Vol.541 11年3月26日 週刊あんばい一本勝負 No.535


地震日記2

3月19日 うちの著者の出身県で秋田以外で最も多いのは宮城・仙台。その仙台から「無事です」という連絡が昨日あたりからはいりはじめた。こちらはもう普段通り仕事をしているのだが、物流がダメなので仕事にならない。物流というのが現代人の暮らしに占めている「巨大さ」や「重要性」を思い知らされた。どうしても仕事上必要になった本を入手するため、今日は秋田空港まで航空便を取りに行く。

3月20日 近所の大きなスーパーに行列ができている。そこから100メートルほど離れた小さな牛乳屋さんには米も牛乳も大量に売られている。なのに多くの人は列のほうを選んで黙々と並んでいる。そこからさらに反対方向に行くと昔からやっている小さな八百屋さんがある。ここにも野菜や果物など豊富にあるのだが、客はいない。物がないのは大手チェーンの一律配送システムのせい。地場産のものはちっとも不足していない。自家用車時代に盲点となっている「小さな世界」だから見えないのだろうか。歩くと見える。ただしガソリンだけは「地場産」がない。これには手の打ちようがない。

3月21日 テレビを見ていると三陸付近の海の町の被害は克明に報じられているのに、仙台情報がさっぱり出てこない。昨日仙台駅構内のすさまじい崩壊をみて思ったそんなことを想った。神戸の震災のようにビルが崩れたり市街地が燃えたり繁華街で人が死んだり、といった都市災害はなかったのか。とにかく不思議なほど仙台の被害実態が伝わってこないのだ。海沿いの町に比べたら被害は軽微だから、という理由なのだろうか。

3月22日 物流が止まっているので仕事にならない。本を読みたくてもアマゾンでは「東北方面はダメ」といわれるし、読者から本の注文があっても宅配業者は集荷に来てくれない。システムや道路ではなくガソリンの問題のようだ。郵便局のレターパックという便が今のところ唯一の頼り。ゲラを小分けして(容量制限あるので)せっせと印刷所に送っている。今日あたりから宅配営業所止めで荷物が入っているようだが。

3月23日 並ばなくともガソリンも牛乳も手に入るようになった。秋田市に限ってだが。問題は本の物流、アマゾンも注文にこたえてくれないし、卸である取次店の対応もノロい。アマゾンは市川の物流倉庫が機能していないようだし、取次は仙台支店の被災がネックになり全体が回っていない印象だ。仙台の情報が入らずに東京が混乱している、という構図のようだ。だからといって仙台の克明な情報をうちに求められてもなあ。待つしかない。

3月24日 1年で最も忙しい3月に備えて前月からいろんな準備をしてきた。配本準備やマスコミ対策、新聞広告や書店対策に増刷も2点、その間に取材や飲み会までびっしり。いまのところ新刊や増刷が2週間遅れなだけで他はスケジュール通り。一番の危惧は集中力の欠如だ。地震でいったん途切れてしまった集中力のために、本の中身にミスが出てしまうのだけは避けなければならない。やさしそうでけっこうこれが難しい。

3月25日 今日は山形市まで出張。交通の便が良くないので車で行くのだがガソリン補給が心配。そこで新庄市まで車で行き、そこから山形新幹線に乗っていくことに。何とも面倒だが、旅をしているという気分は味わえる。車の運転は不得手だし、電車の閉塞感も好きではない。でも毎日机の前に垂れこめてウジウジと脳内散歩してるよりは、外の空気を吸えば前向きな気分になれるかもしれない。
(あ)

No.535

ブラジルの流儀
(中公新書)
和田昌親

この30年間で10回ほどブラジルを訪れている。1年前、この地を訪ねたとき「あれッ、なにかが違う」と直感した。治安の悪さがリオやサンパウロの特徴だったのだが、街からすっかりその「危険な匂い」が消えていた。何が変わったのだろう。仔細に嗅覚を研ぎ澄ますとわかってきた。あきらかに低所得者層という人たちが少なくなっているのだ。物乞いや泥棒で生きるしかなかった人たちがワンランク上の暮らしを手に入れている。ルーラという大統領の手腕なのだそうだ。アマゾンの小さな町ではもっと顕著だ。アマゾンに行くと「ブラジルの変貌=豊かさ」がよくわかる。田舎に行くと交通手段は歩いたり自転車がほとんどだったのに、今回行くと多くの人がオートバイに乗っていた。この5年で大きく暮らしが変わった。ブラジルで今何が起きているのか。「21世紀の主役」と自らが公言、が、そんなたわごとはもう誰も信じない、と諦めかけていた21世紀に入り、本当にブラジルは世界の主役に躍り出ようとしている。そのことを豊富なデータとジャーナリスト的な視点で描いたのが本書だ。著者は日経新聞の元記者で現在は日経HR社長。バランス感覚に優れたブラジル論で、政治経済の変遷がよくわかる。

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