Vol.890 17年12月30日 週刊あんばい一本勝負 No.882


本と映画の静かな日々です

12月23日 朝一番で酒田へ。鳥海山のCDブックの第4回打ち合わせ。昼は平田牧場のレストランでトンカツ定食。「道の駅」で焼き魚を買い夕食のおかずをゲット。酒田で発行されている『山歩き雑記帳』という雑誌があり、愛読していたのだが、雑誌の発行人であるSさんも打ち合わせに同席していて、「今月号でしばらく休みます」と告げられた。鳥海山を中心にした写真の美しい山雑誌でショック。経済的に長続きするためのアドヴァイスしたのだが、けっきょくはやせ我慢しか方法はなかったというのがSさんの結論。やりたいことと経済的安定は簡単にバランスが取れない。活字の世界でここが一番難しい。

12月24日 昼近くまで10時間以上寝ていた。右ひざの古傷はもう完治。まだ少し咳が出るが風邪も治った。仕事も滞りなく進行している。食欲もあるし夜もよく眠られる。ここ2か月、集中して取材執筆していた「東成瀬」が止まったままだが近日中に再開予定。体重も増えていない。ジムに通うのは無理をしそうなので避けている。山も1か月に2山くらいの頻度。全体的にはすこぶる健康でアグレッシブな日々なのだが、なんとなく未来に薄いヴェールがかかったような見通しの悪さに釈然としない気持ちも抱えたまま。活字や本の未来はどうなっていくのだろうか。日本はどこへ向かおうとしているのか。漠とした不安にさいなまれる。

12月25日 今年もあと1週間。数年前から年末年始は東京の忘年会と友人たちと近場の海外旅行に行く。ゆっくりお正月を迎えたい気分もないでもないが、まあ忙しい正月もそれなりに風情はある。そんな師走なのだが高杉良『金融腐蝕列島』上下を読み始めたらやめられない。あのバブル前後の大手銀行の不正融資と総会屋、やくざの息詰まる攻防を描いたもの。あの当時、不良債権という言葉が日常化していたが、債券がそう簡単に不良化するものか、不思議だった。要するに銀行が暴力団に貸し付けたお金のことを「不良債権」と言っているのだ。なるほどそういうことだったのか。

12月26日 週刊誌を読むことはほとんどないのだが、今週号の「週刊新潮」の「青森県はなぜ早死にするのか」は買ってしまった。朝からラーメン屋に行列ができ、そのラーメンが思いっきり塩辛い。だからご飯と一緒に食べる人が多く、特産のリンゴは食べない。野菜は塩っけたっぷりの漬物だけ。スジコに醤油をかけるのが当たり前でカップ麺の消費量が日本一。缶コーヒーの消費量も高い。寒いので運動はせず、減塩商品はまったく売れない……なんとも背筋の寒くなる内容だが、秋田でも内情は似たようなもの。希望は「青森よりひどくない」という差別感のみ。ちなみに青森には口ひげを生やした人も多い、というのは私の見解だが、あの「羽柴秀吉」を名乗って全国の選挙に出続けた御仁とそっくりのご面相の人が田舎にはうじゃうじゃいる。この辺りも誰かに調べてもらいたい。

12月27日 強烈な風と寒さで目覚めてしまった。零下5度くらいか。飛行機も新幹線もこの暴風雪では無理かも。広面に引っ越してきた40年ほど前、大学病院以外は建物がなく水道はしょっちゅう凍っていた。水道管が凍る温度が零下7度だった。この20年、水道管が凍ったことはなかったから温暖化というのは本当なのだろう。寒くて長い夜はもっぱら本と映画。辻まことの生涯を描いた西木正明著『夢幻の山旅』、精神病の男女の恋愛を描いた映画『世界にひとつのプレイブック』の2本立て。

12月28日 今日も強烈な寒さ。昨夜は生まれて初めて「カイマキ」を使って寝た。カイマキの存在は知っていたが、あの袖のついた着物状の綿入れを、まさか自分が使うとは思ってもみなかった。ところが1週間前、カミさんからクリスマスプレゼントにもらった。なるほどこれは暖かい。肩も冷えないし、汗をかくような毛布的な暑さをもない。

12月29日 カイマキのおかげでぐっすり寝られる。今日から東京とんぼ返り。恒例の忘年会が2つ。明日の帰りの電車はやはりチケットが取れず(当たり前だ)、グリーン車。まあたまにはいいでしょう。飛行機を使わないのは本を読めないから。電車の一番の難敵は風邪ひき咳野郎(女もいるか)。車内でゲホゲホ、クシュンクシュンやっているのが必ず一人はいる。運が悪いと隣同士になったりする。ひどい場合は席の移動を車掌にお願いするが、たいがいはじっと我慢をするしか手はない。
(あ)

No.882

黙殺
(集英社)
畠山理仁

 サブタイトルは「報じられない無頼系独立候補たちの戦い」。全体が三章構成になっていて、丸々最初の一章が「マック赤坂という男」。その他の章で残りの「泡沫候補」たちの出自から思想、選挙の戦い方など、それぞれの人生の軌跡が描かれている。映画「選挙」でマック赤坂のキャラクターは大体知ってはいた(あの映画は実に面白かった)。だから本書を読んでも特別驚くべき事実はなかった。それでも鳥越俊太郎などよりは数倍マック赤坂のほうが「人格者」に見えてくる。本の力というか筆の威力というのは不思議だ。マック赤坂は京大農学部卒業後、伊藤忠に入社。レアアースの開発を手掛け48歳で独立、そのレアアースの世界で成功を収めている。どうやら東日本大震災では「人知れず」億に近いお金を寄付している、と書かれている。これは本当だろうか。赤坂以外の「おなじみ」泡沫候補もほぼ網羅されている。その中で一人、「泡沫候補の星」といわれる人物がいる。元加西市市長中川暢三だ。中川は信州大卒業後、鹿島建設に入社、在職中に長野市長選に立候補。その後、生まれ故郷の加西市市長に当選し2期務めた。いまは東京知事選から大阪、神戸と大きな選挙では必ず中川の名前を見る。私はこの中川とドイツ旅行でたまたま一緒になったことがある。外国でもずっと携帯電話で誰かと話し続けていた。乾電池で電源補充をしながら電話をかけ続ける姿は「異様」だったことを鮮明に覚えている。

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