No.159
初登頂であわや遭難寸前
[二ッ森(306m・秋田市河辺――2017年3月12日)]
 私にとっては未踏峰の山。ユフォーレのある岩谷山対面にある二ッ森は、ふだんはやぶ山で人間が入るのは困難な山だ。もちろん登山道もないし作業道路もない。そんな山が、雪が降ると絶好のスノーハイキングのロケーションになる。どこからどのように登ってもいい。
 今日はカンジキよりもスノーシューだ。平坦な道が少なく雪はまだ堅くなっていない。カンジキだと腰まで埋まってしまう可能性がある。
 登山道はないのでルートはない。この山が2度目のSシェフは慎重に地図を見ながら進路を決めていく。これまで対面にある岩谷山から何度も山容や登山用のルートをイメージし、自分なりのルートを構築し、実際に登ってもいる雪山だ。
 登りながら何度もSシェフは「こんな場所あったかなあ」と首をかしげ、地図とにらめっこしながら登っていく。平坦なところはほとんどなく、ひたすら急斜面の登りが続く。
 先頭を行くSシェフが斜面でガクリと膝を落とす行為を繰り返している。NDRだ。ニー・ドロップ・ラッセルの略で命名者は私。要するに斜面に膝で踏み跡をつけ、そこにスノーシューを置いていく、Sシェフ考案の急斜面用ラッセル法だ。なかなか便利で使える。
 2時間弱でどうにか山頂に到達。山頂は広い平地になっていた。
 下山は登りとは違うルートで帰ることにした。登りがあまりにきつかったせいもある。ところがこれが裏目に出た。降りる沢筋を一つ間違えてしまったのだ。

山頂にて

この下山で迷ってしまった
 ほとんどスン―シューが役に立たないほど身体が雪に埋まる斜面を沢まで降りて、そこでスノーシューを脱いでツボ足で川の中を歩くことにする。地図では200メートル先に登山口の水路があることになっている。沢を歩いていけば確実に登山口付近にたどり着けるのだが、脳裏には「抜け出せなかったら、どうしよう」と不安がよぎる。登山靴から水がしみこむ危険とも戦わなければならない。沢筋を100メートル以上歩いても一向に出口は見えない。川の石が思った以上に滑る。ここでこけてしまうと怪我が怖い。いや身体が冷え切って自力で歩けなくなる可能性すらある。幸いなことにスパッツが効いて水が入り込むことはなかった。
 しかしこれ以上沢筋を歩くのは危険だ。斜面にとりついて登ることにする。視界が開けない恐怖からだ。ここでもう一度スノーシューを履き、汗と雪で濡れた手袋を新しいものに代えた。登り始めるとすぐに杉林の隙間から麓の民家が見えた。助かった。そうか、こういう時はとにかく登って周辺を俯瞰するのが大事なのだ。
 久しぶりに冷や汗の下山タイムだった。雪山は怖い。
 温泉はユフォーレ。冷え切った体を温め、同じ施設内のレストランで「醤油ラーメン」。今日は早めに山を切り上げて、ランチはこの食堂で食べることに決めていたのだ。恥ずかしいが前日から、この食堂で食べるラーメンが楽しみだった。でも食べてみるとちっともうまくなく、3分の一を残してしまった。

backnumber  ◆ Topへ