7月、8月は新聞(特に朝日)を読む楽しみが半減する。それでなくとも最近はわけのわからない通販広告ばかりなのに、この時期は連日、高校野球だけで紙面が埋まってしまう。朝日新聞の秋田版は1面のみ。これが2ヶ月間、「狂ったように」高校野球一色なのだから「正気の沙汰」ではない。
 この時期になると真剣に「新聞を替えようか」と思うほどだ。野球は嫌いではないが、大げさな精神主義がはびこる高校野球は好きになれない。ピンチのたびに無理やり笑みをつくったり、砂をかき集めて泣いたりする光景はゲンナリ。他のスポーツをやる高校生にも同情を禁じ得ない。時代は変わる。朝日新聞はもうそろそろ高校野球幻想(広告効果と感動強要)を捨てるべきではないのか。

 この時期の定番の「戦争」報道にも一言。「戦争を風化させてはならない」というのが新聞社の使命なのは、よく分かる。が、8月新聞紙面のルーチンのようになった「戦争特集」は、ほとんど義務化した「やっつけ仕事」が少なくない。
 例えば今年8月、地元紙の戦争特集は「語り、残す――聞き書きに記した戦争」という3回の連載。その1回目は「忘れられない〈5円の命〉」という見出しだ。記事には「1枚5円のハガキ」で「お前を殺しても5円で済む」、「5円という信じられない金額でマインドコントロールされた」といった「5円」をキーワードにした証言者の記述がつづく。33歳の自分史制作者なる若者が聞き書きし、それを新聞記者が又聞きしたものだ。証言者はむろん、聞き書きした作者、それを取材した記者、その記事や見出しをチェックした編集デスクの誰一人、「5円」という数字に疑問を感じていないのは、記事からも明白だ。戦争中のハガキは「5銭」だ(その前は3銭)。5円はその100倍の数字。地方紙とはいえ公称20万部を超える影響力の小さくないメディアにして、こうだ。戦争を風化させているのは、いったい誰なのか。いや、対岸の火事ではないか。
 2020年に決まった東京オリンピックにも半畳。ベストセラー作家の奥田英朗に『オリンピックの身代金』(2008年 角川書店)という本がある。1964年の東京五輪を舞台に秋田県南部の貧しい農家出身の島崎国男が国家相手に反乱のテロをしかける長編小説だ。島崎は東大大学院生で、オリンピックのために出稼ぎにきた兄の急死から物語は動き出す。過酷な出稼ぎの現場、東京と対極にある貧困の東北の村、政治が切り捨てた地域に、華やかな東京の百分の一でいいから富を回してあげたい。オリンピックは「東京を近代都市として取り繕うための地方が差し出した生贄だ」と島崎は言う。この小説は面白いばかりでなく、東北に生まれ育ったことを、東京と比較して考えるきっかけを与えてくれた、特別な一冊だ。文中1ヶ所だけ、島崎が本郷の下宿で冷たい「稲庭うどん」を食べる場面がある。これは、ない。昭和39年に庶民が高級な稲庭うどんを買えるはずがないからだ。稲庭うどんが一般化するのは昭和50年代に入ってからだ。

5月×日 忙しいような、山を越してヒマになったような、微妙な日々が続く。
5月×日 事務所に異臭。新入社員が「隠れて」煙草を吸っているのが判明。禁煙論者ではないが、煙でいろんなものが汚れるのがイヤ。こればっかしは嗜好品なので命令はそぐわない。やんわりと禁煙を勧める。
5月×日 棚の整理をしていたら泡盛が出てきた。スピリッツ系は大好きだ。さっそく水割りで氷をたっぷり入れ呑む。夏はこれに限る。
5月×日 一睡もできなかった。目が冴え眠られなくなった。こんな夜もある。服を着て深夜の散歩。朝4時にはもう明るくなった。
