No.276
田代岳・大雨被害のなかを登る
[田代岳(1177m・大館市――2022年7月22日)]
 月曜日だが、この日しか山に行けない若い女性のため(勤務シフトの関係で)の山行だ。週末よりは人がいないので駐車場もガラ空きだ。秋田市の最高温度が35度前後といわれていたからか、出がけにカミさんから「だいじょうぶ?」と声をかけられた。さらに大雨被害のことも頭をよぎる。大雨被害は私の周辺の秋田市に限ってはほとんど何もなかったが、県北部の被害はただならぬものがあった。その最前線の現場に田代岳はあるのだ。
 まず早朝の高速道で小動物の轢死体を数多く見かけた。たぶん雨による自然環境変化の影響だろう。大雨のために山や森を押し出されてしまった動物たちだ。登山道までのアプローチでも「土砂崩れ」している斜面が数カ所あった。うち一つは、通行不能になるような巨石が路上に転がり落ちていた。あと1メートル中央に寄っていれば山行は中止になっていた。川の水量も多く沢筋によっては、にごった濁流だったり、とてつもなく透明度の高い流れだったり、様々だった。山道の土砂の表面は雨で流され「小石だらけの道」があらわになり、車はしばしば腹がつかえる状態だ。それでも、こんな山奥の道路にも応急の修理改修の手が、さっそく入っていた。命や暮らしに直結することだから当然と言えば当然なのだが、この迅速さはなんともありがたい。

 今日は暑さとの勝負だッ、と意気込んで登り始めた。ものすごい急登やゴツゴツした技術の必要な岩場などがある山ではない。といっても千メートル峰だ。油断は大敵なのだが、なんと山中は風があった。太陽はギラギラなのだが、立ち止まると冷たい風が火照った身体をじんわりとさましてくれる。山にはもう秋の風が吹いていたのだ。暑くても風があれば木立のなかはさわやかなのだ。

これはアブ除けための切り抜きオニヤンマ

9合目でスナップ
 いつも田代岳はタケノコや山菜採り目的で登るケースが多い。だから山頂まで行くことは少ない。今日はちゃんと「神の稲」ミツガシワの生える池塘をゆっくり見て、久しぶりに避難小屋のある頂上に立つことができた。10年前は2時間半弱で頂上に立っていた記憶があるのだが、今回は3時間20分。やはり勝手に山は高くなっているのだ。
 ちなみに田代岳は50代のころから大好きな山で、ひとりでもよく登った。2009年には下山で、4合目の分岐を車を停めていた大広手側ではなく、荒沢側登山口に降りてしまい、そこからトボトボと歩いて1時間以上かかって大広手側駐車場にたどり着いた苦い経験がある。今回は荒沢側からの登山だった。

 温泉は二ツ井の道の駅のそばで入る予定だったが、何と休み。この時期はお盆の代替休日をとるお店や施設が多いのだ。けっきょく汗でだくだくの身体のまま、秋田市のいつもの秋田温泉プラザで、ザブン。やっぱり山の後は温泉だ。これがないと山歩きは完結しない。

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