No.163
歩けども歩けども山頂は遠く
[鳥海山(2236m・山形県遊佐町――2017年5月5日)]
 恒例のGW鳥海山祓川登山である。GWの期間中に登るのが定番なので、GW中はずっと登山のことを考えていた。体調管理に気を遣い、暴飲暴食を戒め、寝不足や便通までを考えながら過ごす。だからGWを「楽しい休日」と思ったことがない。こうなると登山も本末転倒のような気もするが、登頂の達成感はそうした「犠牲」を補って余りある。
 この時期の鳥海山祓川ルートは夏道とほぼ同じルートとは言いながら、残雪期で雪のしまっている時期だ。ほぼ直登で山頂(七高山)まで一気に登れる。登り始めから山頂が目の前に見える。そこをひたすら目標に向かって前進する。のだが行けども行けども山頂は遠くなるばかり。ほとんどフラットなところがない急坂ルートで、どこで休憩を取るのかの判断も難しい。急坂だけを4時間余り歩き続けなければならない。一年でも1,2を争うきつい山歩きなのである、この日の出来で、これから一年の山行の未来をある程度は占うことができる、特別の山といっていいのかもしれない。
 去年は9合目手前で強風のためリタイアしている。これまでの登頂戦績は4勝4敗といったところか。アタックしても私程度の登攀技術では、半分が天候や体力の加減で登頂出来ないのが現実だ。山頂に立つのはそう簡単ではない。

 今日の天気はピーカン、無風で、山頂にも雲ひとつない。今度こそと気ははやる。メンバーは8名、気心の知れたいつものモモヒキーズのメンバーだ。
 登山口からスノーシューを履いて歩き始める。雪はグシュグシュの腐れ雪。この雪でアイゼンをつけている人もいるが、雪がゆるいのでズルズルと滑りそうだ。
 腐れ雪のせいもあるが、やけに足が重い。いや身体全体がスタートからどんよりしている。どうにか皆について行くが、風がなく暑くて身体から水分がドンドン抜けていき、疲れだけが身体に溜まっていく。
 1時間半で予定通り七ツ釜避難小屋に到着。思った以上に疲労困憊で、体力が続かない。ここで私一人がリタイアを決め下山することに決めた。

駐車場の積雪は10メートル以上

この小屋でリタイア
 前日、興奮して眠られなかった。その寝不足も体力不足に影響を与えている。でも決定的な敗因は体重が増えたこと。ずっと身体が重く、雪が足にまとわりつき、疲労を引きづっているように感じたのは、たぶん敗因は間違いなく体重のせいだ。この数カ月、仕事上の多忙が続き、身体の管理が不徹底だった。外出して外食をする機会が増え、ジリジリト体重が増えた。その多忙による疲労から腰痛もあった。いずれにしても体調管理がちゃんとできなかった自分の責任を猛省するしかない。リベンジは来年までお預けだが、体重をもう3キロ落とし、再挑戦してみよう。待ってろよ、鳥海山。

 というわけで途中リタイア下山。
 登山口の駐車場で仲間の下山を3時間待つことになった。これも自業自得。駐車場は100台ほどのスペースがあり、ほぼ満車だ。秋田ナンバーは2割ほどで、あとはすべて県外ナンバーだ。横浜や名古屋、なにわナンバーもあるが、群馬や神奈川といった首都圏ナンバーが多い。この駐車場からの鳥海山の眺めも絶景だ。何時間見ていてもその眺望に飽くることがない。でも、面白いのは下山してくる登山客たちの「人間観察」だ。県外客たちのほぼ全員が登山ではなく山スキー(スノボー含む)が目的の登山である。登山そのものの目的は少なく、われわれは完全にマイナーな存在だった。
 下山してくると彼らは真っ先にスキーや装備類を車の横に広げ、整理、整備をする。後始末がみんな丁寧なのが特徴だ。もしかして明日もまたすぐ別の山に行けるように管理を徹底しているのだろうか。なかには好天のせいもあるだろうが、装備やウエアーを車のボンネットで乾かし始める人もいる。GW中、全国の雪山を車で渡り歩いている人たちも多いのかもしれない。意外だったのは喫煙者がかなり多いこと。10人前後の気持ちよさそうに喫煙する人たちを目撃した。登山とタバコは相性がいいのだろうか。
 男女比率はほぼ同率、年代は40代から50代といったところか。
 黙々とスキーを担いで4時間も苦行し、下山はほんの30分ほどで山滑り降りてくる。この山とスキーの両方の「快楽」を得るためには、何百キロの遠路のドライブも苦にならないのだろう。うらやましいが、こちらは登るだけで手いっぱいで、しかも山頂まですら夢だ。彼らとはレヴェルが違いすぎる。

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