スポーツ・ノンフィクションの名作『江夏の21球』が角川新書から再刊された。79年のプロ野球日本シリーズ9回裏の攻防を描いたルポで、ほぼ35年ぶりの再登場である。著者の山際淳司はこの1作で注目を集め、以後さまざまなスポーツ・シーンを描いた作品を世に送り出し、NHKのスポーツキャスターとしても活躍した。そして95年、胃がんによる肝不全のため46歳の若さで急逝した。
 そんな衝撃的なデビューを果たした山際さんに、その昔、無謀にも「能代工業高校バスケットボール部の本を書きませんか」と原稿依頼したことがあった。思いもかけず快諾の返事をもらい、何度か秋田に取材に来ていただいた。残念ながら、その本は完成を見ることはなかったが、亡くなるまで山際さんとの交流は続いた。亡くなった翌年に出版された奥さまの追悼本『急ぎすぎた旅人―山際淳司』(角川文庫)には、「秋田の出版社と約束した本を書けず心傷めていた」というくだりがあり、涙が出そうになった。
 山際淳司は、ありとあらゆるスポーツのドラマを描いてきたが、バスケットボールに関する作品は少ない。そんななか『夏の終わりにオフサイド』(角川文庫)という本に「夕暮れ色の、夏」という短編小説が収録されている。ある北国の高校でバスケット部に属していた主人公が、卒業の10年後、母校の部員たちと試合をするため故郷に帰ってくる。それが当時の部員たちとの約束だったのだが、なぜかセンターの男だけは帰ってこなかった……高校バスケット選手の成長と挫折を回想した青春小説だ。その主人公が卒業アルバムに書いた「Behind the clouds is the sun still shining」(曇る日でも雲の向こうはいつも太陽)という言葉が、小説の重要なキーワードになっている。
 この小説は秋田での取材の日々を脚色したものだ。東京へ帰る飛行機で一緒になった能代工業OBのYさんの実話をもとに創作した物語である。卒業アルバムの言葉も、同じ秋田の横手高校卒業生である「広告批評」編集長・島森路子さんの高校時代のアルバムのメッセージをそっくり転用している。山際さんが親しかったその島森路子さんも、いまはもうこの世にいない。
 毎年、この時期になると山際さんのことを思い出す。84年(昭和59年)夏、全国高校総体(インターハイ)の開催地は秋田だった。能代工業の地元での連覇に県民の期待は大きく、その瞬間に立ち会いたいと山際さんも取材に駆け付けてくれた。決勝戦前夜、能工の加藤廣志監督は、なにを思ったのか山際さんと私を竿燈見物に誘ってくれた。そして翌日、何事もなかったように能工は優勝した。
 暑い夏だった。

5月×日 無明舎の階段手摺取り付け工事完成祝い。シャチョー室宴会で酔っぱらって階段から落ちたA長老が、自ら一級建築士として手腕を発揮し、現場監督までかってくれたおかげ。 5月×日 今年に入って4回目の八塩山。登山道にでっかいクマの糞。この山は大好きなのだが、クマが怖い。
5月×日 腰痛も収まったし歯の調子もいい。筋肉痛はないし内臓の不具合もない。身体のどこにも不調がないというのは、それだけでうれしいが、いつどこが不調になるか、不安になる。
6月×日 朝から全県高校生文芸セミナーでお話。高校生の反応が良くて、もしかして大学生より感度がいいのでは、と思ってしまう。
6月×日 TVで「青汁に乳酸菌が100億個」と女優が絶叫。あの小さなヤクルトには200億個、「ヤクルト40」は400億個入っているのを知らないのだろうか
6月×日 新刊が2本。夏のDM通信郵送。そこに3泊4日の台湾旅行が重なって、あたふたの日々。
6月×日 週休3日制が話題になっている。少し唐突で驚いたが、どうやら宅配便業界のドライバー不足に端を発したものらしい。ユニクロやヤフーもすでに週4日勤務を実現しているという。
6月×日 台北に来ている。明日から関西の仲間たちと合流するのだが、初日は秋田―羽田―台北一人旅。夕方、ホテルについてプールでひと泳ぎ。台北は31度もあるのに雨。
