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年が明けて早々、2週間ほどブラジル・アマゾンを旅してきました。ブラジルは8回目、アマゾン(トメアス)は5度目なのですが、日本人が入植した村を定点観測するのが旅の目的です。これは20代後半からはじめた個人的な仕事なのですが、当方ももう還暦。いつまでも定点観測はないだろう、という自分の声に背を押され、重い腰を上げた次第です。
トメアスという村は、アマゾン川河口の最大都市ベレンから北東へ200余キロ、昔は小さな船でしか行けなかった「陸の孤島」でした。昭和初期にここに入植した日本人が、マラリアによる多数の死者や脱耕者を出しながら、戦後、ピメンタ(胡椒)栽培で大成功、いっときは世界から「移民天国」とまで言われた歴史を持つ「日本人のつくった村」です。現在200家族1200人ほどの日系人が暮らしているのですが、その多くの人たちとは知り合いです。 今回は、森林破壊に与しない世界でも先験的な農業として注目されているアグロ・フォレストリー(森林複合農業)を取材してきました。森を破壊するのではなく再生しながら農業を成り立たせる、樹木と果樹を同じ畑で混在させながら同時に森も育てる、という試みです。 ブラジルが好景気に沸いた1970年代、都市部(リオやサンパウロ)の白人の金持ちたちは金にあかせてアマゾンの原生林を徹底的に焼きつくしました。牧場や製材業のためです。その山焼きのすさまじさは私自身も行くたびに目撃しショックを受けたものです。世界で最悪の環境破壊としてアマゾンの山焼きは世界から批判されると、ブラジル政府は牧場主や製材業者への監視を強め、やむなく撤退した彼らの土地に、デンデ椰子を植えはじめます。 サトウキビからアルコールを生成しガソリンに混ぜるバイオ燃料先進国ブラジルでは、ディーゼル・エンジンにも5パーセントのバイオ燃料混合を義務づけました。それにともなって原料となるデンデ椰子(この樹から油をとる)の作付面積を一挙に増やす必要があり、その栽培地としてトメアスに白羽の矢が立ったのです。牧場や製材のため焼き払われた土地には、いまほとんどデンデ椰子が植えられていました。たぶん5年後、この村を訪ねると景色は一変していることでしょう。デンデ椰子一色のアマゾンの村、と言うのも興ざめなのですが……。 それはともかく2週間、大きな問題もなく旅を終えることができました。肉や辛い物、強い酒(ピンガ)を極力避け、サラダと果実中心の食生活で健康に気を配った結果です。山歩きで身に付けた荷物のパッキング、衣類の重ね着、ヘッドランプやザック利用など、山の装備や経験がずいぶん役立ちました。山の仲間たちに深く感謝したくなったほどです。 今回のアマゾン旅行は3月から小舎HPで『トメアス紀行』というタイトルで連載する予定です。ご笑覧ください。 |
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×月×日 事務所にこもっていると、後向きの考えばかり。週末は思い切って外に出て、頭の中の雑念を振り払う。年をとっても人って進歩しない。ずっと同じことの繰り返しだ。 ×月×日 夜中に猛烈な吐き気。朝方まで体調が悪い。休んでも構わないのだが、これがオーナー企業の不思議さ。この30余年で休んだのは数えるほどしかない。誰も怒らないのに。いや怒られないから出舎するんだろうな、たぶん。 ×月×日 夜の散歩が楽しい。散歩の間ずっと「今度出す本がベストセラーになって大金持ちになったら、何にお金を使おうか」と考えている。毎夜、前日の大金持ちシュミレーションに若干の変更を加え、儲かったお金の使い方の優先順位を入れ替える。想像はどんどん膨らみ、あっという間に家に到着する。1時間20分は短い。 ×月×日 毎日新聞日曜読書欄に「検証 秋田連続児童殺人事件」の長い書評がでた。江戸文化研究家の田中優子さんが書いてくれたもの。これが抜群にいい書評で一日中うれしい。 ×月×日 久しぶりに仕事をさぼって駅前シネコンで映画「プール」。