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いまのところ私の最も若い友人Y君は1993年生まれの19歳。国際教養大学の2年生で、現在はリトアニアに留学中だ。出身は讃岐で、秋田の稲庭うどんは「ソーメンでしょ、あれは」と言いはっていた。最近は「稲庭もなかなかですね」と認識を改め、秋田は第2の故郷です、とまで言い出している。趣味は登山に落語鑑賞、歴史小説で、将来はジャーナリストになりたいそうだ。尊敬するのは故郷出身の元総理大臣・大平正芳だという。 山のサークルで知り合い、県内の山をよく一緒に登った。大学では雑誌部に所属し、年に数回、瓦版のようなコピー刷り冊子を発行している。現在、私の会社のHPに「リトアニア留学日記」を連載中だ。 学生たちのコンパに出ると毎回驚くことの連続だ。ミステリー研究会を立ち上げたという女子大生は「アガサ・クリスティって何ですか?」と真顔できいてくるし、椎名誠や村上春樹の本は読んだことがない、と屈託がない。逆に、彼らが列挙するライトノベルの有名作家たちの名前は、ただの一人として私にはわからない。 「年に2,3度の雑誌や新聞だけで情報発信に不満はないの?」ときくと、「ラジオでしゃべっちゃいますから」とこともなげに言う。ポッドキャストというインターネット上で聞けるラジオ局を作り、自分たちでディスクジョッキーもやっているのだ。合コンのちょっと気になった話題も、これなら次の日に声でアップできる。ラジオ局といってもネットで簡単にできてしまうのだ。じっさいにパソコンで彼らの番組を聴いてみたのだが、音質もクリアーで、ディスクジョッキーぶりも玄人はだし、身内の楽しいおしゃべりで盛り上がっていた。ツイッターやフェイスブックを電子回覧板のように使いこなすのは、もはや若者の特権でもなんでもない。ラジオやテレビといった放送局さえ、1人で簡単につくってしまえる世界の入り口に彼らはいるのだ。 そんな彼らが、雑誌や新聞という昔ながらの情報発信メディアに魅かれているというのが、おもしろい。もしかすればヴァーチャル(ネット)に囲まれた現実からは紙と活字のリアルな手造り世界は、古典芸能のように見えているのだろうか。そうか、私たちは古典芸能か。 (朝日新聞秋田版’13年4月号転載)
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2月×日 休みの日は家にこもって本を読もう、という気にならなくなったのはいつごろからだろうか。本は、寝る前か旅の電車の中で読むもの。切れ切れの時間をつぶすためのもの。他にやることがあるから読書だけに時間はかけられない……そんなふうに平然と思っている。これじゃ本が売れないはずだ。 2月×日 ご近所の太平山前岳へ。こんな大雪でもスノーシュ―をはかずに登れる山がある。登山者が冬でも多く踏み跡がしっかりついているためだ。 2月×日 「三寒四温」という言葉が現実味を帯びてきた。三か月を過ぎたダイエットは奇跡的にまだ続行中。体重は順調に減り続けている。 2月×日 木内昇のエッセイ集を読んでいて、この作家が女性なのに途中で初めて気がついた。「昇(のぼり)」と読む。その本で〈弁当男子〉や〈女子会〉といった最近流行りの言い方に対し、男子には年齢制限があるが女子にはない、と面白い指摘をしていた。女は年齢から完全に解放され、現代のシンデレラは〈男子〉のほうだ、というのだ。なるほど。 2月×日 新刊以外はアマゾンのユーズド(古本)で買うケースが多い。が、今回注文した本は、なんと「自炊」された後の本が「堂々」と送られてきた。ノドの接着面が切り取られたバラバラの紙の束。これは本ではない。不愉快極まりないが、このバカ男、自炊した本でネット・ビジネスでもしているのだろうか。 2月×日 ドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー」を観ながら、少ないながら自分の持っている絵の処分のことを考えてしまった。