生まれて初めて自分で採ってきた山菜のコゴミとコシアブラを調理。コゴミは胡麻和えにし、コシアブラはワインに合わせてオリーブオイルで和えた。コゴミの汚れ洗いが少し手間だったが、初めてにしては上出来と自画自賛。山歩きに行っても山菜には興味が持てなかったのだが、この頃はいち早く山菜のありかを見つけられるようになった。先日は「コシアブラは若芽をナマで食うのがうまい」といわれ、実際に食べてみたら、えぐみもなく口中に清涼感が広がって美味しかった。山菜は奥が深い。秋田の人たちは山菜の苦みを身体にとりこむことで身体が春に目覚める。長い冬の眠りから覚醒するための「古代からのDNA」がなせる技だそうだ。クマも恐れず山菜採りをする人たちを見ると、なるほどと納得。

 忠犬ハチ公は本当に「賢いイヌ」だったのか。30年ほど前に「中央公論」に掲載された京都精華大教授・深作光貞氏の論考では、「主人が死んだことも悟れない単なるバカ犬」と結論付けていた。その論考にこちらも影響を受けていたのだが、仁科邦男『犬の伊勢参り』(平凡社新書)を読んで考えがぐらついた。犬が単独で青森(黒石)から伊勢神宮まで行き帰ってくる話だ。笑ってしまいそうになるが、江戸時代はこうした犬の伊勢単独行が数え切れないほどあったのだそうだ。それは文献からも証明できる歴史的事実だ。となればハチ公もエサ目当てとはいえ笹塚の自宅から渋谷駅に毎日通い続けたことも不可思議な話ではない。要するに、周辺に決まった道筋を辿れるよう配慮した「世話をする人間」がいたわけである。もしかすればハチ公伝説というのは、この江戸期の犬の伊勢参りを下敷きにした「物語」なのかもしれない。

 4月から新人が入舎しました。息子です。入舎とはいっても半年間は見習いの下働き。どこまで続くのか分かりません。この時代、出版の仕事に未来はあるのか、親としてはいささかの不安がないわけでもありませんが、しばらくは見守っていきたいと思います。で、人員が増えれば仕事は楽になりそうなものですが、逆でした。一から教えなければならないことが多く、「教育」に思った以上時間がとられてしまいます。入舎して1か月がたちますが、この間、受注管理や経理、掃除から本の扱い方まで基本中の基本を叩きこんでいます。電話応対や接客、服装やマナー、言葉遣いから生活の在り方まで、なんだか教師になったような心持で、こちらの1ヶ月間もあっという間に過ぎてしまいました。
 初給料ではメシをおごってもらう約束ですが、その約束もこちらが無理やりにとりつけたもの。とても本人からそんな申し出をする余裕はないようです。ホームページでは新入舎員コラム「仕事場の花」を書かせています。「1本勝負」の書評も月に1,2本は書いてもらう予定で、早く戦力になってほしいと切に願っています。不肖の息子ではありますが、なにとぞご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

2月×日 1,2月はほとんど返品の処理で終わった。疲れた。ひたすら徒労感のみ。
2月×日 雪はもう見たくない。事務所にいると仕事のことばかり考えている。この場所を離れたい。何の目的もなく新幹線で仙台へ。駅ビルの蕎麦屋で昼酒を飲み、街をフラフラ。晩酌も仙台駅前の焼鳥屋ですませ、自宅に戻ってきたのは夜9時。
2月×日 週末、少し大きな会場で「本」についてお話する予定。ちゃんと勉強しておこうと、福嶋聡『紙の本は、滅びない』(ポプラ新書)、宇田智子『那覇の市場で古本屋』(ボーダーインク)、内沼晋太郎『本の逆襲』(朝日出版社)を読む。面白かった。
2月×日 ゴミの日。家と事務所で45リットル2袋。ほぼこれが定量。月に2回ある燃えないゴミの日も量はほぼ決まっている。生活にはリズムがある。そのことをゴミが教えてくれる。
3月×日 花瓶に活けた梅がきれいに咲きだした。ろくに水も替えてやらなかったのに、けなげだ。路上の雪もとけだした。
3月×日 今日やる仕事は前日の段階でメモする。だから忘れたりはしないが、爪を切ったり、薬を買いに行ったり、書評用の本を確保したり、故障したドアノブの修理……といった「小さな用事」は、ほとんど失念する。
