Vol.880 17年10月21日 週刊あんばい一本勝負 No.872


鹿とカミナリと保険と

10月14日 東成瀬小学校の学習発表会を取材。小1から小6までの102人の児童たちの奮闘を目の当たりにして感動。普段はプロの演奏会やパフォーマンスでさえ途中で嫌になり、あくびのひとつも出てしまうのに、児童たちの劇や歌や群読、金管奏に3時間以上くぎ付け。自分の子供の出番が終わっても帰らない人たちにも驚いた。少人数でコミュニティが小さなことの利点は、思っている以上に、強い何かを持っている。

10月15日 学習発表会の後、友人のSさん宅でおいしいお昼をごちそうになった。そのさい、さりげない一言にビックリ。「昨夜、小学校前の国道で大きなシカと会って急ハンドルを切った」。角があったし大きいからカモシカと間違えるはずはないという。「それは役場には報告した?」「してません」。村ではクマや小動物と出会うのは日常風景だ。でもニホンシカが東成瀬にいるというのは誰も確認していないニュースだ。すぐに村のマタギの重鎮であるTさんに電話。Tさんも驚いた様子で、すぐに調べてみるとのこと。東成瀬のマタギは冬季の狩猟シーズンになると山を越え太平洋側の三陸まで遠征し駆除要請のでているシカを撃ちに行く。シカを見慣れているし(秋田県民はシカを見る機会がほとんどない)、その習性にも詳しい。シカの存在が確認されれば、すぐに何らかの手が打たれることになるだろう。

10月16日 戦後まもなく生を享け、東京オリンピックは10代、GNP世界2位になったのが20代、高度経済成長の続く70年代は30代で、仕事の絶頂期とバブルが重なった40代から50代。2000年代に入り50代後半あたりから身辺に暗雲が立ち込めだした。人口減少や少子高齢化の嵐が自分の老化と歩調を合わせて寄り添ってきた。社会があと戻りできない「下り坂」の時代に突入した。時代と歩を合わせて自分自身も下り坂だから平仄はあっている。しかし若い人は納得できないだろう。これから山に登ろうとしても下山中の老人たちが我が物顔で道をふさいでいる。こんな世の中をつくった張本人たちが登山の邪魔しているのだから世話はない。若い人に道を譲る方法をまじめに考えている。

10月17日 ゴトゴト列車に乗って刈和野へ。各駅停車の電車に流れるゆったりした時間が愛おしい。年に何回かは刈和野にある「工芸ギャラリーゆう」のK夫妻に招かれ、素晴らしい庭を愛でながら一献やる。作家のSさんやご近所のもやし屋(種菌)さん、酒蔵の杜氏さんが常連メンバーだ。K夫妻の心からのお料理やホスピタリティが文句なしにすばらしい。だから、どんな忙しくてもこの会には欠かさず参加する。前回は予想外の男性コーラス隊が待機していて驚いたが、昨夜はそれぞれのメンバーの含蓄のあるお話がメイン。それにしてもK夫妻のホスピタリティはすばらしい。それにこたえる術を持たない自分が情けない。

10月18日 税理士のA先生が来舎。決算報告書の説明を受けた。中身はまあいいとして今回で決算は37期目。「よく続きましたねえ」とA先生に褒められた。そのA先生の税理事務所もうちと同じころの創業だ。当時はまだ他の事務所で働いていたA先生が自立と同時に経理をお願いした。だからうちと同じ法人年齢だ。先生は「75歳までは私も頑張ります」とまだまだお元気。お互い年をとったが、もうひと踏ん張りしなければ。小生は5年後、72歳になる。無明舎は創業50年になる。そのあたりまでは頑張りたい。

10月19日 昨日からストーブをつけ始めたのだが灯油が吸い上げられず不着火。業者にストーブ点検をお願いし午後から来てもらうことに。昔はデブだったので寒さにはめっぽう強かった。すき間から吹雪が入ってくるアパートでも平気だったし、50代までは「モモヒキしらず」。それが55歳をこえたあたりから一転、やたらと寒がるように。朝晩の寒さに敏感になり、寝間着の上にダウンジャケットを羽織る日々だ。昔に比べれば10キロ以上痩せたので、その影響もあるのだろうか。今日も寒いがエアコンをヒーターにかえ、ストーブが直るまで耐えるしかない。

10月20日 ストーブが着火しない理由が分かった。業者さんが来てチェックしてくれたのだが、意外にも屋外にある灯油を吸い上げるサーバーが機能していないことが判明。どうやら「カミナリ」のせいのようだ。9月末のあのカミナリで電話線のサーバーがダメになりPCにも甚大な被害が出た。でも運がよかったのは火災保険に入っていたこと。すんなり満額がおりた。今回も原因はカミナリなので、また火災保険申請をするつもり。保険をかけている事すら忘れていたが、何十年もかけ続けてきた結果の、当然の権利だ。掛け捨てた金額に比べればもらう金額は微々たるものだが、身の不運を嘆く時間は短くなったから、まあいいとしよう。
(あ)

No.872

僕たちは島で、未来を見ることにした
(木楽舎)
阿部裕志 他

 若者のローカル志向というか、自分の生まれ育った地域を見直す気持ちやふるさとを求める志向は、どうやら確実に高まっているようだ。「未来」の日本が地域から見える時代なのだろうか。価値観も多様化も流動化し10年後は誰にも予測不可能な時代に生きている。本書は、高学歴で一流企業(トヨタ)から一転、島根県海士町に移住した若者の、島からのレポートである。最近よくこの海士町のことが周辺で話題になる。近く鳥取県の「ブックインとっとり」というイベントのシンポに出席するので、次の日海士町に行こうと思い、ネットで調べると、なんと鳥取県からでも半日以上かかる離島であることが分かった。同じ日本なのに、秋田からだとブラジル・アマゾンに行くほどの時間がかかってしまうのだ。こんな離島に高学歴の若者たちが次々と移住し、あるいは島で学んだノウハウを武器に列島各地で活躍し、その影響力を広げている、という。最近も東京で取材した「離島キッチン」という飲食チェーン店も、社長の生まれは秋田だが、ノウハウは海士町で学んだ若者だった。県内の五城目町でも海士町で学んだ若者たちが活躍するコミュニティがあるそうだ。島で学び、その学んだことを自分の次の一歩につなげ、島を卒業して各地に散っていく。なんだか興味深い。遠くてもいいから一度は島の持つ魔力を体験してみたいものだ。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.876 9月23日号  ●vol.877 9月30日号  ●vol.878 10月7日号  ●vol.879 10月14日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