいた筆致で、見事に文学の持つ力を見せてくれた。物語の語り手は2人。不倫相手の寂聴と井上の妻の2人だ。交互に視点が移り変わりながら物語は進行する。しばしば書き手がこの「鬼畜」に等しい父親の娘であることを忘れてしまうほど距離感に作家的配慮が行き届いている。その筆致に容赦はないのだが、主人公の男をギリギリのところで許し、敬意を払っている。その美しい節度が感動をもたらしているのだろう。それにしても寂聴の当時の小説には井上の細かなチェックが入っていて、井上の書いた短編のいくつかは実は妻が代筆したもの、と言うのだから驚いてしまう。それにしても井上光晴の性的異常さはやはり鬼だ。「文学学校」なるものを全国で主催しファンの女たちのことごとくに手を付けていた、というのだから恐れ入る。そうした父親の恥部を余すことなく表現する作家の娘の「覚悟」もまた父親譲りなのだろう。自分のことを赤裸々に書かれた寂聴は、全面的に井上の娘とこの作品を高く評価している。「不幸な人間しか作家になれない」という彼女の信念がなせる業なのだろう。

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