5月×日 DVD映画を観るようになった。借りてきたのはフランス映画『クロワッサンで朝食を』。ジャンヌ・モローが意地悪ばあさん役で、パリのエストニア人たちの物語だ。
5月×日 朝一番で新入社員と打ち合わせ。30分以上しゃべっていることもあれば一言で終わることもある。40年間、自分のやってきた経験や知恵や技術を少しずつでも伝えておきたい。言葉が足らずうまく伝えられないもどかしさに落ちこむ。
5月×日 夜はすっかりDVD映画鑑賞。「25年目の弦楽四重奏団」と「大統領の料理人」。この調子で1日2本ペースだ。寝る前に読んでいるのは奥泉光の長編小説『東京自叙伝』(集英社)。
5月×日 友人と2人で鳥海山。以前のような精神的なプレッシャーや筋肉痛もない。なんだか、すっかりクライマーだなオレ。
6月×日 いつのまにか6月。大きな地殻変動に見舞われ始めたのは去年の今頃だった。そうかあれからもう一年も経ったのか。
6月×日 体重がまた下がりはじめた。チョーうれしい。高齢者の要介護リスクは「太った人より痩せた人のほうが二倍も高い」のだそうだ。ガタイのいい人は何となく長生きしているイメージがあったが、やっぱり根拠はあったのか。ちなみに認知症の危険は、喫煙者が禁煙者の二倍の発生率。どちらも日本老年医学会が発表したもの。
6月×日 ブラジルに関しては一般的な日本人より、ちょっと詳しい。そのブラジル人がWカップ反対のデモをしている映像はショックだ。心配なのは日本からのサポーターたち。半数は「泥棒」の洗礼を受け、意気消沈帰国するのが予想できる。
6月×日 山用レインウエア―を着て、傘もささずに1時間、雨中を夜の散歩。そんな気分の時もあるサ。
6月×日 夏のDM注文もひと段落。これから6月後半は編集業務が仕事のメインになる。
6月×日 平日だが朝3時半起き。神室山登山。県内最難関の山だ。気持は入っていたが体調管理が不十分、両腿にケイレン。結果、みんなに迷惑をかけてしまうことに。準備は大事。
6月×日 「ライターズ・ネットワーク」というフリーライターの年1回の会合が東京・出版クラブであり、久しぶりに出席。ゲスト・スピーカーは下北沢で書店「B&B」を経営する内沼晋一郎さん。夜は3次会まで。翌日は、その下北沢の「B&B」を訪ねてきた。
6月×日 夏休みは例年通り山形・遊佐町の「しらい自然館」。この施設を拠点に鳥海山ろくの散策をするのが、夏休みの定番になっている。
6月×日 深夜カミさんから「斎藤晴彦さんが亡くなった」と告げられた。20代の若造のころに知り合い、黒テントを通じてその後もずっと親交があった人だ。去年、お電話をいただいたのが最期。後輩の俳優たちから人望の篤い人だった。安らかに。合掌。
7月×日 何年ぶりかで県展を観にいく。山仲間モモヒキーズのメンバー2名が入選したからだ。来年の県展には写真部門にノミネートして見ようかな、とバカなことを思いつく。
7月×日 プロ野球で打者のバットがやたらと折れるのを不思議に思っていた。近年、手元で微妙に動く変化球が主流になり、その変化球に対応するため打者はバットを軽くしはじめた。そのためバッドを「過乾燥」するので折れやすくなった、とTVで衣笠さんが解説。ナルホド、そうだったのか。
7月×日 山行後は温泉で汗を流す。浴場ではタオルを頭にのせる。昭和40年50年ころの映画を見ると、タオルは浴槽に入れている。衛生上の理由から、このあたりを境にタオル入浴は禁じられたのだろう。先日読んだ本に、江戸時代はフンドシが貴重品(レンタルまであった)で、入浴時は盗難除けに頭に巻いてはいった、という記述があった。ふんどしの頭まき。エッ、もしかしてこれがタオル頭のせのルーツ? 