3月×日 録画しておいた「コスタリカ横断850キロ」という10日間にわたる過酷なアドヴェンチャーレースを観ていたら、日本チーム・メンバーがボートから海にウンチをするシーン。永倉万治の作品に似たシーンがあった。恋人同士がボートを漕いでいる。ウンチしたくなった男は湖の中に飛び込んで、ボートを押す仕草をしながら恋人に悟られないように排便。ところがボートは円を描くように回りだし恋人の目の前にポカリとウンチは浮上、というような話だった。
3月×日 3・11が近づくと周辺がかまびすしい。私にとっては3月6日がある人の命日で大切な日だ。「中島のてっちゃ」として秋田市民に親しまれた知的障害を持った放浪芸人だ。彼の本を書いて世に出たのが40年前、亡くなってからもう20年も経っている。光陰矢のごとし。今度はこっちの番だよ、てっちゃ。
3月×日 「もしもし」という言葉を使わなくなった。ある作家のエッセイでこのことを指摘していた。確かにケータイの普及で「もしもし」が省略され、いきなり「はい、はい」と切り出すのが普通になった。こうして言葉は消えていくのか。
3月×日 夜空に白鳥の鳴く声が聞こえるようになった。広面周辺は北帰行の通り道になっている、毎年この時期になると夜の散歩の間、鳴き声がうるさいほど。もうそんな季節になったわけだ。
3月×日 一泊で八戸へ旅行。当地に就職の決まった学生と一緒だ。帰りの高速道路選択をミスし、4時間半かかって帰還。ミスというより「恥ずかしいほどの方向音痴」が証明された。
3月×日 夜中に背中がスースーする。頭も痛い。身体もだるいし寒気も。風邪をひいたらしい。季節の変わり目、精神的にホッと油断した時が「危ない」。重々わかっていたのに。 まるで学習能力がない。
3月×日 丸々2日間、たっぷりと休ませてもらった、ベッドの中でだが。2日間で食べたのはカレ―ライスと小さなおにぎりだけ。それでも体重はたいして減っていない。
3月×日 秋の宮の国道108号で目撃されたイノシシ情報、その後の状況
が知りたいのだが情報は皆無。秋田にはイノシシぐらいて当たり前と思っている人も多いが、イノシシの北限は宮城、山形南部。年々温暖化で北上している。イノシシがなぜ雪国にはいないのか、その理由を知ってますか?
3月×日 日曜から月曜まで1泊2日東京出張。模索舎・五味正彦さんのお別れの会。次の日は神保町ぶらり散策。その変貌に驚いた。「本の街」とは名ばかり。かわっていなかったのは神保町交差点にある岩波ブックセンターS社長。S長老は84歳の現役書店マン。「東京オリンピックまで現役で」などと、ため口でお話しできる先輩だ。
4月×日 息子が入舎することになった。2週間ほど前に突然決まったことで、私自身がこの急な展開に一番戸惑っている。
4月×日 50円も80円も切手の在庫はたくさんある。これにすべて2円切手を貼りなおさなければならなくなった。学生バイトのM君に頼んで近所のコンビニを梯子してもらった。M君は4店で150枚分の2円切手を買い貯めてきた。「客単価の下がる2円切手買い」はコンビニ側のもっとも嫌がる客なのだそうだ。 
4月×日 大学病院内にあるスタバにコーヒーを買いに出る。が、閉店しました、の張り紙。スタバが逃げ出すような環境に住んでいるのか、私は。
4月×日 ヤンキースの田中の試合をBSで観ていて驚いた。大リーガは試合が終わった後、1時間ほどトレーニングをする、とさりげなく解説者が言っていたのだ。クールダウンやアイシングやストレッチではなく、「トレーニング」だゼ。ウヒゃああ。
4月×日 もう5年以上、記帳していない銀行通帳を解約。といってもどのハンコで契約したかも覚えていない。ありったけのハンコを持って照合してもらい、すんなり解約できた。
4月×日 鶴岡市にある「アマゾン民族館(自然館)」は南米アマゾンの民族コレクションとして日本最大規模。館長の山口吉彦さんとは昔から親交がある。その民族館が3月末で閉館になった、と朝日新聞が報じている。2万点にものぼる貴重なアマゾンの民具や珍品が行き場なしの状態になった。
