電子書籍の普及には100年かかる、という未来予測をしている人がいる。永江朗さんだ。その根拠は、ケータイ電話のスピーディな普及を反論材料として出す人もいるが、その電話ですらベルの発明からゆうに100年以上の時間が経過している、というもの。電子書籍が暮らしの中に溶け込むのにも、結局はそのくらいの時間が必要だという。
 一昨年、東北の書店に常備していた無明舎の本(棚)を返品。それに伴って生じた過払い金の支払いに、去年一年まるまるかかってしまった。在庫がいつでも書店にあるのは版元にとって理想だ。でも弊害もある。「品切れ絶版です」と告知した本が3年後に大量に書店から返品されてくることがある。返品は汚れがひどく廃棄するしかない。このロスがいやでいやでたまらなかった。過払い金の大きさにはたじろいだが、その2年前の「大きな決断」はまちがっていなかった、と今は思っている。
 昨年の日本の出版販売額は1兆6千億円。これで10年連続の減少で、前年比4.5%減、これは統計開始以来、最大の下げ幅だ。90年代の後半までは2兆7千億ぐらいの販売額があった。出版界全体でも三菱重工一社の売り上げに満たないとか、ようやくホンダ一社と同じ額になりました、などと自虐的に揶揄していた頃が懐かしい。1兆6千億の売り上げと言うのは、現在のちょっと成功したIT企業3,4社の売上げ額を足したのと同じくらいか。それと講談社や集英社、文春から岩波まで、数千の出版社の年間全売上げが同じというのだから、笑うしかない。早晩一兆円を割る日も近いのだろう。
 昨年の出版界の10大ニュースが業界誌『出版ニュース』に発表されていた。業界が縮小を続けていることが実感できる暗い内容が多い。トップは「特定秘密保護法施行」、2位は「電子出版権認められる」、3位は「嫌韓・嫌中本続出」、4位は「朝日新聞誤報問題」、5位は「児童ポルノ禁止法成立」といった具合だ。消費税増税で不況感が強まる中、追い打ちをかけるように出版や表現の自由に対する手かせ足かせが厳しくなっているのがよくわかる。ミリオンセラーは『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』一点のみ。これも笑うしかない。
 数年前から、うちの出版物の誤字やミスを指摘する手紙や電話、メールが、実は本を買っていない人からくるケースが多いことに気がついた。図書館で借りたり、友人の本をみて連絡してくるのだ。本の宣伝用チラシの「目次」をみて、長い反論の手紙をくれた人もいた。本を、買っていないのはともかく、読んでもいないのにはあきれた。チラシの目次だけで自説を延々、得々と開陳しているのだ、新手のクレーマーである。……なんだか出版のことを書けば、暗い話題にしか行きつかない。もうやめます、申し訳ない。

11月×日 本が売れなくなった理由をいろんな人たちがいろんな角度から論評している。ニコニコ動画の川上量生は、その理由を「コピーされやすくなったため」と指摘していた。これは同感だなあ。
11月×日 選挙がはじまった。政治や社会に言いたいことがないわけではないが、絵本作家・五味太郎がよく言う「政治業界に自分の幸せをゆだねるな」という意見に近い立場です、自分は。
11月×日 寒さがしみ込んでくる冬の夜の雨。雨具を着用し傘なしで散歩を決行。雨の中の散歩は気分がいい。
11月×日 冬DMの発送が始まった。「選挙」に引っかかってしまったのが悔やまれる。選挙になると注文数は激減する。
11月×日 Sシェフから薫陶を受け、ネギ料理にはまっている。ネギはあの薄皮をはいだ「ぬめり」のあるところにうまさが凝縮しているのだそうだ。
12月×日 月曜日の愉しみは夜のテレビ。「プロフェッショナル 仕事の流儀」「サラメシ」「人生デザインU-29」と3本たてつづけに見続ける。