ハーブ&ドロシーは半生をかけ公務員の給料だけで前衛絵画を買い続け世界有数のコレクションを作ったNY在住の老夫婦だ。 2月×日 うちの本の定価表示は税込みだが、今年の新刊、増刷本から「定価(本体1700円+税)」と本体表記にすることに、変更を決めた。 2月×日 角館のトークショーへ。日本人で初めて8千m峰14座を無酸素完全登頂したプロ登山家・竹内洋岳さんと作家の塩野米松さんの対談だ。講演後、塩野さんのご好意で竹内さんと食事。偉業を達成した人なのにまるで威圧感がない。飲食にも健康にもトレーニングにも何の興味もない、と言い切るあたりが可笑しかった。 2月×日 「気象病」という病気がある。「天気が悪くなると古傷がうずく」というやつだ。低気圧で血行が悪くなり、体がむくみ、自律神経のバランスが崩れる。要するに等高線の混みあった山では気圧の変化に身体(脳)が対応できなくなってしまうのだ。先日山でこの手の症状があったが、どうやら二日酔いのせいだったことが判明。はずかしい。 2月×日 2か月前の健康診断で胸部レントゲンに影があったため再診、結果は「異状なし」。念のため昨日はCT検査。またしても異状なし。もし異状がなかったら、お祝いに好きなものを食べよう、と決めた。いろいろ考えた結果、「山でインスタントラーメンを食べたい」という着地点に落ち着き、その質素さに自分で愕然とする。 2月×日 ひとりで5時半からなじみの店で飲みはじめ、腹ごしらえしてから秋大と教養大の学生コンパに参加。さらに3次会は作家のSさんと二人で川反のバーでウィスキー。帰宅は夜中の3時半、起きたのはお昼。恐れていた体重は不思議にも飲む前より減っていた。それにしても、10時間以上、笑って呑んで、楽しかったなあ。 2月×日 朝から巨大な除雪車が何台も事務所の前に集結、ゴミ出しに行くのも迂回しなければならないほど。まさに近所は除雪車銀座である。 2月×日 ここ2年ほど日本農業新聞に「読書日記」という連載を持っている。慣れからくる油断か今月締め切り原稿で大チョンボ。毎回2冊の本を取り上げるのだが、以前に取り上げた本を、また載せてしまったのだ。急いで書きなおし冷汗。 2月×日 国際教養大の中嶋学長が亡くなった。教養大を全国区の「文化遺産」にした学長の業績はもっと称えられていい。山仲間の教養大2年のY君は今リトアニアに留学中で、近く「リトアニア日記」をウチのHPで連載する予定。 2月×日 またミスをしてしまった。事務所でちょっとした調理をしたので換気のため窓を開けて家に帰った。今朝、事務所に来てみると室内一面が雪野原。今冬一番の猛吹雪で外と変わらないほど雪が入りこんでいた。 2月×日 ついに決行した。河辺の山里深い「山の学校」で、あのシュールストレミング(スウェーデンのニシン缶詰)を開缶。缶はパンパンに膨らんでいて、いつ爆発するかわからない。2重にビニール袋で飛沫防止しこわごわ缶を切った。予想通り中身はドロドロ、数片の骨が散見できたが、とても食べられるようなものではなかった。 2月×日 最近のお気に入りは湯豆腐。夕食の定番だ。蕎麦の「かえし」で食べる湯豆腐のおいしさに目覚めた。結果的にこれがダイエットになっている。 3月×日 毎日新聞科学記者・元村有希子の『気になる科学』が面白かった。毎日新聞の読者間では有名な名物科学記者だが、新聞を読んでいないので知らなかった。松原始『カラスの教科書』も寝る前に少しずつ読んでいる。岩波科学ライブラリーの本も最近けっこう買っている。なぜか理系の本ばっかりだなぁ。 3月×日……くるしい。二日酔いだ。昨夜はモモヒキーズの宴会が市内某小料理屋で。そこではそこそこ自制が効いていたのだが、2次会でひとり入ったバーで自滅してしまった。 3月×日 あの地震から2年がたった。なんともいえぬ複雑な気持ちで1日を過ごす。もう少し、静観してみるつもり。 3月×日 昼に散歩がてら駅前喫茶店に入る。そこで1時間ほど読書するのが習慣になった。