京都にクマを食べに行ってきた。友人の関西の料理人の方々が「クマはうまいよ」と誘ってくれたからだ。クマ肉は秋田で何度か食べたことがある。マタギやクマを撮るカメラマンに知り合いがいるから、クマ肉を食べる機会には事欠かない。しかしクマ肉を「うまい」と思ったことは正直一度もない。食べ方はブツ切りしたクマ肉をミソ仕立ての鍋で野菜とグツグツ煮込むか、カレーライスに入れるのが定番だ。あのクマがそんなにうまいのか。「京都まで来る価値はある」と言う友人たちの「真意」を、自分の舌で確かめるのが今回の旅の目的だ。
 京都は薄曇りで時々雨がちらついていた。クマ料理屋は京都市街から車で30分ほど走った鞍馬の貴船町にあった。春は山菜・タケノコ料理、夏は川床でアユ、秋冬にはイノシシとクマを食べさせてくれる老舗の料理屋だ。二階の御座敷に腰を下ろすと、炭火の燃える囲炉裏に醤油ベースのスープ(つゆ)鍋が用意されていた。皿には薄くスライスされたクマ肉がきれいに盛りつけられている。それを土鍋のスープにくぐらせ、セリやエノキ、ネギ、白菜、豆腐などと食べる。スープにもクマ肉にも特別の工夫や調理上の隠し技は何もありません、と店の人は言う。クマ料理は昔から京料理のひとつとして認められているものだそうだ。
 秋田と決定的に違ったのは食べ方だった。食材をグツグツと鍋の中で煮込まないのだ。シャブシャブほどではないが、肉は数分泳がせただけで取り出し、すぐに食べる。煮詰めると肉のうまみが抜け出てしまうからだ。肉を薄くスライスしているのは表面に火が通ったらすぐに食べるためだ。上質な牛や豚の肉を食べている食感だが、味はあっさりとして臭みやクドさはまったくない。淡白なのに香りも甘さもしっかりある。最初にクマ肉だけを食べ、スープの中にクマの脂が浮き出した頃を見計らい野菜を入れる。クマ肉をくぐらせたスープは薄い脂の膜ができ、比内地鶏のスープとよく似たコクが出ていた。このコクのでたスープで野菜を食べるわけだ。肉も野菜もスイスイと腹に収まっていく。最後は細めのうどんを入れてシメ。クマ肉はクセが強くて食べにくいという先入観は、いとも簡単に吹き飛んでしまった。
 「秋田でも比内地鶏スープでクマ鍋にして、シメにいなにわうどんをいれたら郷土料理になるんとちゃう?」と料理人のHさん。
 なるほど、それなら商品としても十分成り立つのかもしれない。
 秋田のクマ鍋は肉も野菜も一緒くたに煮込む。これがクマ肉のうまみを損なう結果になっていたのだ。肉を薄くスライスし、具材を煮込まない。これがクマ鍋をおいしく食べる最重要ポイントなのだ。  

12月×日 この冬は山行ラッシュだ。毎週のように山に登っている。幸せだ。今日は男鹿本山、雪のない冬枯れの山もいいなァ。
12月×日 冬でも「冷や麦」を飲む。習慣だが、さすがにこの頃は寒くて保温ボトルに白湯を入れて飲んでいる。
12月×日 2時間ほどのインタビュー・テープを文字に起こす。一心不乱に3時間、集中。それはいいのだが自分の取材したテープを聞くたびに、その受け答えの下手さに呆然となる。
12月×日 昔買ったが色合いが派手で着ないままになっていた服を引っ張り出し、着ている。年の功を期待したが、やっぱり似合わない。
12月×日 この時期になると「和食みなみ」のおでんが食べたくなる。関東炊きと言われる醤油色した味の濃い関西風おでん。季節限定なのだ。
12月×日 若いダンサー菅原小春の踊りをユーチューブで観続ける。彼女の踊る3,4分間の踊りを1時間のスローモーションで再生すれば、たぶんほとんど暗黒舞踏の土方巽になる。
12月×日 週末には2本の新刊が出来てくる。現在編集中の本は2本のみ。少しずつヒマになり、誰にも知られず干からびて、いつかは事務所で死んでいく……と勝手に妄想を膨らませ一人落ち込んでしまった。
12月×日 寝床に入るのが怖い。寒いからだ。身体の新陳代謝が落ちている。ネックウォーマーをして布団に入るが、まだ寒い。
12月×日 徒歩で駅前まで出て、駅ナカの喫茶店(パン屋)で原稿を読む。これが日課になってしまった。