12月×日 毎日食べる「沢庵」は生協から届く九州産の千本漬け。先日、酒田の寿司屋で寿司屋専用沢庵にでくわした。これも九州・宮崎の野崎という漬物専門店のものだった。白菜漬けは丸越という店で買っている。ここは名古屋が本店だ。どちらもうまい。
12月×日 いつもは静かな事務所だが今日は賑やか。仙台の私立大学の女子大生が研修に来ているのだ。若い女性が一人いるだけで事務所はずいぶんと華やぐ。
12月×日 なんだかバタバタしているうちに12月。まったくそんな気分ではないのだが、忘年会の予定がボツボツと入りはじめている。
12月×日 油断していたら、またアマゾン・ユーズドで注文した本が「輪ゴム本」だった。頭に来るなあ。
12月×日 雪。「雪に傘」をさす人は秋田ではほとんどいない。新潟あたりは「雪に傘」は当たり前というから「風」の有無が両者をわけているのだろうか。
12月×日 矢部宏治著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル)はイデオロギーを超えた面白い本。本人は「中道・リベラル」を表明しているが、べストセラーになった「戦後史の再発見シリーズ」(創元社)の企画・編集責任者でもある。立花隆さんの本を多くつくっている書籍情報社の経営者でもある人だ。そうだったのか、と膝を打つこと請け合いの内容の濃い本。
12月×日 ずっと冬靴を探していたのだが、西武デパート3階の紳士靴売り場で、ようやくお気に入りを発見。
12月×日 佐村河内事件で問題になった「NHKスペシャル」は、何度も上層部のチェックが入るテレビでは最も審査の厳しい番組だそうだ。それが佐村河内事件の放映で大失態。ディレクターがフリーの契約社員で、先行したTBSなどの2本の番組と同じ人物だったという。神山典土著『ペテン師と天才』(文春)に書いていた。
12月×日 五城目・森山で靴納め。数えていないが今年は40座ほど登ったかな。山に感謝。
12月×日 ジリジリ体重が増えている。夕食を抜く。それにしても今年はリンゴをよく食べた。1年間に食べたリンゴの数は500個。これはちょっと多すぎかなあ。
12月×日 今日から東京出張。業界の友人たちとの忘年会に出席するためだ。久しぶりの抜けるような青空に感動、人の多さにもビックリ。
12月×日 3つの飲み会をこなし東京二泊三日の旅を無事終了。
12月×日 今日から来月4日までが正月休み。休みといってもほぼ一日中事務所に居るから、どこが休日なのか自分でもよくわからない。
12月×日 手帳の入れ替え作業(造語です)で気がついた。2014年は「や
きとり屋」に多く通っている。市内にある「あベや」、東京の神保町「蘭奢侍」(らんじゃたい)、どちらも比内地鶏屋さんだ。一昨日の忘年会も「あベや」だ。比内地鶏のやきとりはうまい。
よいお年を。
1月×日 明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。
1月×日 箱根駅伝の給水規則が変わっていた。監督が車を降りて直接選手に水を手渡すのが禁止、学生同士による定点給水に。これはいいのだが、走る選手の後ろで車からスピーカーで怒鳴り散らす監督と言うのは見苦しくないか。高校野球でも「監督はベンチ入りさせず、サインも出さず、ネット裏で観戦するのみ」というアイデアを出した評論家(玉木正之)がいた。玉木は「夏の甲子園はヘン。高校生の健康や勉学を配慮すれば、夏休みに予選をはじめて気候のいい北海道で開催したら」とも提案している。
1月×日 今日は「靴初め」。市内ザ・ブーン真向かいにある山(妙見山)に行くのだが、去年もこの時期に登った。
1 月×日 正月のオセチは大成功だった。ここ10年、美味いオセチにl度も当たったことがなかったのだが、今年から「和食みなみ」がオセチに初参戦。田作りと生ゴボウ叩きが美味かった。なんだか今年は幸先がいいゾ。
1 月×日 朝から吹雪。昨夜からの風雨で道路はコチンコチンのアイスバーン。実はこんな「悪条件」のときに散歩をするのが大好きというアマノジャク。