集中して本を読める「理想の席」をようやく見つけたのだ。「タリーズ」の一人掛けソファ―席だ。外の風景が見えるから圧迫感や閉塞感がない。客の姿を見なくて済むのが、なによりありがたい。でもここは混む。さらに注文品はレシート番号を大声で読みあげてから出すシステムだ。この声が大きくてわずらわしい。 3月×日 玄関前のアイスバーンをツルハシで割る作業に熱中する。息が切れ、苦しい。持続力がない。それにしても鉄板のようなアイスバーンだ。春は近い。 3月×日 友人の大学生のH君の就職用小論文の添削。新聞社の面接用文章だ。おれは面接官か。 3月×日 太平山前岳を目指してひとり歩き始めたのだが、あまりの青空に背中を押され、中岳まで歩いてしまった。 3月×日 雨の日々だが土砂降りでも散歩はする。たまたま駅中書店をのぞいたら、上品そうなご婦人が雨にぬれたバッグを堂々と本の上に置き、週刊誌を物色中。よほど注意しようかと思ったが、やめた。 3月×日 「履き替えて 足のかろさよ 春の道」――友人(先輩)からメールで句が届いた。散歩の靴をスノトレからスニーカーにはきかえた雪解けの喜びが簡潔に表現されている。今週に入ってから朝晩、北に帰る白鳥たちのガーガーと汚い鳴き声がうるさい。うちの真上が白鳥の北帰行のルートなのだ。 3月×日 冬の間、窓をあけることはめったにない。今日は朝から好天、換気しようと窓をあけたとたん、くしゃみ、鼻水が止まらなくなった。これが花粉症ってやつか。 3月×日 自分の専門領域なのに意味がまったくわからない。経産省が東日本大震災復興関連予算の名目で10億円もの予算を付けた「コンテンツ緊急電子化事業」だ。東北関連出版物を電子化するなら金を出します、というプロジェクトである。主体となっているのは「出版デジタル機構」なる官民団体。「天下りと大手出版社の給料ドロボー中高年ポストの会社だろ」「単なる中抜き無駄団体じゃねーの」と喝破したのは獄中にいるホリエモンだ。あなたの本を無料で電子化してやりますヨ、なんていう国や大企業の猫なで声にはマユにツバすべきだ。 3月×日 なんだか最近いい映画や本と遭遇率が高い。真山仁『黙示』は食糧問題と農薬がテーマのエンターテインメント。杉本鉞子『武士の娘』は古典のベストセラーだ。宇野常寛『日本文化の論点』も最新若者文化論としておもしろかった。安岡章太郎の、古書店で手に入れた装丁の美しい『酒屋へ三里、豆腐屋へ二里』も早く読んでとせがんでくる。トイレには読みさしの三木成夫『内臓とこころ』。散歩の喫茶店用は中谷宇吉郎エッセイ集『雪は天からの手紙』。映画のことはあまり詳しくないが、「人生」というキーワードで検索したら『最高の人生のはじめ方』と『人生、ここにあり!』『人生はビギナーズ』の3本が目に留まり、その3本ともあたり。ロマン・ポランスキー『おとなのけんか』もよかった。日本人俳優によるブラジル映画『汚れた心』は日系移民の「負け組」を描いたもので、深い洞察力(ブラジル人の)に感動した。 3月×日 うかうかしていたら3月も終わり。時間の早さに身体がついていけない。体重は8キロの壁を突破したが、9キロの壁の前で2週間近く立ち往生。無理な食事制限や体力的負担をかけずに落とすのがテーマ、のんびりやっていこう。 |
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*ようやく雪が消えました。もうこれだけで、いわく言い難いほど「歓び」なのですが不思議なことに、春の到来とともに雪への「恨み」もスーッと消えてしまいます。長く雪国に暮らしていても、このあたりの屈折した心理は自分でも何なのかよくわかりません。
*雪をもっと恨んでもいいのですが、また冬になれば、そいつとの戦いが待っています。その時まで雪のことは考えないようにしよう、という暮らしの知恵が働いているのでしょうか。 *無料返信用ハガキは「通信不要」連絡にもお使いください。 (あ) | ![]() |