今年ももう少しで終わり。この1年を振り返ってみたい。
 というのも今年は、最初から最後までいつもとは違う「強風の中」を歩き続けた、特別な月日だったように感じているからだ。
 ちょうど1年前、出版依頼や企画本の刊行ラッシュが「突然」はじまった。1月、2月のわずか2ヶ月間で15点もの新刊を手がける異常事態。40年以上この仕事をしているが、こんな短期集中の新刊ラッシュはまったく経験がない。
 この15点の本の刊行や販促がすべて終わったのが6月終わり。半年以上続いた「お祭り」騒ぎで、冬から春にかけての季節の移ろいさえ、よく覚えていない喧噪の日々だった。
 仕事に忙殺され、趣味の山歩きもままならなかった。山に行かないとテキメンに体力が落ちた。近所のスポーツクラブに通いだした。ジムは歩いて5分の場所にあり、仕事の合間に自由に通えるのが、山とちがい魅力だ。
 エアロビで汗を流し、プールで泳ぎ、仕事と山に行けないストレスを発散した。
 そんなある日、エアロビの最中、右膝裏にプチッと電流が走った。すぐに激痛が襲ってきた。病院へ駆け込んだら「肉離れ」の診断。
 これで時間だけでなく身体の自由にも縛りがかかることになった。
 ストレス解消法や時間の使い方を、改めて考えなければならなくなった。
 春先から個人的に本を書くため資料収集や下調べをしていた「ルポ東成瀬村」の現地取材を、とりあえずはじめることにした。肉離れも日常生活には支障がない。
 夏から秋にかけてはほぼ毎週、東成瀬村通いがはじまった。いろんな雑念や不安も取材に集中することでずいぶん軽減された。東成瀬村取材は順調だったが、秋口に予想もしなかった自然災害が襲ってきた。落雷が電話線に入り込んだのだ。パソコンも電話も電気器具も使用不可になり、仕事がすべてストップした。火災保険で金銭的な被害はなかったのが不幸中の幸いだった。
 今年はいいことがない、とあきらめかけていた初雪のころ、朗報が入った。第33回梓会出版文化賞特別賞を受賞したとの報を受けた。優れた出版活動を行っている出版社を顕彰するもので、これは素直にうれしかった。過去にも何度か最終選考まで残ったことがあるが、昔から賞とは縁がない。正直なところ賞はもらえないものとあきらめていた。
 そんなこんなで来年は無明舎創業46年目です。2022年には創業50周年を迎えます。老骨にムチ打って、その頃までは仕事を続けたい、と思っています。

9月×日 東成瀬村でヘンなボックスカーと遭遇した。後部にカウンターと受付嬢がいる車だ。預貯金や払い出しができるJAバンクの移動金融車だった。そうか村には銀行がないからか。
9月×日 青森の印刷所(製版)から嶽キミ(トウモロコシ)到着。これにナスガッコがあれば何もいらない。
9月×日 国道342号の信号機で少女が信号待ち。青になり渡るときびすを返し、私に一礼、対向車にも一礼して、走り去った。いやァ、なんだかさわやかで、かっこいい。
9月×日 神宮寺で震度5強の地震。「刈穂」や「出羽鶴」といった酒蔵のあるところ。大丈夫だったかしら。
9月×日 朝ものすごい雷。「近くに落ちたな」と直感したが、なんと事務所を直撃した落雷だった。落ちたのは電話線。電話が使えないのでインターネットもお手上げ。仕事にならない。
9月×日 東京出張で神楽坂へ。「離島キッチン」と「むらむすび」という二軒の飲食店を取材。昔事務所があった場所なので無性に懐かしい。
9月×日 朝から車を飛ばして平泉へ。東成瀬小学校の修学旅行に同行取材。この村のルポを書こうと思い、毎週取材に通っている。夜、仙台コボスタジアムで楽天VSオリックス戦を子供たちと観戦。隣席の男子生徒がおしっこに立った時、尻ポケットから財布を出し席に置いた。ここは自分の席である、というつもりなのだろう。村には財布を盗むような輩はいない。19名の同級生は小1からずっと一緒の同じクラス。気心の知れた仲間だ。警戒感ゼロなのもむべなるかな。