1 月×日 サンパウロから知り合いの家族が来日中。新入社員がガイドをひきうけてくれた。駅前「さかなや本舗」で大宴会。ポルトガル語と英語と秋田弁の飛び交う、笑い声の絶えない一夜だった。
1 月×日 また別のブラジルの家族が来秋。早口のポルトガル語、意味不明な日本語の海をまださまよい続けている。円安ってすごいんだなあ。
1 月×日 映画『紙の月』がポスターを観る限り面白そうだ。そこで原作である角田光代の本を読みだしたら面白かった。映画は観なくていいな。
1 月×日 角館での新年会が盛り上がり、最終の新幹線を逃し、タクシーで帰還。家に着いたら翌日だった。
1 月×日 夜10時過ぎ、家の前で酔っぱらいのケンカ。どちらも立っていられないほど酔っている。どうやら女の問題のようで、近所の通報でパトカーが登場して結着。
1月×日 朝10時、関空からキャセイパシフィックで香港へ。京都の料亭主人Hさんから誘われた2泊3日のグルメ旅だ。ひたすら中華料理を食べるだけが目的だ。
1月×日 香港から帰国、大阪泊。そして新幹線で東京へ。東京の九段の定宿に着いて旅がようやく終わった。料理も酒も会話も楽しかった。
1月×日 以前と変わったのは事務所の灯が消える時間が早くなったこと。
最近は5時半になると事務所は真っ暗だ。新入社員はこの時間になると夕食のために隣の家に帰ってしまう。
1月×日 年明けからブラジルの友人たちが次々に来襲(来秋)、息つくひまもなく香港旅行、けっきょく1月の半分は酒とバラの日々。今日からが本当の仕事本番ということになる。
1月×日 最近、晩酌はほとんど焼酎のお湯割り。なのに身辺では県内外の友人たちから、「新政の日本酒、手にはいらない?」という問い合わせばかり。知り合いの酒業者さんに訊くと、あまりの過熱人気に、当の酒蔵は「うちの酒の宣伝はいっさいしないこと」を条件にわずかな本数をまわしてくれるのだそうだ。秋田県民としてはうれしい話だが、手に入らない酒の話をされてもなあ。
2月×日 中断されていた朝日新聞の池上彰氏の連載が再開されることが報じられていた。慶賀にたえないが、彼の名前に冠せられる「ジャーナリスト」という肩書は、これでいいのだろうか。少なくともジャーナリストと言うのは「現場を観てくる」ことを職業とする人のこと。彼の仕事は「評論」もしくは「解説」といわれる類のものではないのか。そんなことを考えたのは「イスラム国」に拘束・殺害された後藤健二さんの事件があったから。
2月×日 雪が降らない。日課だった雪かきもしていない。北日本の豪雪報道とは裏腹に秋田市に限ってはほとんど雪がない。もう2月だ、こんなことがあっていいのだろうか。
2月×日 つくづくミーハーだなあと嘆息。このところ晩酌は焼酎からウイスキーに急変更。きっかけは香港旅行だが、その1年ほど前、京都に行ったら友人に「これからは和食もウイスキーの時代」と言われたのが大きい。どんな肴にも合う汎用性は焼酎以上だ。
2月×日 夜半から風が吹きまくっている。それでも不思議なことに雪は降らない。
2月×日 差し歯を直しに歯医者へ。行きつけなので歯医者に行くのも苦ではない。
2月×日 モバイル用パソコンを買った。タブレット端末サーフェス。今回は何とか自家薬籠中のものにしたい。
2月×日 青森へ。「弘前劇場」の公演を観るためだが、元バイトのH君も八戸の女子高教師になったので誘う。青森市は秋田市よりずっと活気に満ちて元気そう。うらやましい。
2月×日 連日吹雪の日々。ようやく秋田らしくなってきた。でももう今年はこれでけっこう。1年ぐらいは楽をさせてください。
2月×日 沖縄へ。仕事ではなく冬休みのようなものか。仕事なしでちゃんと時間がつぶせるだろうか不安だ。

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*寒いですね。かぜなどひかないようにご自愛ください。 (あ)