去年末から、40年間で広げすぎた取引先を縮小する作業に取り組んでいる。いわゆる事業のダウンサイジングだ。100近くあった取引先(教科書販売会社や道の駅、お土産店や温泉場、スポーツ店など)を片手の数まで絞ること。消費税でゴタゴタする4月前に、その作業にメドをつける予定だったが、2月中にあらかた処理を完了。それは喜ばしいのだが、委託業務を中止すると大量に返品が発生した。この返品処理作業に忙殺されてしまった。学生アルバイト(秋田大学新聞部)たちの力で、どうにか終えることができたが、返品された本の7割は「廃棄」するしかない汚れ本。本を捨てるのは断腸の思いだ。さらに返品にともない「過払い」の問題も生じた。ダウンサイジングにもお金がかかるのだ。これは予想外の大きな出費で、これまで無借金経営を自慢してきたのに、銀行に頭を下げることになってしまった。これが、かえすがえすも悔しい。

 昔から週刊誌や雑誌の類はほとんど読まない。「本という器」とそれに盛られた中味に対する「信頼と妄信」が強いせいだ。ところが最近、まったくの気まぐれでキンドルを買った。コボも持っているから2台目の電子書籍端末だ。これで様子がちょっと変わった。過去に気になった週刊誌や雑誌の記事を50円とか100円で買って読むようになった。ペットボトル飲料を買うより安いが、ちょっと病みつきになりそうで危険だ。その一方、 ケータイ(iphone)とPCタブレット(ipad)の契約を解除した。持っていてもほとんど使わなかったのだ。これで、はれて日本でも数少ないだろうケータイ不携帯者になった。気分はすがすがしい。

 ソチ・オリンピック。テレビの連日の「さあ、感動してください」という見苦しいほどのあざとさにはうんざり。新聞で十分だ。今回の五輪で一番印象に残ったのは、女子バイアスロンに出場した秋田の鈴木芙由子選手(順位は52位)。彼女の祖父はマタギだ。祖父の強い影響を受け、野山を駆け回る鉄砲打ちになった。これだけでもすごい話なのに、なんとオリンピックにまで出てしまった。鉄砲を担いで野山を走り回るバイアスロンとマタギ、絶妙な取り合わせだ。この話って全国区ニュースだと思うのだが、今のところは秋田限定ローカル。

 1年ほど前までよく昼寝をした。事務所のソファーで30分から1時間ほど仮眠するのだが最近まったくしなくなった。眠くならないからだ。ものの本によると、これはどうやらダイエット効果の一つらしい。昼にラーメンやチャーハンといった糖質のものをとらなくなったのが原因だというのだ。昼の外食をやめ、リンゴと自家製寒天のランチを続けている。それだけで昼眠くなくなったのは事実だ。

 返品の話に戻る。そんなわけで東北各地から返品が相次ぎ、その海の中を必死で泳ぎまわっていたわけだが、新刊案内からはとっくに消えた(絶版・品切れ)過去の無明舎出版の珍しい本がいろいろと出てきた。書名を出すと注文が殺到するので言えないが、過去の絶版本が広範に薄く(1,2冊)在庫あります。汚れもあります。御注文はファックスかメールか返信はがきで。あまり期待せずに、どうぞ。