12月×日 火曜日にBS11で放映されている森繁の「駅前シリーズ」はほとんどDVD化されていない。「社長シリーズ」はすべてDVD化されているのに。自分がまだ10代だったころの「60年代」の映画を見るのが好きだ。源氏鶏太や獅子文六といった当時の人気作家の小説も好き。獅子文六『七時間半』(ちくま文庫)は東京大阪間が特急で七時間半かかったころの列車内ドタバタ小説だ。
12月×日 月刊「SWITCH」が「今ぞ、梅佳代」という特集。梅佳代の写真の大ファンなので、すぐに買う。
12月×日 Sシェフと男鹿門前港から烏帽子岩、舞台島まで海岸線を歩く。ハードな冒険コースだ。たまには山でなく海もいいもんだ。
12月×日 このごろ3連休が多い、気がする。ヒマなのでシャチョー室宴会。宮城県の魚屋がつくる練り物が絶品の「おでん」が今日のメイン料理だ。
12月×日 最近の関心は「山伏」だったが、「なにもない宗教」である「神道」の本も読むようになった。神道は実に不思議な宗教だ。創造主もいなければ主義主張もなし。開祖がいないし偶像もない。「教え」がまったくない。それがなぜ日本人の心の中に一定の住処を確保したのだろうか。
12月×日 県内の「10大ニュース」は断トツで「金足農 甲子園準V」、2位が「地上イージス・アシュア問題」で、3位に「秋田犬」のブーム。出版ニュースのベストテンは1位が「トーハン、日版、物流協業検討へ」。2位が「出版物の軽減税率認められず」。ベストセラーは「漫画 君たちはどう生きるか」。なんだかいまひとつピンとこない事柄ばかり。本は死んだのか。
12月×日 お正月の楽しみはNHKEテレで放映される「移住50年目の乗船名簿」。1968年(昭和43)、横浜港からブラジルに移住するあるぜんちな丸の136人の日本人たちを取材した番組で、ディレクターは相田洋さん。テレビ史上、一人の同じディレクターの撮った最も長期のドキュメンタリー番組だろう。
1月×日 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
1月×日 お正月も普段と変わらない生活だ。ここ数年、関西の友人たちと台湾や香港旅行に行くことが多かったが、今年はのんびり家の周辺でくつろいでいる。
1月×日 おせちは毎年「和食みなみ」の三段重ね、年越しそばは秋ノ宮の宅配手打ちの「神室そば」。それに今年から魚屋さんのつくる宮城県産の「おでん種」が加わった。
1月×日 お正月中の映画は『彼女がその名を知らぬ鳥たち』。本は阿部牧郎『誘惑地帯』(講談社文庫)。
1月×日 初詣登山は太平山リゾート公園内にある妙見山(258m)。山頂神社で今年もケガなく登れるようにお願いをする。
1月×日 なんとなく正月三が日は「気ぶっせい」(うっとうしい)。ときどき寒気が襲ってくる。ヤバいなあ。
1月×日 仕事始め。去年の新刊点数は歴代最低クラス。去年はほとんどといっていいほど秋田から「外」に出なかった。今年は積極的に外に出ようと思っている。
1月×日 仙台へ。図書館や古書店を回り、モンベルやユニクロでショッピング。
1月×日 お昼、けたたましい救急車のサイレン。自宅前にパトカーや消防自動車、救急車が勢ぞろい。何があったのだろうか。警察官は何も答えてくれない。家の隣(空き家)で起きた事件なので心配だ。
1月×日 健診(人間ドッグ)の日。昨日のパトカーはお隣(空き家)で人が亡くなったため、というのが友人からのメールでわかった。京都の友人からの情報だ。秋田の私の家の隣の死亡事故を、私より早く関西の友人が教えてくれたわけだ。こんなこともある。
1月×日 ケータイ電話はPHSで毎月の使用料は1600円。PHSで死ぬまで大丈夫と思っていたが、PHS廃止が決まった。やむなくスマホを買うことに。使いこなす自信はない。
1月×日 二泊三日で京都・東京。京都は薄曇りで時々雨、けっこう寒い。東京では地方小のK社長と神楽坂でランチ。
