Vol.1312 2026年2月21日 週刊あんばい一本勝負 No.1304

年取ると時間が速くなる訳

2月14日 年をとると時間の経過が速くなる。これには科学的な根拠がある。脳が一定の時間内に認識する明確な「出来事」が少なくなり、日常の体験が圧縮されて知覚されることが原因だそうだ。あるコミュニケーション生物学誌に掲載された研究成果だ。高齢者の脳では神経状態の切り替わりが少なくなり出来事の認識が減少する。脳領域の専門性が低下して、それが記憶や情報処理に影響を与える。認識する出来事が少なくなれば時間は速く感じられる。ということは新しい経験を積むことで、この感覚を緩やかにできる、といえる。 新しいことを学んだり、旅行したり、意義のある社会的交流に参加することで、体験の記録が増え、経験が豊かになるとともに時間の感覚も長くなる、のだそうだ。

2月15日 このところ天気がいい。街の雪もとけて歩道に雪のないところが増え、歩きやすくなった。デジカメを携えて「路上観察」の散歩へ出たのだが、予想通り昨日の路上は「宝の山」だった。雪の中に埋まっていたゴミが雪がとけて露出、いい具合に被写体になった。多くはタバコの吸い殻で、次が菓子袋、マスクもある。毎年、春になると4,5回は発見する「片手袋」も最近は見かけない。これは何か理由がありそうだが、その探索はやめた。お前はいつまでゴミに興味を持ち続けるつもりか、という天の声が聞こえたからだ。

2月16日 ふた昔ほど前、仕事場の前は広大な田んぼだった。1町歩はあったろうか。冬は雪野原で、よくノルディックスキーのまねごとをした。こんなことを思い出すのもテレビのオリンピック中継の影響なのだろう。ある時、私が田んぼで一人滑る(歩く)のを、じっと見続けている人がいた。お隣の奥さんだった。「楽しそうですねぇ」と声をかけてくれたのだが、後から、彼女はスキーの名門、湯沢北高の有名なノルディック国体選手だったことを人づてに聞いた。それからきっぱり、田んぼで滑ることをやめた。その奥さんも夭逝し、隣の家は空き地になった。最近、新しい買い手が付き、今月、新築の家が建った。

2月17日 薬を買いに行った薬局で、対応していた若い男性薬剤師が目の前でくずり落ちるように倒れた。周りには若い女性薬剤師らが数人いたが、ほとんど騒がず、静かに、電話で救急車を呼んだ。大学病院のそばなので、すぐに救急車が来た。何事もなかったかのように男性は運ばれていった。その間、女性たちは平常時そのままに業務を続け、時折、倒れた同僚のことを一言二言、会話をかわしていた。その冷静な対応力に感心した。大きな声を出すものは一人もいなかった。もし、このメンバーに40代くらいの男性リーダーがいれば、ここは俺が仕切る、俺の出番だ、とばかりに大声で指示、非日常的な動きで、「やってる感」をだしていたかもしれない。若い女性って度胸が据わっている。

2月18日 今年発表された25年度「植村直己冒険賞」は由利本荘市出身の小坂薫平さん、30歳だ。東京海洋大に在学中に始めた、素潜りで巨大魚を突く「スピアフィッシャー」という競技で、4メートルの手もり漁で100キロ超えのマグロを捕るなど、6つの世界記録を樹立している若者だ。潜水68メートル、息止め6分45秒って、君は魚か。空気ボンベや水中銃を使わず、もり一本で挑戦するというのが、何ともかっこいい。こうした若者に賞を与える選考委員もセンスがいい。たまたま秋田の若者だったわけだが、「できる限り海と対等でありたい」というコメントが泣かせる。

2月19日 散歩から帰ってくるとガリガリ君を一本食べるのがごほうびだ。コンビニに行くたびに、ガリガリ君にはブドウやグレープフルーツ、チョコやコーラ、ミルクやベリー味の多くの種類があることを知り、いまは毎日違う味のガリガリ君を楽しんでいる。お気に入りはパインとメロンだが、ネットでこの製造元の赤城乳業のことを調べてみると、まだ見たこともない「プレミアムキャラメル味」と「完熟マスカット味」があることが判明、内心胸騒ぎが収まらない。キャラメルもマスカットも秋田では見たことがない。どこに行けば買えるのだろう。場所がわかれば車を飛ばして買いに行きそうな、自分が怖い。

2月20日 散歩のたびにガソリンの値段を確認している。先月は確か142円まで下がっていたが、昨日は153円。先日、夜が一人だったので居酒屋にでも行って酒でも飲むか、と張り切って外出した。しかし駅前デパートで九州物産フェア―をやっていて、そこで珍しい酒の肴を2,3品買い、そのままUターン、事務所で一人飲みした。もう他人の目を気にしながら、外で酒を飲むのは面倒くさい。仕事場で酒を飲みながら「日本人はいつから帽子をかぶらなくなったのだろうか」と唐突に疑問を持った。モノクロ映画を観るのが好きなので、昔の男たちはたいてい帽子をかぶっている。調べてみると、男たちが帽子をかぶらなくなったのは「戦後から」だそうだ。ちなみに「どうも」という挨拶が日常会話になったのも戦後まもなくらしい。いやいや、またひとつ賢くなっちゃった。

(あ)

No.1304

第3部 普天を我が手に
(KODANSHA)
奥田英朗
 3部作最終巻の本書は、7日間しかなかった昭和元年生まれの主人公4人が、それぞれ検事や政治家、ジャーナリストやプロモーターとなって、お互いの運命を交差させながら激動の戦後を駆け抜ける。第1部の大正天皇崩御からはじまった物語は、この3部の昭和天皇の大喪の礼で幕を閉じる。著者が「一生に一度の10年仕事」という大長編小説だが、合計1700ページの、普通の単行本にすれば7冊分くらいの本を巻を措く能わず一気呵成に読んでしまった。4人の主人公を一人ずつバラしてそれぞれ単行本にしても通用する物語だが、あえて4人を歴史の中で交差させ、物語に面白さと深みを加えたのはさすがである。9月から刊行がはじまり12月まで、この3冊の本で、読書の楽しさをたっぷり味わわせてもらった。今回の最新作でも随所に「秋田」が登場する。満蒙開拓視察のため渡満してきた秋田県代表団や、主人公の一人、森村ノラの亭主になる東大出の通産省の役人は、秋田の貧しい農村の出身だ。そして笑ったのが「スリ」だ。これは彼の代表作でもある「オリンピックの身代金」に登場した土崎空襲で家族を失った「村田」というスリが、なんとこの最新作でもまったく同じ名前で登場している。最終的にこの4人は「政治家」になるのだが、この結末だけは個人的にがっかりした。

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