No.84
ニホンシカを見損ね、玉川で傷口に塩
[焼山(田沢湖町・1366m――2014年10月19日)]
 食害などに苦しむ他県の人には理解できないかもしれないが、死ぬまで一度でいいから秋田県内で野生のシカを見てみたい、と思っている。10年程前、「八幡平の山中で岩手から越境してきたシカらしきものを見た」という友人の目撃証言を聞いて胸高鳴った覚えがある。爾来300回以上山に登っているのに、クマにもオコジョにもマムシにも出遭ったのに、ニホンシカにだけは出遭っていない。県内では絶滅して久しいから、秋田県民の誰もが「見たことのない幻の動物」であるからそれもしょうがないのだが。それが最近、白神や県内各地で目撃情報があいつぎ、ついに先月は鳥海山の中島台でも県道で発見された。もう疑いようはない。秋田にもかなりの数のシカが生存しているのだ。温暖化で雪が少なくなり、マタギは不在、天敵オオカミは絶滅。やつらシカの天国なのだ。
 というわけで、今日は八幡平・焼山登山。もしかすれば岩手から越境したニホンシカがいるのではないか、いやがうえにも期待は高まる。
 登山口に向かう途中、見事な紅葉に見とれていた。突然、先行車が急ブレーキをかけて停まった。なにごとなのか、事故ったのか。いや、道路脇でニホンジカと遭遇したという。あわてて森に目を凝らすが痕跡はなし。先行車3人全員が目撃したというが、信じたくない。口裏を合わせているのではないのか。悔しい。痛恨の失態だ。それにしてもこんなに早く敵が目の前に現れるとは。もうかなりの数のシカが県内に生息しているのは間違いない。

渡渉もけっこうある

ちょっぴりスリルも
 焼山は今話題の活火山だ。火山活動は平常レベル1。それでもいたるところで水蒸気や流化ガスが噴き出している。
 今日は定番コースとはちょっと違う「新ルート」だ。後生掛温泉駐車場からベコ谷地湿原を通って湯ノ沢をわたり鬼ヶ城を巻いて避難小屋に出る。そこから40分ほどで山頂に出る。
 山中の紅葉はもう終わり、少し寒々とした緑と枯れ葉の、さびしそうな表情を見せていた。ダケカンバの白骨のような樹木が冬の近さを感じさせる。途中でゴムボートを担いだ若者たちに会った。山中でゴムボート、シュールな光景ではないか。秋田大学で物理学を学ぶ学生たちで、山中の池で地質調査をするのだそうだ。御苦労さま。
 山頂は何もない場所なのですぐに下山、避難小屋でランチ。最近はランチの際にOさんが作ってくれるミルクテーが楽しみになった。なにせ1リットルの牛乳パック持参でつくる本格的な紅茶、これを呑むともうインスタントは飲めない身体になってしまった。
 下山はもうせん峠を抜け国見台を経て後生掛温泉に帰ってくる。登りは3時間以上かかったが、下山は2時間で下りてきた。けっこうゴロゴロの石道も少なくないのだが、急坂がない分、下山の足取りは軽い。  
 下山後の温泉は「ブナの森 玉川温泉」。十和田八幡平国立公園内にある。ここは初めてはいる温泉だが、うちの本を扱っている温泉でもある。玉川温泉系の本の売れ具合をチェックしたが、あまり売れていないようだ。
 温泉の外観は近代的な建物だが、中は木造を生かして古びた雰囲気はつくりだしている。硫黄臭がすごいが、何も考えずに3つある浴槽の真ん中に飛び込んでしまった。浴槽は酸性度で100%、50パーセント、薄めと3段階に分かれている。それも知らずにいきなり100%源泉の風呂に飛び込んでしまった。手足の小さな傷に塩をすり込まれたような激痛があり、あわてて湯船を飛び出したが遅かった。ひりひりじくじく身体が悲鳴を上げはじめ、薄めのお湯に入りなおしてもますます痛みだした。ほうほうのていで風呂場を出たものの着替えるのも苦痛なほど痛みは続いた。強酸性泉が身体にしみ込んで、しばらく痛みがとれなかった。

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