台北2日目。朝からプールで1時間水中エクササイズ。サウナと温泉に入り部屋でウトウト。午後から市内の中華料理屋で仲間たちと合流。2泊3日台北うまいものツアーのはじまりである。「欣葉本店」は一見大衆食堂風だが、評判の店。台北での集合場所はいつもここだ。
台北3日目。早起きし地下鉄に乗って近くの市場を冷やかし、午前中はプール。すっきり青空とはいかないが日中の温度は35度。ホテルのなかは快適。読書に飽きればプールでひと泳ぎ。
台北4日目。昨夜は今回のメイン・イベント、世界貿易ビル34階の会員制レストランで食事。白酒(パイチュウ)がうまかった。夕方の便で羽田へ。機内映画は邦画の『サバイバル・ファミリー』。今日は東京泊。
6月×日 土曜日だが町内公園の草むしり。班長なので5時起きだ。
6月×日 一日中まったくやる気起きず、ダラダラ。こんな日もある。
6月×日 週刊誌の新聞広告に「酢が効く!」の文字。酢は高血圧や糖尿病、肥満、骨粗しょう症に効果があるそうだ。自慢じゃないが小生は20年以上毎日酢を飲んでいる。
6月×日 久々に「山の学校」へ。校長の藤原優太郎さんが亡くなってから初めて立ち寄った。学校は本人がいた時よりもきれいに管理されていて一安心。寄贈した図書もきれいに管理されていた。
6月×日 ネットでブック・サーフィン。「岩波ジュニア新書」がユーズドで百冊ほど出ていた。昔から「困ったときのジュニア新書だのみ」派だ。20冊あまり大人買いしてしまう。
6月×日 弥生時代にすでに家畜のブタがいた。野生のイノシシと家畜のブタを区別する決定的な「発見」をした研究者がいた。ブタの歯に歯槽膿漏の跡を見つけ、これが決め手になった。と佐原真の本(岩波ジュニア新書)に書いていた。
6月×日 仙台でまた集中講義のお仕事が始まった。今年で最後にしたい。
6月×日 毎日服んでいる漢方便秘薬をやめた。規則正しい便通が無くなり量も半分に。薬に頼らない自然便通に戻そうと思ったのだが、以来ずっと身体が重い。困ったなあ。どうしよう。
7月×日 新刊が出て、晴れ晴れとした気分で7月。新刊ラッシュもこれでほぼ終わり。この半年間で15点の本を出した。7月の新刊予定は1冊のみ。ちょっと極端だが、こればかりは調整が効かない。
7月×日 DVDで映画観賞の日々。ウディ・アレンの最新作『教授のおかしな妄想殺人』。『ノーマ東京』。北欧の世界一のレストランが東京で5週間のみ期限限定レストランを開く様子を記録したドキュメンタリーは面白かった。
7月×日 歯痛がひどい。予約は3日後しかとれず、シャチョー室に垂れ込めて、イライラして耐えるしかない。
歯痛は地獄だ。
7月×日 新入社員が友人の結婚式で東京へ。ひとり留守番。
7月×日 ひたすら「歩くだけの映画」はないのか。グーグル検索したら2010年制作のアメリカ・スペイン合作「星の旅人たち」があった。スペイン北部のサンディアゴ・デ・コンポーラを目指す聖地巡礼を描いたもの。亡くなった息子の遺灰を撒きながら聖地を巡礼する父親の物語だ。
7月×日 気温が30度を超える中、秋田の南端にある東成瀬村内を歩き回ってきた。昔からこの地域に関心があるので、この村をテーマにした本を書こうと思っている。事前に資料調査や基礎文献は頭に入れているのだが、現場に行かないことには何も始まらない。
7月×日 40日ぶりの山。秋田駒ヶ岳8合目から笹森山、湯森山、熊見平を経て笊森山をピストン。途中でバテて、わが体力のなさにガックリ。
7月×日 近所のスポーツクラブに再入会した。30代後半から通い始めたクラブだが、7年前、山登りが忙しくなり退会した。衝動的な再入会だが、驚いたことに昔からなじみのエアロビ・インストラクターが2名、まだ現役でレッスンを持っていた。
7月×日 抜歯のために麻酔注射。口がしびれたまま地元ラジオ局で1時間おしゃべり。夜は、あるご家庭にお呼ばれ。同年代の四人の男性合唱団の歌の歓迎を受けた。
