Vol.931 18年10月20日 週刊あんばい一本勝負 No.923


物忘れ 理系の秋に 道遠し

10月13日 駅前の映画館で『グッバイ・ゴダール』を観た。天才監督といわれたゴダールの元妻が書いた自伝を下敷きにした映画だ。ゴダールがほとんど自虐の神様、ウディ・アレンのように戯画化され描かれている。コメディ映画という触れ込みなので、こちらも笑いながら見るべきなのだろうが、なんだか切ない気持ちになってしまった。家に帰ってから今度は録画していた山田洋次監督の『家族』。1970年の制作で、長崎から北海道の開拓村に移住する家族を描いたもの。ロード・ムービーである。「民子」役の倍賞千恵子が素晴らしい。当時の日本の時代背景もくっきり浮かび上がってくる。

10月14日 去年はほとんど見ていないので紅葉をちゃんと見ておきたい。後生掛温泉から焼山、玉川温泉の縦断コースにチャレンジ。晴天で絶好の紅葉日和、6時間強の実に気持ちのいいアップダウンを楽しんできた。今回の山行も4時起き。加えて縦走なので車が登山口と出口の2カ所に必要で、小生の車も出陣。運転も小生だ。下山後、温泉に入ると疲労は一挙に倍増し、いつも車の中は爆睡。運転は得意でないので同乗者には申し訳ないと思ったが睡魔は起きなかった。

10月15日 この時期、事務所前のイチョウの木が色づく。そして落ち葉の季節だ。ところが今年は色づく前に葉がしおれ、力なく地面に落ちでいる。先日の台風の影響の塩害だ。落ち葉拾いの仕事が一つ減ってうれしいのだが、塩の力のすさまじさに恐れも抱いてしまった。

10月16日 岩波ジュニア新書で「理系」の本を読むのが好きだ。でも中高生向きに書かれた内容を理解するのが大変だ。今読んでいるのは『理科がおもしろくなる12話』で、他にも『進化とは何だろうか』『科学の考え方・学び方』と言った初歩的な本ばかりを選んで読んでいる。父親は理系だし、弟も理科大出身だ。俺にもその血は流れているはず、と思うのだが、どうにも理系に頭がついていけない。

10月17日 仙台の友人から1枚の新聞コピーが送られてきた。10月16日付の河北新報記事で、はがき大の写真に一人の男が映っている。写真横に「無明舎開業1年」のキャプション。は〜ァ、この不細工な太った若い男はオレ?! 下に「1973年(昭和48年)昭和の東北・秋田市」の文字も見える。こんな写真を撮られたこと自体、まったく記憶にない。記事になったことも覚えていない。それにしても、半世紀も前の自分に突然対面させせられて驚くやら恥ずかしいやら。

10月18日 記憶の忘却第2弾。必要があって新野直吉『秋田美人の謎』(中公文庫)を読み直した。この本を読むのは3度目くらいで文庫になる前の白水社版でも読んでいる。数ページ読み進んだところで、本を取り落としそうになるほど驚いた。秋田美人のモデル・タイプとして顔写真が載っている女性に見覚えがあったからだ。前に読んだときにはまったく気が付かなかった。その女性は何とうちの弟の嫁さんだったのだ。以前読んだときは旧姓(知り合う前)だったため読み飛ばしたのだろう。ある会合で彼女に会う機会があり、「弟の嫁にどうか」とアプローチしたのが縁で、2人は本当に結婚することになった。本を読むといっても上っ面をなでる斜め読みしているだけであることを図らずも証明。恥ずかしい。

10月19日 記憶忘却第3弾。朝早く1本の電話。高校の同級生でUと名乗る人物からだ。いきなり「昔借りた辞書を返したい。明日、秋田駅まで取りに来てほしい」という無茶ぶりだ。Uなる人物に全く心当たりがない。常識的に考えても非礼で傲慢で一方的な電話である。怒り心頭に発したが、できるだけ丁寧な口調で「あなたを思い出せない。明日は忙しくて行けない。辞書は郵送してほしい」と答えた。電話は呆れたようにすぐに切れてしまった。後でよくよく考えると、このUさんは高校の1年先輩で学生時代によくお世話になった人だったことを思い出した。そうか、同級生ではなく先輩だったんだ。いや、申し訳ない。確かにものすごくお世話になった人だ。でも明日駅に取りに来いはないよな。Uさん、思いだしました。すみません。
(あ)

No.923

ニホンオオカミの最後
(山と渓谷社)
遠藤公男

 つい最近まで身近なところで生きていた動物に興味がある。どのように人々の暮らしと共存していたのか、その痕跡をたどる取材をして後世に伝えたい。山登りをするようになってから、こうした好奇心に揺り動かされるようになった。とくにオオカミは、ただいまブレーク中の秋田犬の先祖とクマの天敵いうこともあり興味惹かれる。オオカミ関連の本は注意深くチェックしているのだが本書には驚いた。まさに私が望んでいた「身近なノンフィクション」だったからだ。そうか、この手があったか、という新鮮な驚きといっていい。本書は岩手の山奥にオオカミ酒なるものの存在があることを知り取材に出かけるところから始まる。そこを出発点にして自分の住む岩手県限定で聞き書きと古文書の渉猟のみで、見事に完成されたオオカミ本を作ってしまった。現代人のほとんど誰もが見たこともないニホンオオカミの存在をいわば「証言と伝説と古記録」から浮き彫りにしたのである。取材範囲を岩手県に限定したこと。証言や古文書の内容を本書の核にしたこと。この2つが成功の要因である。秋田に昔生息して絶滅(殺戮)したニホンジカに関する本も、この手法でなら書けそう……だがやっぱり無理か。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.927 9月22日号  ●vol.928 9月29日号  ●vol.929 10月6日号  ●vol.930 10月13日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