そのシネコンの入っているビル通路で女子高生2人が「ハズいね」などと言いながら、通路に座り込んでパンを食べていた。彼女らも家では「オヤジ臭い」などとホザくのだろうが、県内で最も利用率の高い駅ビルトイレ前に座る娘たちに、そんなこと、言われたくない。映画は面白くなかった。「かもめ食堂」「めがね」ときて、これかァ? ×月×日 冬のDM(ダイレクトメール)発送が終わり一息。でも外での飲食は体重を減らさなければならないのでご法度。資金繰りやボーナス、来年度の刊行計画、事務所の営繕補修、在庫処分など、やることは沢山ある。なるほど「師走」という言葉はダテじゃない。 ×月×日 旅行用の歯磨き粉、もらったタオルや洗剤類、乾物やたまったノートやバック、いつか使おうと机にしまったままの文具や革製品……こうしたものを最近積極的に使用している。死ぬまで使わないだろうな、と思っていたのだが再利用に目覚めたのだ。 ×月×日 大きな会社や公的建造物の応接室に通されると立派な絵画が掛けられている。高価そうなものだが、絵の位置がおかしい、といつも思う。鑑賞者の目線より高い場所に飾られているケースがほとんどだ。余計なお世話か。 ×月×日 先日、友人に誘われて繁華街にあるクラブへ。ドレスを着た女性が7、8人いる高級バーだ。こういう場所は苦手だ。江戸時代にも若い女性が接客するクラブのような場所があるのを映画で知った。山中貞雄の名作「丹下左膳 百万両の壺」という映画の舞台が射的屋で、まさにクラブそのもの。 ×月×日 よほどの寒さでない限りズボン下をはかずに生きてきたが、今年からは、寄る年波に勝てず、ほぼ常用中。ユニクロのヒートテック、これがすこぶる暖かい。 ×月×日 このところ仕事場では武満徹CD全集を聴いている。もっぱら全集第3巻「映画音楽」を聴いているのだが、日本映画の黄金時代の映画音楽はほとんどこの人一人で手掛けている、という印象。天才ですね、やっぱり。 ×月×日 クリスマスコンサートなるものに初めて出かけた。横手の塩田明子さんという歌手のミニコンサート。アットホームな雰囲気でなかなか。数日前にはカミさんに勧められて東成瀬村出身のオペラ歌手・長谷川留美子さんのコンサートにも。秋田県南部は全国区のオペラ歌手を多く輩出している地域。湯沢市の音楽教育の成果なのだそうだ。 ×月×日 中島梓の『転移』を読み、この作家の本を次々と読みだす。実は秋田市出身の30歳の若いガン患者の女性の手記(大塚弓子著『ミラクルガール』)を1月刊行予定。参考資料として読み始めたのだが、面白くて(というのは失礼だな)やめられなくなった。 ×月×日 来年早々、外国に行く予定。そこでトラベラーズ・チェックを買いに銀行へ。ところがここ数年で地方銀行はTCの扱いを中止したとのこと。不景気だからだ。これが地方に住む現実。ネットが地球を小さくした、なんて寝言ですヨ。 ×月×日 お正月休みとはいっても、けっこう忙しい。事務所にいると、特に午前中は宅配や郵便屋さん、カレンダーやお歳暮を持参する業者など、来客がひっきりなし。一人なのでフーフーいいながら階段を昇降。いい運動にはなる。 ×月×日 明けましておめでとうございます。今年もよろしく。なんとかふんばって新しい年を乗り越えたいと思っていますので、お見捨てなく。 ×月×日 仕事始め。若干寝不足。さあ仕事だ、と思うとどこかにストレスや緊張がはりだしてくる。。もう40年近く同じような仕事をしているのに、身体はとても正直だ。 ×月×日 同じころ同い年で長野県で出版をはじめたTさんから電話。新年のあいさつではなく、「会社を閉じた」という連絡。Tさんがいなくなると地方出版では私たちがほぼ「筆頭古株」になってしまう。先輩の津軽書房や葦書房の創業者は疾うに逝ってしまった。長く続けても着地点はどんどん視界不明瞭、辞められる人は羨ましい。 ×月×日 友人と2人、悪天候の中、田沢湖スキー場へ。3時間半ほど滑りまくる。すぐ飽きてしまう以前からは一皮むけ、スキーががぜん面白くなった。 ×月×日 1日に2回、家の玄関前の雪かきが日課だ。