1 トメアスー最新事情
1 道路が怖い!
ベレン国際空港に降り立っても、まといつくような熱気はない。1月も終わりのこの時期はアマゾンも雨季に入り、肌寒い日すらある。
空港にはトメアスの佐々木ジェットーリョが車で迎えに来てくれた。前回来た時も彼が迎えに来てくれたのだが、今回は彼の10歳になる息子のケイゴ君も一緒だ。前に会った時は独身だったのに。
 「2時間半あれば、トメアスに着きます。このまま村に向かいましょうか」
とジェットーリョが言う。当初の計画では目的地であるトメアスに行く前にベレンで1泊、次の日にトメアスに行くつもりだったのだが、そのままトメアスに向かうことにした。

  アマゾン河口の大都市ベレンから直線距離にして200キロほど南下したところに、昭和初期から日本人が多く移民した村、トメアスはある。
そこに行くにはバスか船か車、タクシーなどがある。バスは天候次第で4時間から7時間かかるし、船だとまる一昼夜。タクシーは日本円で2,3万円ほどかかってしまう。テコテコという軽飛行機タクシーもあるが、道路が良くなった最近はほとんど飛んでいないそうだ。そういえば15年前、このテコテコに後学のため乗ったことがあった。所要時間は40分、飛行機代は日本円で三万五千円ぐらい。4人乗りのプロペラセスナでパイロットと助手が乗り込むので定員2名のみ。アマゾンの森林破壊の現状を空から見たい、と思ったのだが、窓からスースー入ってくる風が気になり、下の風景に集中できなかった。窓枠の隙間から洩れて来る風を、テコテコはガムテープで止めていた。

 時間に縛られず、安全で、安く行くためには自家用車で送迎してもらうのが一番だ。幸いなことにトメアスにはベレンにも家や仕事を持ち、頻繁に往復している人たちがいる。ジェットーリョもその一人だ。それにしても「2時間半」というのは本当だろうか。
はじめてトメアスを訪れたとき(もう30年以上前だが)、交通機関はバス以外なかった。そのバスも時間は不定期で、やむなくベレンからトメアスへ緊急で向かう救急車に乗せてもらった。未舗装の道路は雨が降るとグチャグチャになり、それが乾くとデコボコ道。グチャグチャとデコボコを避けながらの蛇行運転で、わずか2百数十キロといいながらも高い運転技術が要求された。
  さらに途中にグァマ河というアマゾン川の支流が陸を分断している。1.4キロほどの川幅だが橋はない。バルサと呼ばれる簡易フェリーで渡るのだが、この発船時刻にうまく合わなければ、はしけで2,3時間は待たされることになる。はじめてトメアスを訪ねたときは8時間ほどかかった記憶がある。
もうひとつの難関は土ぼこり。対向車とすれ違うたびアマゾン特有の赤土のほこりが舞い上がり、数百メートル先まで視界ゼロになる。この土ぼこりが原因の交通事故で死亡した移民も少なくない。現地の人たちは対向車線とすれ違う直前、フロントガラスにこぶしを付き当てる。対向車がはねとばす路上の石がフロントガラスを直撃しても、割れた破片が運転手側に突き破ってこないようにするための予防手段である。この現地の人たちのなにげない動作が、よりいっそう怖さを助長する。
対向車のほとんどは木材運搬のための巨大コンボイだ。ベンツやボルボのマークを付けた木材運搬の車が100キロを超すスピードで未舗装の車線のない道路を赤い土煙を上げながら走りぬけていく。
目をつぶりたくなる恐怖に襲われる。ぶつかれば大破するのは乗用車で、コンボイたちにはまちがっても死の恐怖はない。