7月×日 寝室も事務所でもクーラーのお世話になっている。夏の夜、プ〜ンと鼻先に飛んでくる1匹の蚊。その蚊の羽ばたきの風がとても涼しかった、と書いている御仁がいた。東日本大震災でほとんどの電気製品使用をやめ、ついには朝日新聞記者までやめてしまった、あのアフロヘアーの稲垣えみ子さんだ。
7月×日 昨日のジムでの基礎体力測定に大ショック。70代を目前にして心身とも大きな曲がり角。もう一度、身体をきたえ直さなければ問題だ。
7月×日 9年ぶりにエアロビ・レッスン。40分ほどの初心者コースだったがヘトヘトになってしまった。
7月×日 散歩コースに太平川が流れていて途中2カ所に橋がかかっている。昨日の豪雨で、橋げた直前まで水位があがっていた。怖いなあ。
7月×日 連日調べもののために県立図書館通い。地元新聞の記事データベースを検索、コピーするためだ。コピー代は1枚30円と高いが、便利だ。
7月×日 エアロビの身体的効果は驚くほど。通便が良くなり、腰痛がおさまり、寝付きがすんなり、体重まで減った。やめられまへん。
8月×日 週3回のエアロビクスと取材ノートづくりと2本柱のリズムが身についてきた。不満なのは読書の時間がめっきり減ったこと。
8月×日 「和食みなみ」でウイスキーを呑みながら、肴にもろきゅう用の味噌をナメる。味噌って洋酒にも合うんですよ、ご同輩。
8月×日 スポーツはもともと男性がつくりだした文化。だから女性を排除する。産業革命(近代スポーツが誕生)後、女性の労働力を必要としなくなったブルジョアジーが、女性を支配する方策として「か弱い女性・激しいスポーツは無理」という虚構を作り上げ、女性のスポーツを禁じた……玉木正之『スポーツとは何か』(講談社現代新書)にこう書いていた。スポーツの起源である「遊ぶ」の語源は「朝臣でいられる、いい身分」の「朝臣(あそん)」。天皇のそばにいる人の意味だ。
8月×日 今年は蜘蛛の巣が張らないし蚊もいない。スズメもゴキブリも何年も見ていない。アリもいないし何かヘン、とカミさんがぼやいている。そう言われるとそうだよなあ。
8月×日 散歩の途中にニッサンのディラー店があり、道路脇にこれ見よがしにEV(電気自動車)充電器が置いてある。これがいつもフル稼働、こちらが想像しているよりもEVはずっと普及しているようだ。
8月×日 アマノジャクなのでお盆も仕事。夜は藤沢周平の本で暑気払い。ときどき秋田にも藤沢周平がいたら……と思う。秋田藩士・戸沢小十郎が大活躍する時代小説を描き続けた花家圭太郎(角館出身)が有力候補だったが、その早逝が悼まれる。
8月×日 花巻市へ。「マルカン食堂」を見にいったのだが盆休み。市民の力で倒産から蘇った食堂だ。ちなみにわが新入社員はもう行って食べてきたそうで、味は「普通」だそうです。
8月×日 町内会班長の私の受け持ち町内は一八軒。全家に話の出来る玄関チャイムがついている。ついていないのは私の家だけだ。チャイムの使い方がわからず戸惑ったが、ようやく慣れた。
8月×日 ジム通いも昨日でちょうど1カ月。13回エアロビ・レッスンを受け体重は3.5キロ減。いい感じだ。
8月×日 東京と違ってこちらは久しぶりの雨。たまには雨もいい、とつぶやきそうになるが、7月のあの豪雨を経験しているから、すぐに洪水の怖さが脳裏をよぎる。
8月×日 『宝くじで1億円当たった人の末路』(日経BP社)はうまい書名だ。真面目な本だと誰も思わないところがミソだ。
8月×日 朝3時起きで「仙北道」踏査へ。東成瀬から延々と歩いて登って9つの徒渉と2つの山に登り8時間、旧胆沢町・大寒沢林道終点にゴールした。エアロビ・トレーニングの成果があったのか、バテなかった。

*残暑お見舞い申し上げます。
 秋田ではお盆を過ぎると日差しから夏の強靭な悪意がぬけます。やわらかく、かどがとれ、吹く風にもかすかな冷気が含まれます。
*日記にも書いたように、今年前半で一五点もの新刊ラッシュ。後半はガックリとヒマになりそうです。うまく行かないもんですね。    
(あ)