No.66
筏の大杉、キジ撃ち、まだ雪の残る山
[南郷岳(777m)・横手市山内――2014年5月5日]
 南郷岳といってもどんな山か思い出せない。過去に何度か登っているのは確かなのだが、登り終えると山のことはすぐに忘れてしまう。登ることにほとんど全精力を使い果たしてしまい、それ以外のことに頭が回らない。周りの景色や花の美しさや山容を楽しむ余裕がない。困ったものだ。今回も、登山口駐車場に着いたとき、あっ、ここか、と過去の記憶がよみがえってきた。

 登る前に山内村にある「筏の大杉」を見学。ここにも来ているはずだが、まったく記憶にない。その大杉の「威容」にびっくりした。ということは初めてなのかな、いや思い出せない。
 「筏の大杉」の「筏」は地名(集落名)のようだ。秋田県指定の天然記念物で、幹回りが11・8m、高さは43mもある。樹齢は推定だが1000年くらいとのこと。現在は成長が休止している状態だが、それにしても驚くほどの大きさだ。屋久島の縄文杉並だ。つい先日も、大曲西山縦走で神社そばにある大杉に驚いたばかりたが、この比叡山神社の大樹の風格には遠く及ばない。
               
 登り始めるとすぐに雪山に変わった。雪がないのは登り口だけ。このへんは県内で最も遅くまで雪が残っている地域なのだ。
 ブナの新緑がその雪に映えて美しい。この美しい山で、またしても私はキジ撃ちを敢行してしまった。恥ずかしい。朝起きて出なくても最近は「山ですればいいや」と横着に構えるようになった。不思議なことに山の中だといつもの倍は出る。森の霊気が大腸に好作用を与えているとしか考えられない。
 南郷岳は急峻な坂があるわけでも難渋する岩場があるわけでもない。ダラダラと山の景色や花や山菜を楽しみながら、2時間かけて山頂へ。花や景色や雪や緑を、余裕を持って味わうことのできる初心者の山といっていいだろう。
 GW中の山歩きはこれで3回目だが、そのいずれもが快晴。ついている。

これが「筏の大杉」

雪と新緑のコントラストがきれい

 山頂の広い野原でランチをしていると、神社の清掃に来ていた麓の地元集落の人たちから差し入れの「御神酒」をいただいた。銘柄は高清水。山頂で呑む御神酒はめっぽううまい。山ではお酒を飲まないことに決めているのだが、この高清水は「甘露な水」に似て、本当においしかった。
 下山は1時間。登山道は広く歩きやすい。地元の人たちが下草を刈り、きれいにしてくれているおかげだ。歩きやすいが、やっぱり下りは怖い。登山でけがの多いのは下りだ。登山のテクニックというのは「下る技術」だ。さらに悪いことにちょっぴりだが、お酒もはいっている。
 最近、爪先が靴にあたって痛い。靴ひもの指側をゆるめると楽になるよ、と友人にアドバイスされ試してみた。あらあら本当に爪先が楽になった。靴が合わない、というのはよく聞くが、あわてて買い替えたりする愚を犯さずに済んだ。いろんな先人たちの工夫や知恵で、たいていのことは既存品で対応できる、ということを肝に銘じている。だから山道具の専門店に行くこともほとんどなくなった。

 温泉は「南郷夢温泉」。健康サプリや薬草の宣伝チラシが館内の壁のいたるところに貼られている。ちょっといかがわしい感じだが、どうやら個人経営の温泉のようだ。道の駅や町営ではないから何を宣伝しようとかまわないが、テレビの通販宣伝と同じような不快感はぬぐえない。泉質はアルカリ性の単純泉、源泉かけ流しが売りで熱すぎずぬるすぎず。でもこれも翌日になれば、どんな温泉だったか、すっかり忘れてしまうのだ。なんだか虚しい。

backnumber  ◆ Topへ