2024/12/17
早いもので今年も年末を迎えてしまいました。今年もお世話になりました。良いお歳をお迎えください。と言っても出版物の販売状況は上向きになる傾向はみえません。来年はどんな年になるのでしょうか?最近のSNSに拠るポピュリズム的社会風潮を見るにつけ、文字を吟味し、しっかりと考えることも重要なのでは?と活字の力を信じたい、と祈りたい年越しです。
そんな中、12月8日に行われたノーベル文学賞の受賞講演で、韓国の作家ハン・ガン氏は、光州事件を扱った「少年が来る」(クオン刊)について、「人間の残酷性と尊厳が極限の形態で同時に存在していた時空間を光州と呼ぶとき、光州はもはや一都市を示す固有名詞ではなく、普通名詞になる。」と語っています。光州事件とは「時間と空間を超えて継続的に私たちに戻ってくる現在形」だとして「過去が現在を助けてている。死んだ者たちが生きている者を救っている」とも感じたと話しました。1948年の済州島4.3事件を扱った「別れを告げない(2021年刊)」(白水社刊)でも同じ感覚でしょう。
ノーベル賞受賞発表から2ケ月も経たずして、昔の韓国の悪夢が想起される、大統領による「戒厳令」の発令という、驚くべき非常事態が隣国で起こったのは偶然でしょうか。韓国は、民主化、近代化され、産業・文化も成熟して、わが国を追い抜くほどになったと思った矢先のことで、なんとも驚いています。
★年末・年始の予定は12/27(金)終業、1/6(月)始業です。
●かって大きな街にも小さな街にも、住宅街のはずれや田畑の真ん中にもストリップという伝統芸の”小宇宙”がありました。そのストリップを支えた踊り子自身による<ピンク文化>の風土記。早乙女宏美著「ストリップ劇場のある街、あった街」2,500円 寿郎社は、浅草・新宿・船橋・札幌のピンク文化とそれを支えた人々を活写しています。ISBN978-4-909281-64-7
●大上段に構えた写真ではなくて市井の人たちの暮らしを撮ったことが、人の心を動かします。小柴一良著「水俣物語 1971-2024」3,000円 弦書房は、水俣の「いま」を伝える251点の写真に刻まれた時間と記憶の深さと重さが胸を打つ。「近代」が犠牲を強いた人間の生と死には様々な姿があることを見てほしいと訴えます。ISBN978-4-86329-300-7
●秩父事件を当事者である困民党側の視点ではなく、埼玉や群馬の自警団の対応を中心にして、周辺地域の人々の視点に注目して検証。大澤謙司著「困民党の行く手を阻んだもの−もう一つの秩父事件」1,500円 まつやま書房は、当時の大衆側の反応を比企、大里、寄居、飯能などの記録で調べ上げたもの。ISBN978-4-89623-225-7
●高知で営むリースショップ「JiLL」が届ける手作りリース、季節24のレシピ集。やまなかかすみ著「JiLL Wreath Book U」2,800円 リーブル出版は、手作りリースの基本/季節のレッスン(花材の劣化対策、色褪せした花材の活かし方、ドライフラワーのつくの方)/作品集等。ISBN978-4-86338-425-5
●自分の家の不思議な屋号に気づき調べ上げて一冊に。沖縄の歴史、先祖の由来を辿ります。玉那覇善一著「百次(ムンナン)考−屋号「百次」についての研究」2,200円 ボーダーインクは、琉球でとても古い屋号「己百次」(ミームンナ)から「百次」(ムンナン)に辿り、その由来、宮廷での役割、屋号としての広がりを追い求めます。ISBN978-4-89982-472-5
●栃木県東南部に位置する町の地域創生の歩みをグラフィカルに紹介します。栃木県茂木町編・刊「しあわせの、自給自足」1,800円 下野新聞社は、1986年の大水害を契機にした、38年間の復興活動・豊かなまちづくりのヒントを紹介します。ISBN978-4-88286-881-1
●人口減や地域力の衰退が著しい東北・秋田県。地元の秋田大学の「地域創生」人材育成プログラムが、現在の秋田を分析し、これからの可能性を提言します。秋田大学教育文化学部編「秋田を学ぶ *自然と社会*」(978-4-87022-620-3)と「秋田を学ぶ *文化と歴史*」(978-4-87022-621-0)各1,800円の2冊が秋田文化出版社から、同時発売となりました。前者は自然環境・植生・災害・地理・経済・観光・産業を扱っています。後者は、言葉・歴史・美術・近代化・伝説等を扱うとともに、現代社会と向合う術を述べます。
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