No.104
藤原優太郎さんを偲んで登る山
[太平山中岳(952m・秋田市――2015年5月10日)]
 朝から曇り空。一雨来そうな雲行きだ。今日の参加者は私も入れて4人。少ないのはモモヒキーズの例会ではなくSリーダーの個人的な山行のため。無理を言って臨時参加させてもらった。
 それはともかく、この時期なのに、とにかく寒い。歩き出せば暖かくなるだろうとタカをくくって出発したが、山中もやはり寒かった。ときおりみぞれまで降りだしたのには驚いた。天候が悪くなれば前岳で引き返すという選択肢もある山だ。でも前日(八日未明)亡くなった藤原優太郎さんの追悼登山の意味もあり、今日は風雨がひどくなっても最後まで登り切ろう、と一人ひそかに決めていた。
 山ですれ違った何人かの登山者からも藤原さんへのお悔やみの言葉をいただいた。
 藤原優太郎さんはうちの出版社の著者であり、友人であり、山登りの先生でもあった。つい先日、抗ガン治療の5ステージ目が終わった、とふらりと事務所に顔を見せた。いつも通りふくよかに肥えていて、食欲もあり、髪の毛も豊かなまま。本当にがん患者なのかと疑ったほどだ。事務所にあった酢飯用の桶が気に入ったようなので、「どうぞ」といったら喜んで大きな桶を抱えて帰った。自著も10冊買い求め、そろそろ近場の街道歩きからでも再開しますから、と元気そうなそぶりで別れたばかりだった。
 そういえばこの金山滝から中岳へ至る残雪期ルートに初めて登ったのも藤原さんと一緒だった。まだ山登りを始めて間もないころで、雪のある太平山に登るなんて自分に可能なのだろうか、と前日は不安のため一睡もできなかった。あの日の山行のことははっきり覚えている。享年71。若すぎる死だが、いずれは自分も後を追う。山の楽しさを教えてもらった藤原さんに感謝しながら、一つでも多くの山に登ることが彼への供養、と今は信じるしかない。合掌。

ランチはタープを張って

この雪のない山頂ははじめてかも
 中岳山頂までは3時間。去年の今頃は確か山頂はまだ雪だった。山頂に雪はなく、三角屋根のモダンな神社が顔を出した。いつも雪の季節にしか登っていないのでこの神社の全貌を見たのは初めだ。いや初めてのような気がする。あいまいなのは、仲間たちに言わせると「何回も見ているはず」といわれたからだ。過去に登った山の記憶が薄いのは問題だ。脳に重大な欠陥があるのかもしれない。
 山頂でランチ。三角神社は狭いので、そばにツエルトをはり風を防いで即席食堂に。ランチはOさんがみんなに本格的な鴨南蛮そばを振舞ってくれた。これは美味しかった。インスタントではない。これまで食べた山メシの中で3番目以内に入る「ごちそう」だった。心身ともに温まった。
 下山は身体が軽かった。鴨南蛮そばのせいだろうか。いや、藤原さんが力を貸してくれたのかもしれない。約2時間で登山口にゴール。一度も足に疲労を感じなかったのは珍しい。
 温泉は「ざぶーん」。ここのシャワーは一度流すとずっと途切れないのがいい。いつもの露天風呂でくつろぐが、ここも風は冷たい。
 家に帰って、まずは夕飯までは早かったが、藤原さんへの献杯の意味もあり、ウイスキー。安らかに眠ってください、師匠。

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