●年頭のご挨拶
 明けましておめでとうございます。
 例年通り今年も年賀状は出しませんでしたので、この場を借りて新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 昨年は小舎にとって大きな節目となるような出来事が少なくなかった1年でした。
 業績上の変化や売上げ等は例年並で、数字上で大きな変化は見られなかったのですが、東京事務所の開設、ISO認証取得、その支払い費用の無計画性、中長期展望の甘さなどから弱点をもろに露呈し、特に秋から冬にかけ閉塞感や不安感にさいなまれました。
 くわえて、出版業界の不況感は年々強くなるばかりで、昨年度もその傾向に歯止めはかかりませんでした。とにかく時間がたつにつれ本はどんどん売れなくなっている、というのが現実です。私たちは、東北という一地域にテーマや営業を絞り込んだ仕事をしている関係で、出版業界全体の不況感からはある程度距離を置ける立場にいたつもりでしたが、ここにきて出版界の「悲痛なうめき声」がリアルに私たちの身近にも押し寄せてきているのを実感しています。単純で身も蓋もない言い方ですが今年の私たちの目標は、「本(地方出版)に未来はあるのか?」 「本を売るとはどういうことなのか?」 という活動(原点)にたちかえることのような気がします。

 とはいっても今年は確実に昨年よりは忙しく出版点数も多い年になるのは間違いありません。この時代に忙しいことはありがたいことですが、小舎に関してはそう単純でもありません。なぜなら今年は2名の人間が戦線から離脱するからです。一人は妊娠出産のため休業、一人は55歳を期に次の人生へと旅立つため退職します。四人の舎員と二人の嘱託の計六人のうち、舎員と嘱託がともに一名ずついなくなるわけです。これは舎はじまって以来の危機的な状況ですが、私自身は新人補強(新規雇用)をしないつもりです。
 無明舎出版はその初期から比べると、売上げは約100倍、仕事量(数量化は難しいが刊行点数その他で)は約5倍強になっています。しかしこの30年間、働いている人間の数は常に4人プラス数名のアルバイトという基本線は変わっていません。実質的な「ダウンサイジング」をこの30年間実践してきたわけです。「人をふやさない」「個々の能力を高めていけば増員の必要ない」「スモールビジネス・モア・ハピネス」ということが事業活動のベースになる理念なのです。その意味で、舎員の高齢化のなかで戦力ダウンにみあった個々の能力アップがどこまで可能なのか、というのが今年の一番の課題になりそうです。

 個人的には、あいも変わらず大切なキーワードは「健康」だと思っています。
 企業には予測のできない事故や事件が待ち受けています。どんな困難も、そこから立ち上がるために必要なのは最低限「体力」です。新人を採らずに年々ロートルになっていくばかりの「下り坂」地方出版社にとって、実は「健康」こそが未来に夢を託すことのできる唯一の武器といって過言ではないのです。昨年から健康診断を年2回に増やしました。舎員の福利厚生も「健康」を軸にしたものに大きく舵を切るつもりです。
 「若さや能力がなくても健康さえあれば、なんとかなるさ」というのがローカル出版社を30年率いてきた私の、情けなくも確固とした信念と呼べるものです。
 昨年、突然東京事務所を作っことに唐突な感を持たれた方もおられるようでしたが,これもいわば健康のコインの表裏にある考えによるものです。
 「身体は健康がいいが、精神は不健康でなければ想像力は枯渇する」という私の考えに基づき、東京で積極的に最新・上質の表現活動に触れ、有能な人物や未来の著者たちに会うためです。そこで得た刺激で常に「精神を不健康」にしておかないと時代に置かれ、流され、捨てられてしまいます。秋田でフィットネスジムに足しげく通い規則正しい健康な生活を心がけ、東京では一転、毎日のように街をうろつき、人と会い、時に暴飲暴食をする、この相反する2つの暮らしが編集者としても正常なバランスをもたらしてくれる、と信じているのです。まだ1年しかたっていませんが,おおむねその目論見は外れてはいないようで、いまの2重生活にはそこそこ満足しています。

 私たち無明舎の舎員は、みんなが昭和20年代に生まれた、団塊の世代といわれる人間が集まって作った組織です。この年代の人たちの多くは今、社会での役割を終えつつあり、個人的にも老親の介護や、自らの行く末に大きな不安を抱えている世代です。どこに行っても「健康問題」「老親介護」「定年後の不安」「妻の更年期問題」といった話題に花が咲きます。私個人だけでなく私どもの会社も、この世代的な問題から抜け出ることができません。わが舎は個人の問題がそのまま会社の問題と重なっているからです。世代問題を新人補強や若手登用でカヴァーできない(しない)特殊な事情のためです。昔のようにスピーディな仕事はできないし、徹夜をする体力もありません。頭は柔軟ではないし、これ以上新しいことを覚えるのは大変です。それでもこうした環境(事情)と向き合いながら仕事や暮らしの優先順位を決めていかなければなりません。
 「ダウンサイジング」や「スモールビジネス・モア・ハピネス」という事業の理念に変わりはありませんが、これからは、仕事の利益より生活上の問題中心の活動に変化していかざるを得ない局面が増えるのは間違いないと思います。
 おかげさまで年々、仕事は増えていく一方ですが、その仕事をセーブしながら「量より質」「経済より家庭」といった高齢化を抱えて着地点に向かわざるをえない、というのが2004年初頭の私の漠とした予感というか雑感です。

 どうにも、わけのわからないご挨拶になってしまいましたが、今年もどうぞお見捨てなく、ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
(安倍 甲)


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