11月×日 週末は学生アルバイトたちが来てくれる。事務所の内外(倉庫)ともにぎやかだ。若い人の声が響き渡る空間というのは気持ちいいものだ。
11月×日 今日の山は「竜ヶ森」。県北にあるブナ林のきれいな山。山はもう雪。この時期はスパイク長靴で登る。来週は横手の「御嶽山・黒森山」だが本当の目的は山麓にある佐々木リンゴ園でのリンゴ狩り。1台の車に人間は3人まで。それ以外はリンゴスペースだ。雪山っていいよ。
11月×日 月曜日をクリアーするとホッとする。11・9の40周年記念イベント残務がようやく終わりつつある。今年はなんだかもうずっと走り続けている気分だなあ。
11月×日 大きな山を越えたような気がする。数カ月の七転八倒はうそのようにいつもの、日常が戻ってきた。 タイダな日々。
11月×日 ここ数カ月は10馬力ぐらいの能力をフル動員し……と書いて手が止まった。1馬力というのは「75キロの荷を1秒間に1m運ぶ力」だ。人間の力を馬力に例えれば約10分の1馬力。とすれば10馬力というのはちょっと大げさ。せいぜい2馬力か。
11月×日 「荒野」という言葉はなんだかかっこいい。身勝手な夫や息子たちと決別して家出をする50歳前の主婦の孤独と希望を描いた桐野夏生『だから荒野』(毎日新聞社)を読む。銀行員の夫が家出する小説、島田雅彦「ニッチ」を読んだばかりなので、おれって家出本(勝手に命名)が好きなのかなあ。
11月×日 DVDで映画『人生、ブラボー』。精子提供者が、それによって生まれた子供たちを訪ね歩くという人生喜劇だ。どこの国の映画かわからなかったが、後半ようやく「カナダ」という言葉が出てきて納得。フランス語でしゃべってドルで買い物をしてるんだもの、わからないよね。
11月×日 夜の散歩を駅前繁華街コースに変えた。寄り道した駅横地下「無印良品」で冬用の寝巻を買う。これがアタリだった。厚手でボタン・モック、首筋が保護され、悩んでいた肩の冷え症が見事におさまった。小躍りしたくなるような買い物で久々の大ヒット。
11月×日 月末は緊張する。事務処理が立て込むからだ。ちょっと前までは月末の悩みというのは「資金繰り」だったが、たが、いまは「事務処理」。変われば変わるもんだ。
11月×日 神岡町にある酒蔵「刈穂」を訪ねる。昔、よくこの蔵に県内外の人を案内した。まだ有名ではなく全国区になる前のこと。蔵の奥に昔ながらの六つの船(もろみをしぼる箱)があった。京都の有名な料亭の主人Hさんを案内したとき、彼はこの船をみて驚愕し、自分の店のプライヴェート酒に「六舟」と名付けた。これがきっかけで刈穂のヒット商品「六舟」は生まれた。その船がまだちゃんと残っていた。
11月×日 連日雨。1週間のうち散歩ができる日は2・3日。そんな状態がひと月近く続いている。身体に毒素がたまり続けているような不快感がある。
11月×日 久しぶりの東京出張。夜の9時から息子と青山でメシを食う予定だが、9時の夕食ってあんまりだ。この時間帯にしか予約が取れないレストランなのだそうだ。表参道にあるバルバコアというブラジル料理屋で、シュラスコという肉料理を食べるのだ。この店にはもう20年以上通っている。それにしても東京はまるで別の国だ。天気が違う。青空があたりまえの世界だ。青山のミニシアターで映画『世界一美しい本を作る男』を観る。日本にも同じような(小山さんといったかな)本屋(印刷屋)さんがいるのを思い出した。
11月×日 毎日、新しいことを一つでも覚えていく、というのは新鮮だ。
ここ数カ月はそんな日々だったのだが、どうやら一段落。いつもの怠惰な日々に逆戻りしつつある。
11月×日 忘年会の余波でジリジリと体重が増えつつある。危険な兆候だ。思い切って3日間ぐらい集中的ダイエットをしたいのだが、忘年会は容赦なく続く。
11月×日 読む本が「伝記」系に偏っている。最初は津野海太郎「花森安治伝」。次は「天才・勝新太郎」。そして藤圭子を描いた沢木耕太郎「流星ひとつ」。その後は伝記系からはずれて「事件系」の大王製紙前会長・井高意高、バカラ106億負け男「熔ける」に、出所後ホリエモンの「ゼロ」。
11月×日 忘年会も昨日ですべて終了。年の瀬にうまいお酒が飲めるというのは幸せだ。ありきたりだが健康でいれば苦しいことだけでなく楽しいこともちゃんとめぐってくる。
11月×日 ついにやってしまった。咳が止まらない。あきらかに喉にはいりこんだウイルスを外に出そうと身体が必死にもがいている。カミさんからうつされた。正月は文字通り寝正月になりそうだ。シャレにならないなあ。
11月×日 咳がまだ止まらない。熱もないし、だるさもない。全身からエネルルギーが枯渇しつつあるような「疲れ」だけが確実に身体の芯に巣食っている。
