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2年程前、山登りに出かけ八甲田周辺で道に迷った。辺鄙な集落をグルグル回りながら、気がついたことがあった。道端で見かける老人たちのかなりの人たちが口髭をたくわえているのだ。一人二人ではない。たまに見かける老人たちの半分が口髭をたくわえ、眼光も鋭かった。 ある日のテレビで、あの八甲田の田舎で見かけた口髭老人たちの「原型」をみた。 どこかの街の選挙風景だった。豊臣秀吉のご落胤を自称し「羽柴秀吉」を名乗って全国各地の首長選挙にかたっぱしから立候補している御仁だった。青森訛りのきつい、眼光の鋭い人物である。 『偽書「東日流外三郡誌」事件』(新人物文庫)という本がある。和田喜八郎(故人)なる人によって書かれたといわれる「謎の古文書」の正体を丹念に暴いていくルポである。和田氏が発見したという「東日流外三郡誌」は、マンガやテレビでの見聞やインチキ超古代史本をコピペしただけの幼稚なシロモノで、和田氏は「古代史ゴロ」の詐欺師、と著者は断じている。が、こんなインチキ本と怪しげな人物に、なぜ多くの人たちが簡単にだまされ、熱狂し、論争までまき起こしたのだろうか。 その背後には「偽史を産み落とす厄介なローカリズムの存在」があった、と著者はいう。大和朝廷成立以降、東北とりわけ青森は常に征服・搾取の対象でしかなかった。朝廷によって「蝦夷征伐」のために築かれた東北地方の城柵は22カ所、その最北端が岩手の志波城と日本海側の秋田城(出羽柵)で、この2つの城柵を東西に結ぶラインが古代日本政府の最大進出範囲、つまり「日本国」の北限である。この城柵より北には城柵は築かれず、中央政府の政治権力が届かなかった。 青森になぜ中央集権が及ばなかったのか。それは「当時の中央政府がコメのとれない世界を支配するノウハウをもっていなかったから」と故・工藤雅樹氏は言う。コメを租税や年貢にする支配体制にこだわった中央政府は、狩猟と雑穀に重きを置く蝦夷に対して、まったく有効な統治システムを持てなかったのだ。 津軽人たちの血には今も「征服されたものの恨み」が流れているという。近代では奥羽越列藩同盟として朝廷の征伐の対象になり、明治政権下では良質な兵士の供給地として利用され、今も中央からの核燃料廃棄物を押しつけられる。 「戦後最大の偽書」を生み出す背景は、そうした土壌のなかにあった。 さらにトンデモ古文書の神秘性を担保していたのは三内丸山や亀ヶ岡遺跡に代表される日本でも最大級の縄文遺跡であり、恐山のイタコや哀調を帯びた津軽三味線といった「青森なら何が出てきても不思議ではない」と思わせる前近代的な空気だった。尖鋭的な古代遺跡と歴史的な後進性、このアンバランスが色濃く残っている地が青森なのである。 ちなみに、あの羽柴秀吉氏も、和田喜八郎と同じ地域の出身なのだそうだ。 |
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×月×日 3月から4月にかけて出る新刊が8点、さらにこの半年間2名の舎員がかかりっきりになっているイベント行事が大詰めで、2月中の週末はまったく休みなし。連日夜10時過ぎまでみんなが仕事している。 ×月×日 近所に肉屋さんができた。八幡平ポークを専門に扱う惣菜肉屋さんで揚げる前のコロッケやトンカツも買える。スーパーとは段違いに美味い。 ×月×日 メガネが壊れたので新しいメガネを買った。メガネ屋さんの話では、老眼は進んでいないが近視はよくなっているのだそうだ。買い換えは5年ぶり。 ×月×日 父は肥っていて酒好きだった。にもかかわらず病気らしい病気もせず87歳まで生きた。母に健康の秘密を聞くと「毎日、酢を飲みつづけていた」という。で、小生も毎朝黒酢を飲むようになった。秋田の人間は「酢嫌い」が多いのだが、酢好きの秋田県人になるつもり。 ×月×日 新しいお酒ができたばかりの酒蔵にお邪魔、新酒を呑ませてもらうのがこの時期の恒例だ。酒のつまみはいつもザルの味噌煮。ザルというのはイルカ肉のこと。今朝の新聞をみたらイルカ漁批判のアカデミー賞受賞ドキュメンタリー映画「ザ・コーブ」の話題が。