9月×日 湯沢に行くとかならず寄る喫茶店がある。その店がこの10月で閉店する。店主は大の愛煙家で、東京都の屋内飲食店原則禁煙などの条例制定が本決まりになり、今が潮時と判断したのだそうだ。
9月×日 久しぶりのシャチョー室宴会。四名の参加でSシェフのキジハタ料理を堪能。Sシェフの料理は美味。
9月×日 体力が落ちてきた。近くのジムに通うことにした。週三回エアロビ教室。楽しくなってきたゾ。
9月×日 エアロビの最中、右足の膝裏にピリッと電流。すぐ事の重大さに気付いた。肉離れだ。近所の整形外科に行き、三日間安静状態に。
10月×日 膝の痛みは薄らいできたがストレスはたまる。水泳や筋トレをしてみるが、運動後に鈍い痛みが残る。
10月×日 東成瀬村の取材しているうち島根県の離島・海士町に興味が飛んだ。関連本を読んでいるが、来月鳥取に行くので足を延ばしてみるか。でもとてつもなく辺鄙な場所のようだ。
10月×日 『仕事消滅』(講談社α新書)にAIとロボットが革新的に進歩すると、ドライバーやトレーダー、銀行員や裁判官、弁護士助手などが消えるそうだ。看護師はいいが医者もダメ。う?ん、興味深いが現実味も薄い。
10月×日 うろ覚えだが……「一雨一度」という言葉があった…かな。一雨ごとに一℃ずつ温度が下がっていくという意味なのだが、まさに今がその時。秋の雨は寒さを道連れにやってくる。
10月×日 税理士から今年の決算は去年より数字が好成績、と連絡入る。ひと安心。よかった。
10月×日 東京オリンピックは10代。GNP世界2位になったのが20代、高度経済成長の続く70年代が30代で、仕事の絶頂期とバブルが重なったのが40代から50代。50代後半あたりから暗雲が立ち込め、人口減少や少子高齢化が老化と歩調を合わせて寄ってきた。時代と歩を合わせて自分も下り坂、これは平仄があっている。しかし若い人はかわいそう。これから山に登ろうとしているのに下山中の老人が我が物顔で道をふさいでいる。若い人に道を譲る方法を真剣に考えねば。
10月×日 ローカル列車に乗って刈和野へ。「工芸ギャラリーゆう」のK夫妻に招かれ、作家のSさんやもやし屋(種菌)さん、酒蔵の杜氏さんがメンバーの飲み会だ。K夫妻の料理やホスピタリティが文句なしにすばらしい。
10月×日 ストーブが着火しない。灯油を吸い上げるサーバーが機能不全だ。先日の落雷のせいか。パソコンも電話回線も幸い火災保険で補償されたが、雷、なんとも恐るべし。
10月×日 『北海タイムス物語』(増田俊也)が面白かった。スタルヒンや大鵬を「白系」というのは「色の白い人」という意味だと思っていた。ロシア革命で亡命した人たちを赤軍の反対の人々だから「白系」と呼んだ、なんて知らなかった。ルネッサンスの三大発明が活版印刷に羅針盤、もう一つが黒色火薬というのも知らなかった。
10月×日 朝一番で東成瀬村のスポーツ大会取材。種目はマタギたちによる「ライフル射撃大会」だ。村の公式スポーツ大会の種目に、射撃大会があるって、すごくない。
10月×日 夕食はブラジル料理。通販で買ったフェジョアーダという豆と豚の煮込み料理とサトウキビ焼酎(ピンガ)で、南半球の熱い風を味わう。
10月×日 東京、米子、京都と3泊4日の旅。鳥取で行われる「ブックインとっとり」のシンポに参加するため。羽田から地方小のK社長と合流。「ブックインとっとり」は今年で30周年、補助金などをもらわずに独自の努力で「本に関する地域おこし」を続けてきた。その情熱と努力には敬意を禁じえない。韓国からも20人を超す視察団。うちでバイトしていたY君が、朝日新聞記者として取材に来ていた。
10月×日 鳥取から京都に移動。友人の料亭で一杯やっていると、ふらりと一人の客。ノーベル賞の山中伸弥さんだった。不意打ちの登場で思わず腰が浮き上がってしまった。人生にはこんなこともあるんだね。
11月×日 事務所のイチョウの木から葉っぱが飛散するのを防ぐため、朝からネットで覆う作業。毎年これをやるのがしんどい。もう木を伐りたい。