7月×日 仙台の私立大学で「東北再発見」という講座を持っている。行き帰りの車中は貴重な読書タイム。行きは『コーヒーが廻り世界史が廻る』(臼井隆一郎著・中公新書)、帰りはこのDM通信の愛読者だという長瀬達郎著『俳人菅裸馬』を読む。「紅梅に匂う少年老い易し」の句が心に残った。仙台の「モンベル」では、軽量イタリア製(アゾロ)登山靴を買う。昨夜は寝床の横に置いて寝た(冗談です)。
7月×日 チェーン居酒屋で呑む機会が増えた。先日、地元チェーン居酒屋にはいったら、仲居さんは秋田弁を売りにしたおばちゃんたち。古民家炉端風田舎料理の店で県外観光客仕様。そのため「過剰な秋田演出」にゲンナリ。「まってけれ」「け」「んだが」といった、はき捨てるような「ため口方言」に不愉快になった。
7月×日 「3・11」関連の本を読むことも、自舎で震災本を企画、出版することも、控えてきた。理由はまだうまく説明できないが、なんとなくイヤ、としか言いようがない。『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている――再生・日本製紙石巻工場」(早川書房)を読んで、いろんな当時の思いが脳裡を去来。
7月×日 昼はまだリンゴを食べている。2年近く、飽きもせず、倦みもせず、自棄にもならず、続けている。
7月×日 3連休最後の休日は朝3時起きで鳥海山の鉾立口から新山へ。
7月×日 山行翌日は気分がいい。身体にまとわりついた1週間のよどんだ空気が一掃され、生まれ変わった「新しい自分」になった気分。
7月×日 近所のサイクル・ショップに顔を出し最新の自転車事情のレクチャーを受けてきた。店主のジュンちゃんはマウンテンバイクを担いで南米アコンカグア単独登頂を果たした(世界で2人目)冒険家。実は年がいもなくクロスバイクが欲しい。
7月×日 朝夕とも「だし料理」。夏にはピッタシの山形の郷土料理だ。秋田にも夏の食べもの「あさづけ」(米粉を使った酢の物)がある。これは以前TV「笑っていいとも」に「秋田の夏の郷土食」として推薦し、紹介してもらったが、ヒットまではいかなかった。
7月×日 河辺の「ユフォーレ」にS&S。S&Sとは私の造語で「ストレッチ&スパ(温泉)」。その「ユフォーレ」の入口で、すさまじい数のドクガ(マイマイ蛾)か乱舞していて、ビックリ仰天。大量発生しているらしい。
8月×日 竿灯がはじまった。これまでの半生で竿灯を見たのは3度くらい。大曲の花火も一度も観たことがない。観たいとも思わない。お祭り嫌いには理由があるのだが、ここで書くには紙枚がたらない。
8月×日 通販健康食品の9割はインチキ、と週刊誌が書いていた。よく考えてみると「ふくらはぎ」の本は買ってしまったし、炭水化物ダイエットへの信頼はいまも揺るがない。そればかりか毎日黒酢まで呑んでいる。腹筋マシーンや足マッサージ機にも食指が動く。年のせいか、誇大広告に耳を傾け、反応してしまう自分が情けない。
8月×日 今日の「大深岳」は台風の影響で中止。ポッカリ時間ができたので近所のレンタル店でモノクロのアメリカ映画『ネブラスカ』。
8月×日 お盆休みは13日から15日まで。DVD映画漬けの日々になりそうだ。昨夜はイタリア映画なのに英語でしゃべる『鑑定士と顔のない依頼人』。
8月×日 ようやく雨があがった。世間は気分的にはすっかり「お盆モード」。電話も来客もメールもほとんど休止状態、デザイナーとお盆後の仕事の準備打ち合わせぐらいしか、やることはない。
8月×日 夜の街を放浪(散歩です)していたら突然雨。軒先に注意しながら歩いたら、捨てられた傘があるわあるわ。ものの5分で3本の使える傘を拾った。今日からお盆休み。新入社員は車にテントを積んで被災地方面に出かけた。
8月×日 「カニ玉」が好き。中華料理の天津麺。最近は自分で作って食べている。「うちのごはん」のような超簡単インスタント食材があるから、事務所の簡易コンロでカンタンにできてしまう。体重増加だけが心配だ。
8月×日 車は新入社員が被災地巡りで使用中。車なんかなくても不自由しないと思っていたが、やっぱり不便極まりない。お盆はずっと事務所に立てこもっているしかない。
8月×日 「参勤交代」のことが知りたくて調べている。こんなときは窮余の一策で小説に頼る。運よく浅田次郎に『一路』(中央公論社)という上下巻の参勤交代をテーマにした長編小説があり、いい入門書になった。
8月×日 お盆が過ぎても連日の雨だ。今が梅雨なのかしら?何でも異常気象のせいにしたくはないが、何かやっぱりヘンだ。

*残暑お見舞い申し上げます。
*暑いと外出を控えるようになります。6,7,8月とずっと事務所で机の前に垂れこめていました。愉しみは本とDVDと、毎週つくる昼用の自家製カンテン。リンゴとカンテンの昼食はもう2年続けています。すっかり外食とは縁遠くなりました。
*通信不要の方は、お手数ですが同封の返信はがきで「不要」と書いて投函下さい。すぐに処理いたします。
(あ)