実は市販されている鯨の缶詰はほとんどがイルカ肉。そのことが問題になることはない。イルカはクジラ目小型ハクジラ類だ。それはともかく友人の杜氏は「なにぬねの酒」を造りたい、という。なごむ、にっこり、ぬくむ、ねむる、のんびり――できる酒のことだそうだ。 ×月×日 よどんだ空気感を一掃するため身の回りの溜まった不用なものを捨てまくる。レコード、文具、昔のキャンプ道具、その他もろもろ。4日間かけて身辺がすっきり。 ×月×日 朝日新聞朝刊「ひと」欄に『ミラクルガール』の著者・大塚弓子さんが載った。これはうれしい。尽力してくれた書き手のO記者に感謝。 ×月×日 所用があって長野へ。1日だけ休みがあり長野市内から行ける飯綱山(1917m)に登る。快晴の中、北アルプスが黄砂の中に煙っていた。 ×月×日 伊奈かっぺいさんのラジオ番組に出るため仙台へ。かっぺいさんとは20年ぶりくらいか。で、グリーン車に乗ったのも久しぶり。さすがNHK。 ×月×日 内容は面白いのだが書名が凡庸以前、と悩んでボツ寸前の原稿があったのだが、ある瞬間、本のタイトルが閃いた。これ以上でもこれ以下でもないという究極(笑)のやつ。ほぼあきらめかけていた出版がこれで、いっきにゴーサイン。たまにはこんなこともある。 ×月×日 新聞一面下段5×10センチほどの出版広告を業界では「さんやつ」と呼ぶ。広告費は朝日新聞が最も高いのだが(ということは効果があるということ)、最近、その朝日の出稿広告の半分はあきらかに「自費出版」。自分で自分の本の広告費を出している本だ。これが続くと朝日の「さんやつ」の権威は急降下する。もう落ちてるよ、という人もいるが、いちおう出版広告の王様だからなあ。 ×月×日 4月は恐ろしい月になりそうだ。新刊がすべてこの月に集中してしまいそうなのだ。過去にも1カ月で新刊7点という記録があるが、今月はその記録にせまる勢い。どうしよう。 ×月×日 昼はもっぱら冷凍めん。仕事場で自分で作って食べる。近所に蕎麦屋さんがないから、これでガマン。最近はうまい汁もスーパーで売っているので、へんな店より満足度は高い。 ×月×日 寝室の畳が限界(ボロボロ)、フローリングの床にリフォームすることに。寝るだけの部屋だったが自分の人生でもっとも長い時間を過ごした空間でもある。リフォームで洋間に変身するのを機にステレオやテレビも書斎からこの部屋に移動。これでますます寝室で過ごす時間が増えそうだ。 ×月×日 リフォームした寝室で過ごす時間が増えた。居心地はすこぶる快適。ただしベットがあるので綿ぼこりがひどい。そこで空気清浄器をいれた。これがすごい。センサーでほこりを感知するタイプで、寝返りを打つとグゥイ〜ンと急に大きな音を立てて吸引を始める。オチオチ寝ていられない。高機能というのも、ものによりけり。 ×月×日 20年ほど前、北海道のアリス・ファームというところからロッキング・チェアーを買った。シェーカー家具と言われるもので、いまやカミさんのテレビ観賞用椅子と化し、わが書斎から消えて久しい。驚くべきことに20年たった今もまったくガタがきていない。寝室のリフォームを終えたら、またこのロッキングチェアーがほしくなった。調べると値段も20年前と同じ。はてさてどうしたものか。 ×月×日 恥ずかしいのだが「偏」がいまだによくわからない。電話注文で住所や名前を書き写す時、「のぎ」や「こざと」「りっしん」「ぎょうにんべん」と言われてもすぐには思い浮かばず、あとで辞書を引いたりするほど。偏の反対が「旁(つくり)」というのも最近覚えたばかり。ウソでしょ、と言われそうだが本当。電話注文のたびに、ちょっぴり冷や汗。でも真剣に覚えようという気は、ない。 ×月×日 ここ数カ月まとまった休みをとっていない。遠出やホテル泊が億劫だ。遠出しても夜は酒を飲むか本を読むしかない。なら家でゆっくりDVD映画、というほうに流れてしまう。居酒屋より自分でつまみを買ってきて事務所でダラダラ飲むほうが好き。旅の良さは移動中にじっくり本が読めるくらいのもの。なんとなく厭世的だなあ。 ×月×日 村上春樹はのぞいて、ここ1、2年で最も本が売れている書き手って誰? 