11月×日 新入社員は東京で行われる「神保町ブックフェア―」と「本の学校」イベントに出張参加。そのため一人でいろんなことをやらなければならないので大忙し。これからはこんなケースが増えるのだろうな。
11月×日 肉離れの膝の状態がよくない。歩き回ると患部が火照る。山もジムもプールもご無沙汰。ストレスはたまる一方。誰か助けて。
11月×日 ハタハタの季節だが、今期の漁獲制限量は720トン。3年連続で1000トンを切った。資源量は明らかに減っている。
11月×日 有名な秋田音頭は寛永3年(1663)に歌詞ができた。当初「八森ハタハタ 男鹿で男鹿ブリコ」の歌詞は「八森ハタハタ 男鹿で押しブリコ」だったそうだ。押しブリコは絞った卵を木枠に入れ日干し、藁縄で繋いで商品として売っていた。これが男鹿の名物だったのだそうだ。なるほど、これで歌詞の意味が理解できた。
11月×日 朝早くから酒田で打ち合わせ。生涯で2000回近く鳥海山に登った故池田昭二先生の山行記録ノートをスキャンしてCDブックにするためだ。他にも奥村清明さんの「太平山5000日」や「バリコの秋田ひとり山歩き」(仮題)も現在編集中。加藤明見さんの「秋田市にはクマがいる。」という写真集も作っている。来年は山関連の本が続々と刊行予定だ。
11月×日 新入社員は鳥海山稲倉山荘に本の回収。これで来年5月まで鳥海山小屋へは通行禁止になる。この日に合わせて車のタイヤを冬用スタッドレスに替えるのも毎年の恒例行事。
11月×日 仙台、東京2泊3日。東京の宿がとれないのでやむなくの仙台泊だ。仙台にはよく行くのに「なじみの店」もなければ「行きつけの店」もない。仙台行きが増えたので文化横丁の「なつかし屋」に最近はよく行くようになった。翌日は朝早くから東京・江東区北砂に移動。東成瀬村の「首都圏なるせ会」総会を取材するためだ。東京駅から地下鉄を2つ乗り換え、タクシーでようやくたどり着く。東京にもこんな交通の便の悪い場所があるのにおどろいた。
11月×日 健康診断。いつものことながら褒められたのは骨密度と血圧のみ。130の79だったが、3回測って最も低いものを採用してもらった。今年はなんだか結果が心配だナァ。
11月×日 相変わらずの暗い雨が続く。今日は記念すべき2カ月ぶりの「山行」だ。雪の金峰山に登り、帰りは佐々木農園での「リンゴ狩り」。これも毎年の定番行事だ。山は待ってくれるが、リンゴは待ってくれない。
11月×日 先日の健診で「視力が落ちてます」と指摘された。お気に入りのメガネを、窮屈さを我慢してかけ続けた結果だ。目に圧迫感やボヤける自覚はあった。それでもかけ続けた自分の「エエカッコシイ」が恥ずかしい。かっこいいことは、カッコ悪い。
11月×日 県北の房住山縦走。5時間の山歩きだったが、ヒザに異常はない。もう完全復活宣言してもいいかな。
11月×日 今日は狩猟解禁日。新入社員が猟師たちのクマ狩りに同行取材。帰りに大量の熊肉をお土産に持ってきた。半日かかって肉脂肪を調理し「クマ油」をつくる。お世話になった人々へのプレゼント用だ。手荒れや火傷に抜群の効果があるそうだ。
11月×日 パソコンの調子が悪い。思い切って新しい台湾製のPCに買い替えることに。これももしかすると先日の落雷のせいかしら。
11月×日 学生時代うちでバイトをしていた千葉の高校教師M君と「盛岡」で落ち合い一杯。ホテル泊は苦痛なので日帰りできるのがうれしい。
11月×日 年々寒がりになっている。昔はデブで暑がりだったのに、一体身体の構造はどうなっているの。

*新入社員の提案で通信のメールマガジン化の話が進んでいます。「紙でいいのでは」とも思うのですが印刷や郵送、事務経費を考えると半分以下の費用で済むメルマガ化に、むげに反対もできません。
*メルマガも無料ですが、当分は紙とデジタル2本立てでやる予定ですが、「メルマガでいいよ」という方は、返信ハガキにご自身のメールアドレスをお書きくだされば、そのようにしたいと思います。(あ)