腕力はからっきし弱いので、これは腕力トレーニングや体力保持にけっこう役立っている。シジフォスのような「徒労」は昔からそう嫌いではない。 ×月×日 浅川マキさんが亡くなった。彼女の秋田公演は3度か4度に及んだはず。事前や事後の打ち合わせも会わせると何十回となく会っているはず。夜中の長電話には閉口したが、いまはそれもいい思い出。合掌。 ×月×日 ブラジルへ。移民調査なのだが一人っきりの2週間の旅。宇都宮に一泊、その快晴にまずは驚く。国内でびっくりしてどうする。翌日成田からニューヨーク経由で24時間かけサンパウロへ。そこで2泊、いよいよアマゾンの入り口ベレンへ向かう。 ×月×日 雨季に入ったせいかベレンは曇り空で涼しいほど。ベレンを素通りし、友人の二世S君の運転で200キロ先の目的地トメアスへ。昔と違って道路が良くなり約3時間で到着。昔は11時間もかけてバスで通った道だ。トメアスでは日系人が経営する加藤旅館に旅装を解く。以前はこんな宿はなかったから、助かる。 ×月×日 朝から精力的に取材開始。小さな村なので、ほとんどの日系人と顔見知り。なにせこの村を訪ねるのは5度目だ。しかし身体が冬モードのまま、宿でシャワーを浴びるのが辛い。水(お湯が出ない)が冷たくて身体が怖がってしまうのだ。 ×月×日 6日間、トメアスでびっしり取材。ベレンへ戻る。ベレンで1泊、翌日サンパウロへ。ここで実は1時間の国内時差、かつサンパウロはサマータイムで1時間早めの時間システムをとっている。同じ国内でもベレンやブラジリアはサマータイムを採用していない。というわけで機内で現在時間が分からなくなる。ブラジリアでのトランジットで混乱、危うく飛行機に乗り遅れそうになった。 ×月×日 サンパウロには、たくさん友人がいる。毎日入れ替わり立ち替わり、いろんなところに案内や食事の誘い。楽しかったのはイビラプエラ公園での早朝ウォーキング。景色はセントラルパーク、人の多さは原宿の歩行者天国。「三歩今日」としてはこたえられない。 ×月×日 あっという間に帰国の日。ダラス経由で、これまた2日間かかって成田へ。飛行機が4時間遅れ、その日は仙台泊まり。仙台も雪でびっくり。翌朝、寒さモードに少し慣れて秋田へ。秋田は行き同様、猛吹雪。「緑の地獄」ならぬ「白い地獄」という言葉が思わず浮かび、足がすくんだ。寒い。 ×月×日 2週間ぶりの秋田は雪雪雪。秋田の「白い地獄」のほうが「緑の地獄」よかよっぽど迫力がある。もうアマゾンで原生林を探すのは至難の業。 ×月×日 朝ごはんがやけにうまい。飛行機の中の食事が計3昼夜。あの機内食のまずさだけはもうゴメンだ。こんなに朝ごはんがうまいのは、あの機内食の後遺症だろうナ。 ×月×日 立松和平さんに続いて玉置宏さんの訃報。「日曜喫茶室」というNHKのラジオ番組でご一緒したことがある。格の違い過ぎるゲストで恐縮したのだが、気さくに声をかけていただいた。洋泉社の石井慎二さんも鬼籍に。元宝島編集長で、小生に編集のイロハを教えてくれた恩人。合掌。 ×月×日 森吉雪山登山。山頂は零下10度の猛吹雪。下山途中から快晴になり美しい山容や樹氷を堪能。最近、夏山より冬山のほうが好きになりそうで怖い。それにしても1週間前まで40度のアマゾンをうろついていたのに、温度差50度の世界にいる自分がフシギ。 |
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というわけで春号はなんだかブラジル・アマゾン特集になってしまいました。今回の旅については「トメアス紀行」というタイトルで、3月早々から無明舎出版のHPで短期集中連載を予定しています。
ご承知のように出版を取り巻く状況は厳しく辛いものがあります。小舎も必死のやせ我慢で、生き延びてはいますが、皆様のご支援が頼りです。かわらぬご愛顧をお願い申し上げます。 春号は新刊が多く、編集するこちら側も、うれしくて心躍ります。こんな時代に、好きな本をつくれることを幸せに思います。(あ) | ![]() |
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