自分の本棚から推察しただけだが、ITジャーナリストの佐々木俊尚かナ。かなり強烈なマスメディア批判なのでTVや新聞はとりあげていないが、現場感覚のある報道・言論批判やメディア未来図は彼の独壇場の感がある。 ×月×日 4年間ずっと同じ手帳を使っている。去年の今頃何をして、どんなことを考えていたか、すぐにわかる。1日1ページの手帳で、日記代わりでもある。毎日なにか書かなければならないので、とりあえずその日に食べた物を書く。これなら3日坊主にならない。去年からはそれに「うれしかったこと」を一言メモしている。これが本当に苦労するほど、ないんだよなあ。 ×月×日 膝の力が抜けるほどショック。近所の美味しいコロッケを買いに行ったら「5月から10月まで発売中止」。原材料の北海道産イモが水っぽくなる時期なので作ってもまずいから、というのが理由だ。落ち込んだ。これから10月まで暗黒の日々をおくらねばならない。 ×月×日 中学校の音楽教師をやめ、好きなチンドン屋になったAさんに原稿依頼。気持ちよく引き受けてくれた。世の中にはいろんな人がいるなァ。 ×月×日 日本農業新聞から書評執筆依頼。さっそく送られてきた『限界集落』を読み始める。東北よりも山陰や山陽地方の過疎がひどいという現実をはじめて知った。 ×月×日 ipad発売は人並みに気になり、買おうかどうしようか迷っている。日本の出版界を襲った黒船ではあるのだが、昨夜、70年前(!)につくられた「ニノチカ」という喜劇映画を観た。現代映画と言っても通用するドラマで、その美意識、人間の変わらぬ愚かさや素晴らしさが、十全に描かれている。ビリー・ワイルダーもグレタ・ガルボも過去の人ではない。70年間、なにも変わらないものも世の中にはある。 ×月×日 今朝メールボックスを開くと、ある新刊の注文が全国各地から入っていた。あれっ、どこかに書評出たんだっけ? と考えても思い当たる節はない。最近こんなことが多くなった。ツイッタ―である。誰かがうちの本のことをつぶやき、それが思いもかけない速さで全国に伝わっていく。すごいなあとは思うが自分はやらないだろうな、たぶん。 ×月×日 週末は太平山系の最高峰・白子森へ。昨秋から登山道が整備された。で、2日たった今も筋肉痛で歩くのもままならない。それほどハードな山歩き。県内の急登といえば神室山、丁岳が有名。でもこの2つを登った後には筋肉痛のきの字もなかった。それが白子森では階段の上り下りも苦痛なほど。個人的に急登秋田一の栄誉を白子森に差し上げたい。 ×月×日 事務所のクーラーが新しくなり、コピー機も新品。これで1カ月以上つづいたリフォーム工事は終了。クーラーはもう限界だったが、コピー機は3年前に換えたばかり。リースなので買い換えるたびに使用料が安くなるのだ。どういうカラクリになってるの。 ×月×日 著者の年齢だけでなく、読者層の若返りも顕著で、その対応に戸惑うことばかり。このところの新刊をみればわかるように、とにかく30代の著者、40代の読者が増えているのだ。自分でも理由はよくわからない。 ×月×日 よく理解できない現象が最近は多い。たとえば大手新聞の秋田版に本の紹介が載る。新聞の影響力はほとんどないから本は1冊も売れない。がその記事がネット上にニュースで再録されると事情は一転する。個人注文がネットで集中するのだ。書店抜きのダイレクト。いやはや何だか恐ろしい世の中になってきた。 |
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春から夏のこの約3ヵ月間、ここ数年来なかったほど多忙でした。「忙しい」という言葉を使いたがる人は嫌いなのですが、本当に忙しい3ヵ月間で、1年の半分の本を、この時期に出してしまいました。
お詫びです。前回、刊行をお知らせした『秋田県満州開拓団外史』の刊行が、この6月末に延びました。出る出ると予告ばかりだった大著『イザベラ・バード』も遅れに遅れ、今秋の刊行になります。 「トメアス―紀行」のHP連載も狼少年です。 若いころは「東京にはすべてがある」と思っていましたが、いまは「ここに望む全てがある」と思っています。年をとったんですネ。(あ) | ![]() |