No.94
困った時の「前岳」頼み
[太平山・前岳(774m・秋田市――2015年1月25日)]
 困った時の「前岳頼み」ということばがあるほど、秋田市内の大平山・前岳は頼りになる存在だ。この時期、雪山でいい山を探すのは至難の業だ。ロケーションと雪の具合、山の大きさの加減から、アプローチの道路状況など、山そのものは低く安全でも、それ以外の要因で不可能になる山がけっこう多いからだ。
 その点、前岳は理想的なのだ。秋田市内から15分ほどで行ける「都会の山」であること。でありながら簡単な山ではなく結構ハードだ。登山口までのアプローチが容易で、着けば即登り始めることができる。そういうロケーションのせいか、逆に常に登山者であふれていて駐車場を確保するのが容易ではない。
 今回もどうにか1台分のスペースを見つけて、ねじこんだ。登るよりも駐車場所を探すのにエネルギーを費やしてしまう。
 それにしても今年は雪が少ない。メディアは日本海側の豪雪をニュースで取り上げるが、こと秋田市に限っては、まったくと言っていいほど雪は降っていない。
 雪山となればスノーシューやかんじきを履いて登るのが常識だが、登山客でにぎわう前岳は先行者の踏み跡がある。豪雪時でもツボ足で大丈夫な山だ。これも多くの登山客が冬でも途絶えない理由かもしれない。
 今年の登山路は土がむき出しになっている箇所が何カ所もあった。これも珍しい。

観音像はいつも雪の中なのに……

森の中は静かだ
 登り始めて1時間、そろそろ会いそうだなと思ったあたりで、タイミングも良く身体に鈴をいっぱいぶら下げたO先生が下りてきた。O先生はもう80近い年齢だと思うのだが、年間300回近く前岳に登っている。ちょっと信じがたい数字だが、前岳に来るとかならずO先生に会う。ちなみにO先生はうちの本の著者でもある。O先生と立ち止って5分ほどお話をして、再度気合を入れて登り始める。
 山頂手前の女人堂に到着すると、見計らったかのように女人堂陰からモモヒキーズメンバーのAさんとSさんが不意に顔を出した。今日は欠席だったはず……そのすっとぼけた登場の仕方や演技じみた表情から、先回りして待ち伏せしていたのは一目瞭然だ。欠席の返事はしたものの当日の予定がキャンセルになり、急きょ、われわれよりも早く登って、案の定、待っていたのだそうだ。
 山頂までは2時間ちょっとかかった。夏道なら1時間強できてしまうから、やはり雪山はハードだ。
 山頂でランチ。頭上に青空がひろがり、気温もそれほど寒くはない。ここまで来ると必ずといっていいほどメンバーから、「いい天気だから中岳(952m)まで行きましょう」という意見が出るのだが、リーダーのSの判断は「NO」。中岳に行くつもりなら出発をもう1時間早める必要がある、という。冬の雪山は3時を過ぎるともう危険信号だ。Sリーダーのいう意見にみんな素直に従った。
 温泉は「ざ・ぶーん」。県内で最も多く利用している温泉だ。ここの露天風呂は広くて景観もよく、あまり熱くないので長く浸かっていられる。このへんが好きなところだ。

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