1月×日 外はアイスバーンとわかっていたのに散歩。暗い夜道で転倒し、しばらく起き上がれなかった。両手首のあたりに激痛がある。救急車を呼ぶことも考えたが、歩いて帰る。
1月×日 整形外科でレントゲン。骨折はしていなかった。かなりひどい両腕の打撲だ。転んだ時に両手で受け身を取ってしまったようだ。
1月×日 雪道を歩くのが怖い。こんなとき本を読むしかない。佐藤健太郎『世界史を変えた薬』。精神状態と本の選択の平仄はあっている。めちゃくちゃ面白いので『世界史を変えた新素材』も。代表作の『炭素文明論』まで一気呵成に。佐藤健太郎、すごい。
1月×日 両腕の痛みはひいたが、頭がボーっとする。健康診断の結果も「再診」で、けっこう落ち込む。
2月×日 新入社員を研修させてもらった東京の晶文社(私もここから本を出版してもらった)の人たちが蔵王にスキー旅行。新入社員はアテンドのため蔵王へ。一人で留守番だ。
2月×日 「噂の真相」の編集長だった岡留安則さんが亡くなった。71歳は若すぎるなあ。合掌。
2月×日 江戸の廻船問屋の若旦那が東海道五十三次をフラフラ旅する時代小説にはまっている。金子成人の本だ。
2月×日 ずっと頭痛に悩まされている。転倒の時、強く頭を打っている可能性もある。不安が募る。
2月×日 日帰りで仙台。雪山用のスノーシューを買うためだ。が、気に入ったものに出あえず、家でネット通販で購入することにした。
2月×日 CTスキャン受診。結果は何の異常もナシ。それでも頭はカスミがかかったようなボンヤリした状態。
2月×日 去年の暮れから白内障手術、今年に入って胃カメラ、そして昨日のCTスキャン。さらに歯医者、耳鼻科、整形外科のお世話にもなっている。「医者嫌い」を公言してきたが、もうそんなきれいごとは言ってられない。そのうち病院内に「常連」仲間ができるのも近い。「病友」というやつだ。たまに病院に行かないと「あいつ、どうしたのかな?」「あいつね、体調崩して寝込んでるらしいよ」なんて会話が交わされる日も遠くない。
2月×日 昨日、電線に夥しい数のカラスの群れを発見。あれが話題のミヤマカラスか。渡り鳥のカラスだ。田んぼのモミを食べゴミ漁りはしない。あたたかくなるとシベリアに帰っていく。
2月×日 森吉山樹氷ハイキング。好天候に恵まれ、ヨーロッパ・アルプスのような風景を楽しんできた。樹氷は細くて弱弱しい。アオモリトドマツの枯死と関係があるのだろうか。心配だ。
2月×日 浅舞の「天の戸」で新酒を飲む会。中国からのお客さんが数名見えていて、「ポケトーク」(自動翻訳機)で会話を試みる日本人がいた。かなりの専門用語も訳してくれるが、翻訳スピードがまだ遅い。吹き込む日本語のリテラシー能力が翻訳のスピードに影響しているようだ。
2月×日 毎日好天で気分がいい。三寒四温というやつか。まだ3月になってないからドカ雪があるのは間違いない。油断大敵だ。それにしても雪の少ない冬で助かった。でも冬はちゃんと雪が降ってくれたほうが何かとあとで問題は起きないのも事実。
2月×日 頭痛が残っている。「むち打ち」の可能性が高いので近所の整形外科へ。レントゲンを撮ってもらうが「首には異常なし」。いったいどうなっているの。
2月×日 人権派ジャーナリスト(写真家)として有名な広河隆一の性的スキャンダルは驚いたが、井上荒野著『あちらにいる鬼』(朝日新聞出版)を読めば、広河の女漁りも小さな事件にしか思えなくなる。井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫を描いた情愛小説だが、いやはやすさまじい。私的には今年のベストワン小説になりそうな予感がする。


*胃カメラ、CTスキャンに、現在はピロリ菌の治療中。まるで病院日記のようなありさまです。申し訳ありません。
*今回も新刊は2点どまり。「出版ニュース」がこの3月で廃刊になり、いろいろと考えてしまいます。
*本は売れませんが、もとより「売れないのが常態」というスタンスで40余年、この世界で生きてきました。愚痴や不平は言わないように、やっていきます。これからもよろしくご指導ください。  (あ)