Vol.463 09年8月1日 | ![]() |
体力・書名・田中小実昌 | |
いやはや8月である。札幌に出張したり、「伊藤永之介を偲ぶ会」があったり、いろんな方と打ち合わせしたり、能代まで出版打診に出かけたり、ほとんど椅子を温めるヒマもないほど、外を飛び歩いた珍しい1週間だった。 正直かなり疲れている。それでも先週の鳥海山登山は体力を温存するためにキャンセルしたのがよかった。あれを登っていたら、いまごろどこかに確実に疲労蓄積の影響が出ていただろう。 秋に出る3冊の新刊の書名が決まらずに四苦八苦している。これまでの経験上、ある程度集中してその原稿やテーマに真正面に向き合えば、それらしき言葉はおのずと出てくるのが常だったのだが、今回はそう簡単にいかない。3冊とも小生の力量をはるかに超える実績と才能を持った方々の原稿なので、うわべをつくろうだけの言葉の羅列では、そのテーマの深さや面白さをうまく表現できない。本当に七転八倒している。誰か助けてくれないだろうか。 そんなわけで好きな本を読む「余裕」もない。読みたいと買っておいた本は、仕事上の厄介な問題がひと段落したら、じっくり読むつもり。こんな時は短いエッセイでお茶を濁すしかない。ホテルのベッドで、事務所のソファーで、自宅トイレで、実はある作家の短いエッセイを集めた本を集中的に読んでいる。『田中小実昌エッセイ・コレクション』(ちくま文庫)である。全3巻で「ひと」「旅」「映画」と内容別に分かれている。旅で出るときは「ひと」、便所では「映画」、事務所では「旅」を読んでいる。ほとんど3冊の文庫本を同時進行で読んでいるのだが、抜群に面白いのは「映画」。ほとんど観たことのないB級映画が主なのだが、とにかく映画の評価の仕方が小実昌風で吹き出してしまう。観たこともない映画を見たいと思わせるのだから、これ以上の映画評はないのかもしれない。 映画も本も人が簡単に殺されるものは苦手、と昔から広言してきたのだが、小実昌山も同じようで、その理由がふるっている。虚構の世界で殺人が起きるととたんに「物語が甘くなる」のだそうだ。なるほど、そうか。 (あ)
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