18.  冬山の装備
 冬山で登りに使うエネルギーは夏山の比ではない。深い雪のラッセルで体中から汗が吹き出る。稜線では猛吹雪を正面に受けて進む。体全体が寒気に負けないよう、いつも緊張しているからつかうエネルギーも大きいのだ。
 吹雪の中では頭のバンダナも汗が凍り付き、堅い輪になって吹雪に飛ばされたことも少なくない。汗を吸った百均で買った毛糸の帽子は凍りついて、ただの丸い筒になり、何の役にも立たなくなる。
 私は寒さに強いほうだ。他の人が凍傷になるような環境でも無傷なことが多かった。
 ほとんどの人は、上下のアノラックなどのアウターを着用するのが冬山の常だが、私は冬山でアウターを着ることはほとんどない。余程の猛吹雪でもない限りジャケットは着ない。行動中は肌着のTシャツと長袖のフリース、それにベストである。下半身はパンツとスラックスのみ。これで十分なのだから、生まれながら寒さに強い雪国っ子である。
 こんな経験もした。下山後、「ザ・ブーン」で風呂に入った。入ったとたん、水風呂だと叫んで飛び出したことがあった。体が山中の寒気の中で冷え切ってしまい、風呂に入ったとき、体の周りの水温が低くなり、水風呂に入ったような錯覚に陥ってしまったのである。 
 吹雪の中では耳も千切れそうになるし鼻も感覚がなくなる。それはそれで対処の仕方があるのだが、自力ではどうしようもないのが吹雪の中のメガネだ。メガネが吹雪で真っ白になり、汗で曇り、視界が塞がれるのは何とも厄介だ。こまめにメガネの曇りをとるしか方法はない。
 それでも7年前に白内障の手術をして、メガネなしで冬山は歩けるようになった。これはうれしい誤算だった。冬山の眼鏡は本当に厄介なのだ。
 手袋はこれまではほとんど軍手を着用していた。太平山クラスでは冬は軍手で十分間に合う。高価なものを買う必要はない。
 1972年の正月、上高地から西穂高岳(2909m)に登った。このときも軍手だった。ものすごい吹雪だったが、汗が軍手の内部で凍り付き、軍手の目をふさいでくれて逆に寒くなかったことを鮮明に覚えている。
 この話をある登山者にしたら、凍った手袋で寒さを防いだという話を信じてもらえなかった。でもこれは本当の話だ。汗は凍ったが、軍手に通気性もあったためだろうか。
 毎日山に登ることを日課にしているような「変わり者」は少ないだろうから、毎日使える登山の持ち物というのは私の個人的な問題である。それでも毎日使うということはGearが本物かどうか試す、ベストチャンスでもある。

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