Vol.378 07年12月15日 週刊あんばい一本勝負 No.344


飲食・偶然・物忘れ

あわただしく1週間が過ぎてしまった。週のうち3日間は外でお酒を飲む、という最近では珍しい展開になった。ひとつは仕事がらみで新聞社の人と差し向かい(男だけど)。二つめは「一人酒」。これはある会から抜け出す口実だった。三つめはエアロビの古くからの友人たちとの忘年会(これは小生以外全員女性)。週に三回の外食はさすがにきつい年齢になってしまったが、酒量はかなりセーブできるようになった。いい気分になって一人で二次会に出かけたり、〆にラーメンを食べたりする暴飲暴食はすっかり影を潜めています、いまのところ。
雪に備えて植木を吊る作業
飲み会の話で思い出したが、先週、東京での菊池寛賞の翌日、仙台に寄った。友人と国分町の小さな居酒屋カウンターで飲みながら、昨晩の受賞パーティーや盛大な文春忘年会のことを友人に自慢げに披露していた。しばらくして隣に女性3人が座った。「エッ、あなた京大なの?」「どんな作家、好き?」と、最近の若い女性らしからぬ話題で盛り上がり出した。やたら本に詳しそうな様子から見て同業者か? とその会話に興味を持ちはじめたら、「阿川佐和子さんがさあ……」とか「桂三枝と小沢昭一のスピーチが……」といった言葉が飛び込んできた。驚いて「もしかして昨晩ホテル・オークラにいらしてたんですか」と声をかけると、「はい、わたし担当者(文春の社員)です」とのこと。あとの二人の女性は仙台の大きな書店の社員だった。昨日、東京の同じパーティーに出ていた同士が24時間後、何の関係もない仙台の居酒屋で再会したのである。こんな偶然があるんですね。いやはや、ビックリしました。

またぞろ夜はDVDで映画鑑賞にはまっています。本と違って映画は基礎的知識が圧倒的に不足しているので、レンタルビデオ屋で選ぶのが一苦労です。本なら何の予備知識がないまま本屋を一回りしても、自分のその時の気分や興味の方向性から、自分にピッタリの「読むべき本」をすぐに見つけることができるのに、映画はそうはいきません。借りる映画の8割は観てから「失敗だ…」とうなだれてしまうものばかりで、徒労感もかなりのものがあります。それにつけて加えて「物忘れ」にひどさもあります。この2年ほどの間に、ヒッチコック監督の「ミス・スミス」(でしたっけ)という作品を計3回借りています。前に観たことを忘れているのです。3回目は最近ですが、前半部を見終わるまで、すでに2回も見ていることを失念しているのですから筋金入りのアホです。
映画の中盤になって「次はこんな人物が登場して笑いをとるんだっけな」と次のシーンが読めるようになって、「あれっ、これ、観たよな」となる。あ〜あぁぁぁ〜いやだいやだ。どんどん、こんなことが多くなっていくんだろうな。いっそ前に観たことがぜんぜん思い出せなくなってくれれば……。
(あ)
仙台駅構内
オープンした秋田駅前のジュンク堂

No.374

胸の中にて鳴る音あり(文藝春秋)
上原隆

 『友がみな我よりえらく見える日は』はすごい本だった。普通の人の生き方に胸を打つドラマを見出す手法には舌を巻いたものだ。まさに珠玉の小宇宙、という感じだった。「日本のボブ・グリーン」という評価を素直に信じた。次の『喜びは悲しみのあとに』や『雨の日と月曜日は』もまあまあの出来で、それなりに楽しめたのだが、パターン化した市井の人々の描き方がだんだんと鼻についてきたのも事実だ。ノンフィクションよりも評論風のものも読んでみようと上野千鶴子や「普通の人の哲学」といったものを読んでみたが、これは論外だった。評論を読んでからこの作家への興味は若干薄れてしまった。この著者の本は圧倒的に幻冬舎から出たもの(のみ)が面白い。他の版元から出たものはどれも楽しめなかった。本が出るたびに版元が代わるのもちょっと引っかかるのだが、何か個人的な事情があるのだろうか。東大の時計台のなかで時計修理する老人、介護地獄と向き合う元キックボクサー、レズビアンのシャンソン歌手、不倫に悩む女性などが本書のテーマだが、取材対象の選び方からして、もう腹いっぱいの物語をたっぷりはらんでいるイメージ濃厚で,読む前から顛末の想像がついてしまう。テーマや人物の選び方そのものに問題があるのかもしれない。細川内閣の官房長官をした武村正義を取材した「たったひとつの椅子をめざして」が少し面白かったが、これも不完全燃焼だろう。

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