4月×日 経理をやっているので気がついたのだが、「飲食費」がこの半年で大幅に増えている。理由はいくつかある。学生バイトたちの「従業員茶菓代」が多くなったこと。「制作打ち合わせ」と称する飲食が今年に入って頻繁になったこと、が原因だ。
4月×日 若者はもっぱら邦楽ばかりで、洋楽を聴かなくなっている、とラジオでDJがしゃべっていた。たまに日本の若者の音楽であるJポップを聴くと歌詞のあまりの幼稚さに鳥肌が立つことがある。こうした臆面のなさ、感情過多、演出過剰の元凶は巨匠・相田みつおセンセらしい。この流れを加速させたのが東日本大震災の例の「こだまでしょうか」のCMではないか、という面白い本をいま読んでいる。
4月×日 山形・飛島までひとり1泊旅行。ずっと青空を楽しんできた。酒田で必ず泊まるのが「リッチ&ガーデン」というホテル。ホスピタリティもさることながら、ここの朝ごはんが、いい。ほとんどの食材が地元農家の野菜をつかっている料理が主。徹底して野菜がメイン。これがメチャうまい。
4月×日 馬の顔が長いのはなぜか、知ってます? 本村凌二著『馬の世界史』(中公文庫)という本に、目と鼻が離れているのは草を食べながらでも周りに注意を払うことができるから、と書いていた。ナルホドね。
4月×日 名古屋大学出版会は業界ではレベルの高い出版社として高名だが、実は名古屋大学の出版部ではなく名古屋の周辺大学の出版部、という意味だそうだ。芸能界の定番のあいさつ「おはようございます」は、上下関係をはっきりさせるための用語で、言われたほうが「あ、おはよう」と受ければ、自ずとその上下関係がわかる。「こんにちは」や「こんばんは」にはその返答バリエーションがないため、「おはようございます」1本に絞られていった、とある本に書いていた。ウケウリです。
4月×日 午前中は「山の学校」の開校式がトラブルで中止。午後からはある酒造関係者と会い、シェリー酒のような超レアものの日本酒の古酒をいただいた。いろいろあった一日。
4月×日 県内はいまが桜が満開。県内であまり知られず、人も少なく、とびきりきれいな桜の名所は……国際教養大のキャンパス桜並木。ここは「知られざる絶景」である。
5月×日 少しずつだが体重が増えている。憂慮すべき事態だ。思い切って、というか思いあまって、「食べ過ぎ」と思った次の日は夕食を抜くことにした。
5月×日 最近、ちょっと遠いところにできたセブン&イレブンに行く。食料関係のラインナップが充実していることに気がついた。
5月×日 GWは本当に山三昧。岩谷山、男鹿三山、大曲西山三山に今日は横手・山内村にある南郷岳。さすがにこの頻度は疲れる(笑)。この一週間に4度山行し、登った山は8座。先日、若い看護師(女性)と一緒に山に登ったら、「あまり健脚だとボケたら徘徊老人になります」と言われ、ショック。
5月×日 今日から仙台と東京へ出張。去年と同じく私立大学でお話をしてくる仕事。残りは週間遅れのGW休暇。途中、京都に行く新幹線で『イベリコ豚を買いに』読了。旅は貴重な読書タイム。久しぶりに百万遍『梁山泊』へ。
5月×日 HPで「リトアニア留学日記」を1年間連載して好評だった国際教養大のY君と山登り。Y君は根っからのジャーナリスト志望で、就活も難関A新聞社を狙っていたのだが、なんと無事内定、お祝いの山歩きになった。
5月×日 本を数える時「冊」という助数詞を使うのはなぜなの。昔、本は木簡に印字しひもで結んで「柵」のような形だったから。さすれば電子書籍もやはり1冊2冊と数えることになるのだろうか。


*6月なのに夏号です。
*新刊案内も、ようやく新しいものに「更新」することができました。
*ご案内のとおり愛読者の皆様への感謝として、今回のDMでご注文いただいた方にもれなく、小舎の7枚組み絵ハガキ「雪国の絵本」をプレゼントします。これからは時々ですがこうした「太っ腹プレゼント」(笑)を企画します。
 (あ)