1月1日 明けましておめでとうございます。今年もよろしくおねがい申し上げます。お屠蘇らしきもので新年を寿ぎ、そのまま、また寝てしまいました。トホホなお正月です。
1月×日 仕事始めにやることは決まっている。支払調書を作成し著者やデザイナーへ送ること。年1回、1月中に出版社が行わなければならない作業なのだが、小生がやるのは初めて。ものすごく緊張する。
1月×日 事務系の仕事に関しては9割がた支障なくこなせるようになった。事務系仕事が性にあってる、なんて予想外だったなあ。けっこう慣れると好きなんです事務。今月は5,6本の新刊編集の仕事も参入予定だ。新年早々かなりハードな日々。
1月×日 「リタイアした人はなぜ南国に行きたがるのか」を考察した文章を読む。ようするに多くの人は自分の時間を売って生計を立てているわけだが、南の島には「売らなくていい時間」がある。その象徴として使われている、というのだ。なるほど。
1月×日 1年で一番ユウウツな「健康診断」の日。去年より体重が10キロ落ちているので、その点は自信満々だが、かんじんの血圧が140台で、玉ねぎ効果まったくなし。ショック。
1月×日 チュニジアで働いている友人が来秋。事務所の2階でSシェフの料理で歓迎レセプション。もう外の飲み屋さんで騒ぐのには飽きてしまった。
1月×日 散歩のときメガネをはずして歩く。就眠前には目薬をさすようにもなった。その効果なのか、目ヤニがたまったり、頭痛や肩こりがなくなった。
1月×日 仙台へ日帰り旅。3連休の最後にいい息抜きになった。3時には用事が済んだので、アーケイド街の目立たない場所(ビルの3階)にある名画座に入った。邦画ドキュメンタリー『立候補』をやっていた。マック赤坂や羽柴誠三秀吉といった「泡沫候補」を追っかけたドキュメンタリー映画だ。面白かったが、街に名画座がひっそりある風景って、ものすごくうらやましい。
1月×日 毎朝、30分以上かけて雪かき。家と事務所と倉庫前の3か所で、もうこれだけで息が上がる。いいスポーツ・トレーニングだ、と自分に言い聞かせて汗をかく。
1月×日 松田美智子『サムライ 評伝三船敏郎』(文藝春秋)の帯には「黒澤明との愛憎」と書かれている。でも黒澤と三船の間にはさして問題になるような確執はなかったようだ。印象に残ったのは三船の晩年の孤独には愛人の宗教が深くからんでいる、ということ。その愛人の娘は今もテレビなどで活躍しているが、やはりその背後には宗教団体の影がちらついている。
1月×日 風邪の兆候があり、また寝込んでしまった。虚弱体質かオレは。寝ながら12時間かけ、ものすごい小説を読んでしまった。笹本稜平『その峰の彼方』(文藝春秋)。500頁もある山岳小説で、その9割の記述がマッキンリー山中での遭難シーン。寝床で涙が止まらず、本で涙腺をしぼりとられたのは久しぶり。
1月×日 体調はようやくもとに戻りつつあるが、それにしても毎日が雪雪雪。選挙では「一票の格差」が問題になるのに、日本国土にある「雪の格差」はなぜ問題にならないのか。人は生まれる場所を選べないからなあ。
2月×日 なんとなく身体が要求しているような気がして、ストレッチを開始。これで何かが変わるかもしれない。
2月×日 ある人気作家の名前を最近聞かない。不思議に思ってアマゾンで検索すると、驚いたことに、キンドルで電子本を出版している。そうだったのか。で、勢いでこちらもキンドルを購入。
2月×日 たぶん社会に出て初めての経験だ。毎日5時半には仕事を終え、家に帰る。ほとんど「夢」にまでみた公務員生活(うそ)だ。
2月×日 正月に風邪をひいて数日間寝ていた。そのときの無精ひげを今もそのままにしている。遠目にも顎に白いものがちゃんと見えるから「あごひげ」に見えなくもない。本人的にはあくまで無精ひげなのだが。
2月×日 どこもかしこ「豪雪」の話題でもちきりだが、わが秋田市に限って言えば今年の積雪量は去年に比べて圧倒的に少ない。毎日の雪かきの徒労感や疲労感が去年よりもないし、雪かきの回数も少ない。

*というわけで(どういうわけだ)、返品と連日格闘中です。返品はその7割が汚れのため再出荷できないので「廃棄処分」にします。返品処理とは「本を捨てる」作業と同義でもあるのです。
*毎日のようにダンボールで何個かの本を捨てていると、本が文化財であることよりも、ただの重い紙ゴミにすぎない、と正直なところ実感させられます。
*作業をしながら、虚しい気持ちになることも度々ですが、これが本をつくるリスクと責任なのだ、と肉体労働に励む日々です。 (あ)